第94話 落ちてきた少女
翌朝。
マレフィス王城。
中庭は珍しく騒がしかった。
◇◇◇
「ルナちゃん!!」
「待ってぇぇぇ!!」
アイリスが全力で追い掛ける。
『やだ!!』
ルナも全力で逃げていた。
「何で逃げるの!?」
『着替えたくない!!』
「可愛い服あるのに!!」
『昨日三回も着せ替えられた!!』
完全に学習していた。
◇◇◇
「平和だな」
テラスで見ていたレートが呟く。
「本当にな」
セオドアも苦笑する。
深海災厄。
封海門。
国家級事件。
全部終わった直後とは思えない。
その時だった。
空が光る。
◇◇◇
「……ん?」
最初に気付いたのはルナだった。
足を止める。
空を見る。
青空。
雲。
そして――
白い光。
『……え』
ルナの顔色が変わった。
◇◇◇
次の瞬間。
ドォォォォォン――!!
巨大な何かが、王城外森林へ落下した。
「なっ!?」
「敵襲か!?」
騎士達が動く。
警報が鳴る。
王城全体が騒然となった。
◇◇◇
一方その頃――。
訓練場。
ペケが剣を振っていた。
だが。
落下音と同時に動きを止める。
「……来たか」
その表情に驚きは無い。
予想通り。
そんな顔だった。
◇◇◇
数分後。
ヒオリ達は落下地点へ向かっていた。
王城騎士団。
海兵。
護衛。
かなりの人数だ。
そして。
森林中央。
巨大なクレーターが出来ていた。
「……凄い」
ヒオリが息を呑む。
木々が薙ぎ倒されている。
だが。
その中心に居たのは――
一人の少女だった。
◇◇◇
白銀髪。
金色の瞳。
年齢はヒオリと同じくらい。
そして。
背中には、純白の翼。
「……天使?」
アイリスが呟く。
すると。
ルナが震えた。
『アステリア……』
静寂。
全員が振り返る。
「知ってるの?」
ヒオリが聞く。
ルナは青い顔で頷いた。
『空の歌姫』
『天空神殿の巫女』
『わたしと同じ……』
その瞬間。
空気が変わった。
深海の歌姫。
空の歌姫。
偶然とは思えない。
◇◇◇
その時だった。
「う……」
少女が目を覚ます。
金色の瞳が開く。
そして。
最初に見たのは――
ヒオリだった。
「大丈夫!?」
ヒオリが駆け寄る。
少女は呆然とヒオリを見る。
数秒。
沈黙。
そして。
次の瞬間。
少女が泣きそうな顔になった。
「見つけた……」
「え?」
「やっと……見つけた……」
ヒオリが困惑する。
すると。
少女は震える手を伸ばした。
「お願い……」
金色の瞳から涙が零れる。
「空を、助けて」
◇◇◇
一方その頃――。
天空群島。
最奥神殿。
巨大な空色水晶。
その表面へ、さらに大きな亀裂が走っていた。
パキ――。
パキパキパキ――。
そして。
内部の黄金眼が、ゆっくり開く。
『見つけたか』
低い声。
空全体が震える。
『ならば、もう隠れる必要も無い』
その瞬間。
天空群島の一つが崩壊した。
轟音。
悲鳴。
崩れ落ちる島。
そして。
雲海の下へ消えていく大地。
◇◇◇
マレフィス王国。
落下地点。
アステリアは震えながらヒオリの服を掴んでいた。
「来る……」
「え?」
「もう来る」
その瞬間。
ヒオリの星痕が脈打つ。
ルナの歌姫紋章も反応する。
そして。
遥か空の彼方で。
巨大な影が、ゆっくり翼を広げた。
まるで世界そのものを覆うように。




