表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/121

第90話 海が繋いだもの

 数日後。


 《ルミナス・アーク》は、蒼都アクアレイスへ帰還していた。


 海上都市は、お祭り騒ぎだった。


「深海門閉鎖成功!!」


「蒼星様だ!!」


「灰銀の王子だ!!」


「歌い手様ぁぁぁ!!」


「最後の歌い手って何なんだよ!?」


 リツが本気で嫌そうな顔をしていた。


◇◇◇


 港には、大勢の民が集まっていた。


 花。


 歌。


 歓迎旗。


 完全に英雄帰還だった。


「うわぁ……」


 ヒオリが少し圧倒される。


「凄い人……」


「まぁ、深海災厄封印だからな」


 ペケが静かに言う。


「普通は国家規模祝賀になる」


「普通って何……」


 その時だった。


「ヒオリ様ぁぁぁ!!」


 子供達が駆け寄ってくる。


「海守ってくれてありがとう!!」


「蒼星様!!」


「また星降らせて!!」


「えぇ!?」


 完全に捕まった。


 すると。


 後ろでレートが笑う。


「人気者」


「他人事じゃないでしょ」


 実際。


 レートも女性陣に囲まれていた。


「レート様ぁぁ!!」


「今回もかっこよかったです!!」


「一緒に写真を――」


「いや待て押すな押すな」


 だが。


 本人は普通に慣れていた。


 隣でリツが遠い目をしている。


「俺もう海来たくねぇ……」


「歌った時点で諦めろ」


 ペケが即答した。


◇◇◇


 その時だった。


「……わぁ」


 小さな声。


 ルナだった。


 港町。


 笑い声。


 賑わい。


 彼女は呆然と周囲を見ていた。


 何百年も閉ざされた深海に居た少女。


 だから。


 こういう景色を知らない。


「綺麗?」


 ヒオリが隣で笑う。


 ルナは、小さく頷いた。


『……あったかい』


 その瞬間。


 近くを歩いていた小さな女の子が、ルナへ花を差し出した。


「お姉ちゃん、これ!」


『……え?』


「綺麗だから!」


 黄色い小花。


 ルナは目を丸くする。


『わたしに?』


「うん!」


 無邪気な笑顔。


 その瞬間。


 ルナの瞳から、ぽろりと涙が零れた。


「っ!? お姉ちゃん!?」


『ご、ごめ……っ』


 慌てて涙を拭う。


 でも。


 止まらない。


 ヒオリが、そっとルナの手を握った。


「大丈夫」


 ルナが震える。


『……優しい』


 小さな呟き。


『みんな、優しい』


◇◇◇


 一方その頃――。


 ヴァルディア帝国。


 帝都グランヴェル。


 第三皇女ルナリア・ヴァルディアは、ソファへ寝転がりながら新聞を読んでいた。


【深海災厄、沈静】

【蒼星と灰銀、再び奇跡】

【海底歌姫、確認】


「……ふふ」


 ルナリアが楽しそうに笑う。


「お兄様、本当に世界規模で面倒事拾ってる」


 すると。


 後ろで侍女が苦笑した。


「嬉しそうですね」


「だって面白いもの」


 紫眼が細まる。


「しかも、“海底歌姫”まで連れて帰ってる」


「……問題になりませんか?」


「なる」


 即答だった。


「だから面白いの」


◇◇◇


 その夜。


 マレフィス王城。


 海風が吹くバルコニー。


 ヒオリは、一人海を見ていた。


 静かな夜。


 海霊光。


 優しい波音。


「……眠れないのか」


 後ろから声。


 ペケだった。


「ちょっとだけ」


 ヒオリが苦笑する。


「色々ありすぎて」


「まぁな」


 ペケも隣へ立つ。


 少しの沈黙。


 不思議と嫌じゃない静けさだった。


 その時。


 ヒオリが小さく笑う。


「でも、よかった」


「何がだ」


「ルナちゃん、生きられた」


 蒼い瞳が海を見る。


「やっと、普通に笑えるようになったから」


 その瞬間。


 ペケが静かにヒオリを見る。


「……お前もな」


「え?」


「昔より、ちゃんと笑うようになった」


 静寂。


 ヒオリが少し目を丸くする。


「……そうかな」


「ああ」


 短い返事。


 でも。


 真っ直ぐだった。


 海風が吹く。


 星が揺れる。


 その瞬間。


 遠い海面で、海霊光がふわりと跳ねた。


 まるで。


 誰かが、二人を見守っているみたいに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ