第93話 空からの声
夜。
マレフィス王城屋上。
ヒオリは一人、空を見上げていた。
星空。
海風。
静かな時間。
だが。
さっき見たものが頭から離れない。
『――見つけた』
少女の声。
そして。
雲海の遥か上に浮かんでいた巨大な影。
「……何だったんだろう」
ヒオリが小さく呟く。
その瞬間。
背後から声がした。
「また何か見たのか」
振り返る。
ペケだった。
◇◇◇
「ぺけ」
「顔見れば分かる」
即答だった。
ヒオリが苦笑する。
最近本当に隠せない。
すると。
ペケも隣へ立った。
「今度は何だ」
「空」
静寂。
「空?」
「うん」
ヒオリが夜空を指差す。
「女の子の声が聞こえた」
「……」
「あと、浮遊島みたいなのも」
その瞬間。
ペケの瞳が僅かに細くなる。
だが。
驚きは無かった。
むしろ。
予想していたみたいだった。
「やっぱり来たか」
「え?」
「次の災厄だ」
低い声。
夜風が吹く。
「深海が終わったなら、次は空だ」
◇◇◇
一方その頃――。
空。
雲海より遥か上。
そこには。
誰も知らない世界が存在していた。
白い雲。
青空。
そして。
空へ浮かぶ無数の島々。
天空群島。
◇◇◇
その中心。
巨大な神殿。
そこで一人の少女が空を見上げていた。
白銀髪。
金色の瞳。
年齢は十六ほど。
背中には、小さな光翼。
『……見つけた』
少女が微笑む。
その視線は。
遥か下。
地上を向いていた。
『今代の星霊』
その時。
神殿全体が大きく揺れる。
ゴォォォォン――。
少女の笑顔が消えた。
◇◇◇
神殿最奥。
巨大な空色水晶。
その内部に、“何か”が眠っている。
巨大な影。
翼。
黄金の瞳。
そして。
空そのものを閉じ込めたような魔力。
『……まだ』
低い声。
誰も居ないはずなのに。
確かに響く。
『まだ足りぬ』
その瞬間。
水晶表面へ、巨大な亀裂が走った。
◇◇◇
一方その頃――。
ヴァルディア帝国。
ガブの部屋。
「兄上達また面倒事に巻き込まれるのかなぁ……」
新聞を読みながら呟く。
すると。
ミーチーが紅茶を置いた。
「九割そうなると思います」
「だよね」
即答だった。
ガブが遠い目になる。
「もう兄上が平和に帰ってくる未来が見えない」
「私もです」
ミーチーも頷いた。
完全に諦めていた。
◇◇◇
同時刻。
王城客室。
ルナは窓際へ座っていた。
夜空を見る。
静かな時間。
すると。
突然。
彼女の瞳が大きく見開かれた。
『……空』
顔色が変わる。
『嘘』
その瞬間。
海底歌姫の瞳へ、“昔の記憶”が流れ込む。
◇◇◇
白い空。
浮遊島。
泣いている少女。
そして。
崩れ落ちる巨大な翼。
◇◇◇
『……生きてた』
ルナが震える。
そして。
誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。
『アステリア』
◇◇◇
その頃。
ヒオリの星痕が再び脈打っていた。
海ではない。
深海でもない。
もっと高く。
もっと遠く。
空の果てから。
『――助けて』
少女の声が響く。
そして。
夜空を流れた一筋の流星が。
まるで地上を目指すように落ちていった。




