第97話 忘れられた空港湾
翌朝。
マレフィス王国西方。
海沿いの断崖地帯。
ヒオリ達は、古びた街道を進んでいた。
◇◇◇
「本当にこんな場所にあるの?」
ヒオリが辺りを見回す。
霧。
崩れた石畳。
誰も居ない廃墟。
正直、港があるようには見えない。
「ある」
アステリアが静かに頷く。
「昔は、空と海を繋ぐ場所だったから」
その言葉に。
ルナが少しだけ寂しそうな顔をした。
◇◇◇
「空と海、か」
リツが空を見上げる。
「昔は仲良かったんだな」
『うん』
ルナが頷く。
『歌も、昔は一緒だった』
静かな声。
その時。
ヒオリの星痕が、小さく反応した。
まるで。
その時代を知っているみたいに。
◇◇◇
すると。
先頭を歩いていたペケが立ち止まる。
「……見えた」
全員が顔を上げた。
◇◇◇
霧の先。
巨大な建造物が姿を現す。
白い塔。
崩れた滑走路。
空へ伸びる巨大桟橋。
そして。
中央へ停泊している、一隻の巨大船。
「……っ」
ヒオリが息を呑む。
◇◇◇
飛空船だった。
だが。
普通の船じゃない。
船体は白銀。
翼みたいな側面装甲。
船底には巨大魔法陣。
まるで。
“空を泳ぐ生き物”みたいだった。
◇◇◇
「《アルカディア》……」
アステリアが小さく呟く。
その瞬間。
船全体へ、淡い光が走った。
◇◇◇
「え?」
ヒオリが目を丸くする。
すると。
飛空船中央部へ刻まれた紋章が輝き始めた。
星。
歌。
そして。
灰銀。
「またこの組み合わせ!?」
アイリスが叫ぶ。
全員同じこと思っていた。
◇◇◇
その時だった。
ゴォォォォン――。
飛空船が、“勝手に起動”した。
「なっ!?」
崩れていた港全体へ光が走る。
停止していた魔導炉が動き始める。
風。
光。
空気が震える。
◇◇◇
「……嘘」
アステリアが呆然とする。
「自動起動なんて……」
すると。
ペケが静かにヒオリを見る。
「触ったか?」
「触ってないよ!?」
でも。
星痕はめちゃくちゃ光っていた。
犯人扱いされている。
◇◇◇
一方その頃――。
王立アルカディア学院。
学院長室。
「ほぉ」
学院長エルグランが、空を見上げていた。
その隣。
一人の女性教師が立っている。
長い黒髪。
眼鏡。
知的な雰囲気。
「《アルカディア》が起動しましたか」
女性教師が静かに呟く。
「ああ」
学院長が笑う。
「やはり、あの子達か」
◇◇◇
「行かれるのですか?」
女性教師が聞く。
すると。
学院長は楽しそうに笑った。
「もちろん」
その瞬間。
老学院長の周囲へ、とんでもない魔力が漏れた。
「空の授業も必要だからな」
その笑顔に。
女性教師が少しだけ同情した。
「……生徒達が大変そうですね」
◇◇◇
一方その頃――。
天空群島。
空の崩壊はさらに進んでいた。
浮遊島が落ちる。
神殿が崩れる。
悲鳴。
混乱。
そして。
巨大水晶内部。
黄金眼の存在が、ゆっくり笑う。
『来る』
巨大な翼が動く。
『星霊が来る』
その声には。
期待が混ざっていた。
◇◇◇
忘れられた空港湾。
《アルカディア》の前。
ヒオリ達は、呆然と巨大飛空船を見上げていた。
その時だった。
船中央部へ、一筋の光が降りる。
そして。
誰も触れていないはずなのに。
飛空船入口が、ゆっくり開いた。
ゴゴゴゴ――。
暗い内部。
その奥から。
“誰かの声”が響く。
『――認証完了』
機械音声。
だが。
どこか優しい声。
『星霊反応確認』
『灰銀反応確認』
『歌姫反応確認』
静寂。
そして。
最後に、その声が告げた。
『――おかえりなさい、マスター』
全員の視線が。
一斉にヒオリとペケへ向いた。
「……え?」
「……何だこれは」
二人だけが、本気で困惑していた。




