第85話 閉じる世界、繋ぐ想い
ゴゴゴゴ――。
巨大石門が、再び“閉じる”方向へ動き始める。
深海全域へ、蒼銀と灰銀の光が広がっていた。
そして。
リツの歌。
三つの力が共鳴している。
『……どうして』
《ネメア・アストラ》が、小さく呟く。
その声は。
もう“神”というより、迷子みたいだった。
『そんなに苦しいのに』
『どうして、まだ前を向けるの?』
静寂。
すると。
ヒオリが、一歩前へ出た。
「苦しいよ」
蒼い瞳が揺れる。
「怖いし、泣きたい時もいっぱいある」
黒冠。
星霊。
犠牲。
未来。
全部重い。
「でも」
ヒオリが、小さく笑う。
「一人じゃないから」
その瞬間。
《ネメア・アストラ》の瞳が、大きく揺れた。
◇◇◇
また記憶が流れ込む。
◇◇◇
遥か昔。
星海。
白い女性型存在。
その周囲には、無数の子供達。
星霊。
歌姫。
灰銀。
皆、笑っていた。
『寂しくないように』
白い存在が、優しく微笑む。
『皆で繋がれるように』
だが。
次の瞬間。
世界が壊れた。
黒い侵食。
黄金眼。
絶叫。
そして。
星霊達が、次々“門”へ沈められていく。
『どうして……』
白い存在が、初めて泣いた。
『どうして、また一人になるの?』
◇◇◇
「っ……!」
ヒオリが息を呑む。
涙が零れる。
理解してしまった。
《ネメア・アストラ》は。
世界を壊したかったわけじゃない。
ただ。
“誰も失いたくなかった”。
だから。
全部を止めようとしていた。
◇◇◇
『……怖かった』
《ネメア・アストラ》が、小さく呟く。
深海全域が静まる。
『皆、消えていくから』
『眠らせれば、苦しまないと思った』
その声は。
本当に母親みたいだった。
すると。
海底少女が、涙を拭きながら前へ出る。
『母様』
蒼い瞳が揺れる。
『もう、大丈夫だよ』
『……え?』
『今はね』
少女が、小さく笑う。
『ちゃんと、繋いでくれる人達が居るから』
その瞬間。
《ネメア・アストラ》の瞳が、ゆっくりヒオリ達を見る。
ペケ。
ヒオリ。
リツ。
仲間達。
その空気は。
確かに昔、彼女が願ったものに似ていた。
◇◇◇
その時だった。
《レヴィア=ネメシス》が、狂ったように咆哮する。
『騙されるなァァァァァ!!』
轟ォォォォン!!
黒い侵食が、一気に広がる。
「っ!!」
海底都市が崩れる。
黄金眼が無数に開く。
『また失う!!』
『また壊れる!!』
『だから全部沈めろ!!』
その瞬間。
ヒオリは気付いた。
この災厄は。
《ネメア・アストラ》の“絶望”そのものだ。
失う恐怖。
孤独。
後悔。
それが、災厄化している。
◇◇◇
「ぺけ!!」
「ああ!!」
次の瞬間。
蒼銀と灰銀が、同時に爆発する。
《星灰連理》。
だが。
以前より遥かに安定していた。
星と灰銀が、自然に重なっている。
その瞬間。
深海全域へ、巨大な光柱が走る。
轟――!!
《レヴィア=ネメシス》の黒霧が、吹き飛ばされた。
『ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?』
初めて。
災厄が悲鳴を上げる。
◇◇◇
そして。
《ネメア・アストラ》が、静かに目を閉じた。
『……そっか』
白い涙が零れる。
『まだ、終わってなかったんだ』
その瞬間。
巨大石門へ、“最後の鍵”が嵌まる。
海底少女だった。
『――封海終律』
蒼い光。
歌。
星。
灰銀。
全てが、一つへ重なる。
そして。
巨大石門が、完全に閉じ始めた。




