第95話 空の歌姫
「空を、助けて」
少女――アステリアの声は震えていた。
その金色の瞳には涙が浮かんでいる。
まるで。
ルナと初めて会った時みたいだった。
◇◇◇
「とりあえず医務室!」
ヒオリが即座に言う。
「でも!」
アステリアが慌てる。
「時間が――」
「その前に倒れそう」
ヒオリが真顔で言った。
アステリアが固まる。
確かに。
今にも倒れそうだった。
◇◇◇
数十分後。
王城医務室。
アステリアはベッドへ座っていた。
ルナ。
ヒオリ。
ペケ。
ガブ。
リツ。
主要メンバーが集まっている。
◇◇◇
「まず自己紹介からだな」
ペケが静かに言う。
すると。
少女は少し背筋を伸ばした。
「アステリア・エル=アストラ」
白銀髪が揺れる。
「天空群島アストラル・スカイ神殿所属」
「空の歌姫です」
静寂。
レートが呟く。
「本当に居たんだ」
「そこ?」
アイリスが突っ込んだ。
◇◇◇
すると。
アステリアの視線がルナへ向く。
「……ルナ」
『久しぶり』
静かな声。
二人は見つめ合う。
何百年も会っていなかった者同士みたいに。
「生きてたんだ」
『そっちこそ』
その瞬間。
全員の頭上へ疑問符が浮かぶ。
「知り合い?」
ヒオリが聞く。
ルナとアステリアは同時に頷いた。
◇◇◇
「昔」
アステリアが静かに語り始める。
「空と海は一つだったんです」
静寂。
「は?」
セオドアが固まる。
「いや待て」
「空と海が?」
「一つ?」
当然の反応だった。
◇◇◇
「ずっと昔」
アステリアが続ける。
「星録の時代」
その単語に。
ルナが小さく反応する。
「世界には四つの門がありました」
「海」
「空」
「大地」
「星」
空気が変わった。
◇◇◇
ヒオリの星痕が脈打つ。
ペケも眉を寄せた。
今の話は。
偶然ではない。
◇◇◇
「深海門は閉じた」
アステリアが言う。
「だから次は空です」
「空門」
ルナが小さく呟く。
「まさか本当に……」
「始まった」
アステリアの顔色が悪くなる。
◇◇◇
「空神門」
「正式名称《天穹門アストラ・ゲート》」
その瞬間。
部屋の空気が重くなった。
◇◇◇
「そこに封印されているのが」
アステリアが震える。
「空喰いの王」
◇◇◇
一方その頃――
天空群島アストラル・スカイ。
崩壊が続いていた。
浮遊島が落ちる。
雲海へ沈む。
悲鳴。
混乱。
避難。
空の民達は逃げ惑っていた。
◇◇◇
そして。
神殿最奥。
巨大な水晶がさらに砕ける。
パキ――
黄金眼が開く。
巨大な翼が動く。
『星霊』
低い声。
『歌姫』
世界が震える。
『今度こそ』
その翼が少しだけ広がる。
その瞬間。
空全域の雲が割れた。
◇◇◇
王城医務室。
アステリアが震える。
「急がないと」
金色の瞳がヒオリを見る。
「空が落ちます」
静寂。
全員が息を呑む。
そして。
ペケが静かに立ち上がった。
「状況は分かった」
灰銀の瞳が細まる。
「なら助けに行くぞ」
あまりにも自然な一言。
その瞬間。
ガブが頭を抱えた。
「兄上ぇ……」
また始まった。
そんな顔だった。
後ろでルナが少しだけ笑う。
ヒオリも苦笑した。
だが。
アステリアだけは呆然としていた。
「……え?」
「助けるんですか?」
その問いに。
ヒオリが当たり前みたいに答える。
「うん」
「だって」
蒼い瞳が優しく笑う。
「助けてって言ったでしょ?」
その瞬間。
アステリアの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。




