第98話 飛空船アルカディア
『――おかえりなさい、マスター』
静寂。
全員の視線が、ヒオリとペケへ向く。
「……え?」
「……何だこれは」
二人とも本気で困惑していた。
◇◇◇
「いやいやいや」
アイリスが慌てる。
「何その反応!?」
「知らない」
ヒオリが即答する。
「俺もだ」
ペケも真顔だった。
本当に知らない。
◇◇◇
だが。
《アルカディア》は止まらなかった。
『第一認証確認』
『星霊適合率・最高値』
『灰銀適合率・最高値』
『歌姫同期反応確認』
船全体へ光が走る。
風が吹く。
長い年月眠っていた巨大飛空船が、ゆっくり目覚めていく。
◇◇◇
「……凄い」
ヒオリが呆然と呟く。
飛空船表面へ、無数の古代文字が浮かんでいた。
まるで。
船そのものが生きているみたいだった。
◇◇◇
「中、入れるみたいだな」
レートが入口を見る。
開かれた巨大扉。
暗い通路。
だが。
不思議と恐怖は無かった。
◇◇◇
「行くぞ」
ペケが先頭へ立つ。
「え、待って普通に入るの!?」
「ここまで来て帰るのか」
「帰らないけど!」
ヒオリが慌てて追い掛ける。
その後ろを皆が続いた。
◇◇◇
飛空船内部。
そこは、まるで別世界だった。
「うわぁ……」
アイリスが目を輝かせる。
白銀通路。
浮遊する光球。
天井を流れる魔力回路。
古代文明。
そんな言葉がぴったりだった。
◇◇◇
「信じられない……」
セオドアが壁へ触れる。
「この技術、現代じゃ再現不可能だぞ」
すると。
アステリアが静かに言う。
「《アルカディア》は特別だから」
「特別?」
「昔、“世界を繋ぐ船”って呼ばれてた」
その言葉に。
ヒオリの胸が少しざわついた。
◇◇◇
その時だった。
通路奥へ、光が集まり始める。
「……っ」
全員が身構える。
だが。
現れたのは敵ではなかった。
◇◇◇
一人の少女。
半透明。
淡い青白い光で出来ている。
年齢は十五ほど。
銀髪。
眠そうな瞳。
そして。
どこか機械的な雰囲気。
◇◇◇
『……起動確認』
少女が小さく呟く。
『船体管理人格ユニット《ノア》』
静寂。
「……人格?」
ヒオリが瞬く。
すると。
少女――ノアは、ゆっくりヒオリを見る。
『星霊マスター確認』
「マスターじゃないよ!?」
『灰銀マスター確認』
「違う」
今度はペケが否定した。
ノアが少し首を傾げる。
『……おかしい』
「そっち?」
◇◇◇
その時。
ルナが、小さく目を見開いた。
『ノア……?』
ノアが振り返る。
数秒。
停止。
『……海の歌姫』
その瞬間。
ルナの瞳が大きく揺れる。
『知ってるの?』
『旧管理権限保有者』
静寂。
「え?」
全員固まる。
◇◇◇
「待て待て待て」
レートが頭を抱える。
「情報量多すぎる」
「ルナちゃん昔何者!?」
アイリスも混乱していた。
すると。
ルナ本人が一番困っていた。
『……分かんない』
「可愛い顔でとんでもないこと言ったな」
◇◇◇
一方その頃――
天空群島。
空の崩壊は加速していた。
浮遊島が落ちる。
空が裂ける。
そして。
巨大水晶は、もう限界だった。
パキ――
巨大な亀裂。
黄金眼が完全に開く。
◇◇◇
『星霊』
低い声。
空全域へ響く。
『来い』
その瞬間。
空そのものが、巨大に脈動した。
◇◇◇
《アルカディア》内部。
ノアが突然顔を上げる。
『……緊急事態』
光が赤く変わる。
船内警報。
ゴォォォン――!!
「っ!?」
ヒオリ達が振り返る。
◇◇◇
『天空群島崩壊率四二%到達』
『《天穹門アストラ・ゲート》侵食拡大中』
『推定残存猶予――』
静寂。
そして。
ノアが静かに告げた。
『七日未満』
空気が凍った。
空が落ちるまで。
あと、一週間も無かった。




