第92話 姫達のお茶会
翌日。
マレフィス王城。
中庭テラス。
そこでは、珍しく女子会が開催されていた。
◇◇◇
「ルナちゃん、これ美味しいよ!」
ヒオリが勧める。
海晶果実を使った焼き菓子だった。
『……おいしい』
ルナが小さく頷く。
その隣では。
セレスティアが優雅に紅茶を飲んでいた。
「慣れてきましたか?」
『……少しだけ』
ルナが答える。
最初は王城の生活にも怯えていた。
だが。
今は少しずつ慣れてきている。
◇◇◇
「それにしても」
アイリスが頬杖をつく。
「ルナちゃん可愛いよね」
『……』
「分かる」
ヒオリが頷く。
「分かります」
ミリアも頷く。
『……』
ルナが困っている。
「照れてる」
「照れてますね」
「可愛い」
『なんで!?』
初めて少し大きな声が出た。
全員が笑う。
◇◇◇
その時だった。
「おーい」
向こうからレートが歩いてくる。
「セオドア探して――」
途中で止まる。
女子だけ。
紅茶会。
完全に場違いだった。
「あ」
「あ」
沈黙。
すると。
アイリスがニヤリと笑う。
「来た」
「何が」
「天然人たらし」
「だから何なんだよ」
本人だけ理解していない。
◇◇◇
その時だった。
ルナが不思議そうにレートを見る。
『……人気あるの?』
静寂。
アイリスが吹き出した。
「ある」
「めちゃくちゃある」
「無駄にある」
「何で俺悪口みたいになってんだ」
レートが不満そうに言う。
すると。
セレスティアが静かに紅茶を置いた。
「客観的には仕方ありませんね」
「セレスまで?」
「顔は整っています」
「おう」
「性格も悪くありません」
「おう」
「騎士としても優秀です」
「だろ」
「なので女性人気があります」
レートが少し得意そうになる。
だが。
次の瞬間。
「本人が鈍感なので全て無意味ですが」
全員吹き出した。
「ひどくない?」
◇◇◇
一方その頃――。
王城訓練場。
ペケは一人剣を振っていた。
シュン――
風が裂ける。
無駄が無い。
静かだ。
その時。
「兄上」
声。
振り返る。
ガブだった。
「来たのか」
「うん」
深海事件後、帝国からマレフィスへ派遣されてきたのだ。
もちろん表向きは視察。
実際は兄に会いに来た。
◇◇◇
「聞いたよ」
ガブが苦笑する。
「また国家級事件だったんだって?」
「そうらしいな」
「そうらしいじゃないよ」
ガブが頭を抱える。
「兄上の周りだけ災厄発生率おかしいんだけど」
正論だった。
「偶然だ」
「絶対違う」
即答だった。
◇◇◇
その時だった。
訓練場入口から、ルナが顔を出す。
『……あ』
ガブが止まる。
ルナも止まる。
数秒。
沈黙。
「……誰?」
『……誰?』
全く同じ反応だった。
その瞬間。
後ろから来たヒオリが吹き出す。
「紹介するね」
「この子がガブ」
「ぺけの弟」
『弟!?』
ルナが目を丸くする。
一方ガブも固まっていた。
「……え」
「この子が海底歌姫のルナちゃん」
静寂。
ガブが小さく呟く。
「本当に連れて帰ってきたんだ……」
遠い目だった。
◇◇◇
その日の夜。
王城屋上。
ヒオリは星空を見上げていた。
静かな夜。
風が気持ちいい。
すると。
星が流れた。
一つ。
二つ。
三つ。
「綺麗……」
その瞬間だった。
流星の一つが、“上空で止まった”。
「……え?」
ヒオリが目を細める。
違う。
流星じゃない。
巨大な何か。
雲の遥か上。
空の果て。
そこに、“浮遊島”のような影が見えた。
そして。
次の瞬間。
ヒオリの星痕が、小さく脈打つ。
『――見つけた』
知らない少女の声。
だが。
それは深海とは違う。
もっと高く。
もっと遠く。
“空”から聞こえていた。




