第81話 第二の黄金眼
深海最奥。
“第二の黄金眼”が、ゆっくり開く。
「……っ」
ヒオリの全身へ悪寒が走った。
違う。
今までの《レヴィア=ネメシス》とは、圧が違う。
もっと深い。
もっと古い。
まるで。
“海そのもの”が目を開いたみたいだった。
「何だ……あれ」
レートですら声を失う。
巨大石門奥。
黒い海。
その深淵で。
“何か”が動いている。
『――見つけた』
低い声。
その瞬間。
ヒオリの星痕が、今までで最も強く輝いた。
「ぁっ……!」
「ヒオリ!!」
ペケが即座に支える。
だが。
今回は違う。
共鳴ではない。
“呼ばれている”。
深海のさらに奥から。
『星霊』
『帰っておいで』
優しい声だった。
だからこそ怖い。
まるで。
母親が子供を呼ぶみたいな声。
◇◇◇
一方その頃――。
ヴァルディア帝国。
皇帝執務室。
ヴァルゼオン皇帝は、一人静かに書類へ目を通していた。
だが。
その瞬間。
部屋奥の“黒い水晶”へ、亀裂が走る。
ピシ――。
皇帝の黄金眼が細まる。
「……深海側か」
低い声。
すると。
部屋隅に居た黒衣の男が静かに膝をつく。
「陛下」
「動きますか」
「まだだ」
皇帝は即答する。
「今は、見ろ」
黄金眼が静かに細まる。
「“灰銀”がどこまで届くか」
その声には。
奇妙な確信があった。
◇◇◇
深海都市。
第二の黄金眼が、ゆっくり開いていく。
その瞬間。
《レヴィア=ネメシス》が、初めて“跪いた”。
「……え?」
ヒオリが目を見開く。
災厄が。
恐怖している。
『母よ』
深海災厄が、震える声で呟く。
静寂。
その一言で。
空気が凍った。
「……母?」
セレスティアの顔色が変わる。
「まさか」
「セレス?」
海王姫は、苦しそうに唇を噛んだ。
「古代海洋神話には、もう一つだけ存在するんです」
「“門”より古いものが」
海青の瞳が、深海を見る。
「星海母神――《ネメア・アストラ》」
その名前が発せられた瞬間。
海底都市全域へ、“歌”が響いた。
違う。
これは旋律じゃない。
子守唄だ。
優しく。
暖かく。
そして。
どこか壊れている歌。
◇◇◇
ヒオリの視界が揺れる。
また記憶。
知らない景色。
◇◇◇
星空。
海。
そして。
巨大な“白い存在”。
人の形をしているのに、人ではない。
その胸元へ抱かれる、小さな少女。
『大丈夫』
『あなた達は、寂しくないように作ったから』
無数の星。
無数の歌。
そして。
その白い存在が、ゆっくり笑う。
『だから、還っておいで』
◇◇◇
「っ――!!」
ヒオリが息を呑む。
涙が零れていた。
「……悲しい」
自分でも理由が分からない。
でも。
胸が苦しい。
すると。
海底少女が、小さく震えた。
『駄目……』
蒼い瞳が怯える。
『聞いちゃ駄目』
「え……?」
『あの歌は、“帰りたくなる”の』
その瞬間。
船員の一人が、ふらりと前へ歩き出した。
「……海へ」
「っ!?」
「おい!!」
さらに。
数人の海兵達が、ぼんやりした目で海側へ向かう。
『還ろう』
『母が呼んでる』
「精神干渉だ!!」
セオドアが叫ぶ。
「全員耳を塞げ!!」
だが。
遅い。
深海そのものが歌っている。
普通の防御では防げない。
その時だった。
「――聞くな」
低い声。
灰銀魔力が、一気に広がる。
ペケだった。
銀色の威圧。
鋭い魔力波。
それが空間ごと“歌”を裂く。
海兵達が我に返る。
「はっ……!?」
「今、何を……」
だが。
ペケ自身も顔色が悪かった。
灰銀魔力が軋んでいる。
すると。
第二の黄金眼が、ゆっくり“ペケ”を見る。
『……灰銀』
その瞬間。
深海全域が、静かに震えた。
そして。
《ネメア・アストラ》が、初めて笑う。
『やっと見つけた』




