第79話 閉じゆく門
巨大石門が、ゆっくり閉じ始める。
ゴゴゴゴ――。
深海都市全域へ、古代旋律が響いていた。
星。
歌。
灰銀。
三つの紋章が共鳴している。
『やめろ』
《レヴィア=ネメシス》の黄金眼が揺れる。
『それだけは、やめろ』
その声には。
今まで無かった“恐怖”が滲んでいた。
「……やっぱり」
ヒオリが小さく呟く。
「この門、閉じられるの嫌なんだ」
すると。
海底少女が苦しそうに頷いた。
『門が閉じると』
『“外”へ出られなくなるから』
その瞬間。
《レヴィア=ネメシス》が咆哮した。
『星霊ァァァァァァァッ!!』
轟!!
深海全域が歪む。
巨大黒霧。
無数の黄金眼。
災厄そのものが暴れ始めた。
「来るぞ!!」
ペケが前へ出る。
灰銀魔力が深海を裂く。
その時だった。
ヒオリの星痕が、再び強く輝く。
「っ……!」
知らない感覚。
いや。
“知っている”感覚。
その瞬間。
海底少女の歌と、自分の星霊魔力が重なった。
『――封海旋律接続』
頭の中へ、知らない術式名が流れ込む。
「え……?」
すると。
海底少女が目を見開いた。
『どうして使えるの……!?』
ヒオリ自身も分かっていなかった。
でも。
身体が自然に動く。
蒼銀魔力が、海底都市全域へ広がる。
その瞬間。
崩壊していた神殿柱へ、光が戻った。
「古代術式が再起動してる!?」
セオドアが叫ぶ。
「しかも完全修復状態だ!!」
セレスティアも息を呑む。
「あり得ません……」
◇◇◇
その頃。
一方その頃――。
マレフィス王城、地下禁書庫。
誰も居ないはずの場所。
だが。
一人の老人が、静かに古文書を読んでいた。
白髪。
深青法衣。
そして。
異様に静かな瞳。
マレフィス大賢者――エルディオ。
「……始まってしまったか」
老人が低く呟く。
その前には、一冊の古文書。
【星霊回帰計画】
そう記されていた。
老人は静かに目を閉じる。
「今代で、“門”が開くとはな……」
その時。
禁書庫奥。
封印棚の一つが、僅かに光る。
そこにあったのは――
【蒼海の歌姫計画・失敗記録】
老人の表情が、ほんの少しだけ曇った。
「……あの子まで目覚めたか」
◇◇◇
深海都市。
巨大石門。
閉じ始めた門へ、《レヴィア=ネメシス》が黒腕を叩きつける。
轟ォォォォン!!
「っ!!」
門が揺れる。
まだ完全には閉じ切っていない。
『開けろ』
『開けろ』
『星を還せ』
無数の声。
まるで門奥に、“大量の何か”が居るみたいだった。
その瞬間。
リツが、低く呟く。
「……まだ足りねぇのか」
すると。
海底少女が苦しそうに頷く。
『封海旋律は、“二人”必要なの』
「二人?」
『星霊だけじゃ駄目』
蒼い瞳がリツを見る。
『歌い手が居ないと、門は閉じきれない』
静寂。
その瞬間。
リツの頭へ、また記憶が流れ込む。
◇◇◇
『もし俺が死んだら』
『歌、忘れるなよ』
『嫌だ……!』
『お前が歌えば、きっと門は閉じられる』
『だから、生きろ』
泣いている少女。
そして。
血だらけの青年。
背後には、“開いた門”。
◇◇◇
「っ……!」
リツが頭を押さえる。
「リツさん!?」
「……クソ」
呼吸が乱れる。
でも。
彼はゆっくり顔を上げた。
「……分かったよ」
静かな声。
深海を見る。
そして。
泣いている海底少女へ向かって、小さく笑った。
「今度は、最後まで歌えばいいんだな」
その瞬間。
少女が、泣きながら頷いた。
そして。
深海最奥で。
《レヴィア=ネメシス》が、初めて“焦り”を滲ませる。
『やめろ』
『その歌だけは』
だが。
リツは、静かに歌い始めた。
今度は。
何百年も前の、“約束”を思い出すみたいに。




