表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
83/121

第83話 母が目覚める時

 深海最奥。


 “白い腕”が、ゆっくり姿を現す。


「っ……」


 ヒオリは息を呑んだ。


 巨大。


 神々しい。


 そして。


 あまりにも悲しい。


 白い腕表面には、無数の“星痕”が刻まれていた。


 それはまるで。


 歴代の星霊達が、無理やり混ざり合っているみたいだった。


『駄目……』


 海底少女が震える。


『“母”は、優しすぎるから』


 その瞬間。


 《ネメア・アストラ》の歌が、さらに強くなる。


『苦しいなら、還っておいで』


『寂しいなら、眠りなさい』


『全部、終わらせてあげる』


 優しい声。


 暖かい声。


 だからこそ。


 絶望的だった。


◇◇◇


 船員達が、再び海へ歩き出す。


「母様……」


「還らなきゃ……」


「眠りたい……」


「まずい!!」


 セオドアが叫ぶ。


「精神侵食速度が急上昇してる!!」


 すると。


 ヒオリ自身も、膝をついた。


「っ……」


「ヒオリ!?」


 ペケが支える。


 だが。


 ヒオリの蒼い瞳は揺れていた。


 苦しい。


 胸が痛い。


 でも。


 同時に、あの歌は“安心する”。


『帰っておいで』


『あなたは、ずっと頑張ったから』


 その瞬間。


 ヒオリの脳裏へ、歴代封星巫女達の記憶が流れ込む。


 孤独。


 痛み。


 犠牲。


 失われた人生。


 ――疲れた。


 その感情が、一気に押し寄せる。


「ぁ……」


 涙が零れる。


 すると。


 白い腕が、ゆっくりヒオリへ伸びた。


『大丈夫』


『もう、一人で戦わなくていい』


◇◇◇


 その時だった。


「――ヒオリ」


 低い声。


 ペケだった。


 灰銀の瞳が、真っ直ぐヒオリを見る。


「そっち行くな」


 静かな声。


 でも。


 それは命令じゃない。


 “引き止める声”だった。


「ぺけ……」


「帰ってくる場所なら、こっちにもある」


 その瞬間。


 ヒオリの視界が揺れる。


 脳裏へ浮かぶ。


 学院。


 ミリア。


 セレスティア。


 リツ。


 皆の笑顔。


 そして。


 自分を見つめる灰銀の瞳。


 ヒオリの呼吸が、少し戻る。


「……っ」


 すると。


 《ネメア・アストラ》が、初めて僅かに沈黙した。


『……灰銀』


 その声には。


 怒りではなく、“困惑”が混ざっていた。


『どうして、拒絶するの?』


 静寂。


 ペケがゆっくり立つ。


 灰銀魔力が、深海を裂くように広がった。


「拒絶してるわけじゃない」


 低い声。


「お前の優しさは、本物なんだろう」


 その瞬間。


 海底少女が目を見開く。


 だが。


 ペケは続けた。


「でも」


 灰銀の瞳が細まる。


「“終わらせる優しさ”だけが救いじゃない」


 静寂。


 深海そのものが、止まった気がした。


◇◇◇


 一方その頃――。


 深海より遥か下。


 “門”のさらに奥。


 そこには。


 誰も知らない空間が広がっていた。


 星空。


 海。


 無数の棺。


 そして。


 一人の青年が、静かに眠っている。


 黒髪。


 穏やかな顔。


 胸元には、“灰銀の紋章”。


 その瞬間。


 青年の指先が、僅かに動いた。


『……また、歌が聞こえる』


 小さな呟き。


 その声は。


 何故か、ペケによく似ていた。


◇◇◇


 深海都市。


 《ネメア・アストラ》の第二黄金眼が、ゆっくり細まる。


『……そう』


 その声は。


 少しだけ寂しそうだった。


『なら、あなた達は』


 白い腕が、さらに深海から姿を現す。


 その全貌が見え始める。


 巨大な白い女性型存在。


 星で編まれた髪。


 海みたいな瞳。


 そして。


 胸元には、“無数の星霊核”。


 ヒオリは、息を呑んだ。


 その姿は。


 どこか“泣いている母親”みたいだった。


 そして。


 《ネメア・アストラ》が、静かに問い掛ける。


『――どうして、まだ生きたいの?』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ