表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/121

第76話 深海へ届く歌

 静寂。


 深海都市アトラ・ネメシス全域から、“歌”が消える。


 代わりに。


 リツの声だけが、静かに響いていた。


「――……」


 優しい旋律。


 波へ溶けるような歌。


 その瞬間。


 海底神殿の黒い侵食が、一瞬だけ止まる。


「っ……!」


 セレスティアが目を見開く。


「侵食率が低下してる……!?」


 セオドアも水晶観測盤を見る。


「あり得ない!」


「ただの歌で深海侵食を抑えてるのか!?」


 だが。


 リツ本人が一番困惑していた。


「……いや、俺も意味分かってねぇぞ」


 そう言いながらも歌は止めない。


 すると。


 海底少女が、小さく震えるように呟いた。


『……同じ』


「え?」


『あの人と、同じ歌』


 その瞬間。


 ヒオリの星痕へ、“知らない記憶”が流れ込む。


◇◇◇


 遥か昔。


 海底神殿。


 一人の青年が歌っていた。


 黒髪。


 優しい声。


 そして。


 その隣には、幼い蒼髪の少女。


『ねぇ』


『その歌、好き』


『そうか?』


『うん』


 少女が笑う。


 だが。


 その笑顔は、どこか寂しそうだった。


『……怖いの』


『門が?』


『うん』


 青年は少し困ったように笑った。


 そして。


 少女の頭を優しく撫でる。


『なら歌ってやる』


『お前が眠れるまで』


 その瞬間。


 巨大石門が震えた。


 黄金眼。


 深海の災厄。


 そして。


 少女が泣きそうな顔で叫ぶ。


『逃げて!!』


◇◇◇


「っ――!!」


 ヒオリが息を呑む。


 視界が戻る。


 深海都市。


 リツの歌。


 黒い侵食。


「今の……」


「また視たか」


 ペケが低く言う。


 ヒオリは苦しそうに頷く。


「昔の記憶みたいなの……」


 その時。


 海底少女が、初めて少しだけ笑った。


『思い出してくれてる』


「……え?」


『やっと』


 その声は。


 ずっと一人だった人の声だった。


◇◇◇


 だが。


 次の瞬間。


 巨大石門が、大きく開き始める。


 ゴゴゴゴゴ――!!


「っ!!」


 海底都市全域が揺れる。


 崩壊。


 黒い霧。


 そして。


 門奥から、“巨大な腕”が完全に姿を現した。


 異形だった。


 黒い鱗。


 深海みたいな闇。


 無数の黄金眼。


「……何だあれ」


 レートですら顔を強張らせる。


 すると。


 セレスティアが低く呟いた。


「深海災厄……《レヴィア=ネメシス》」


 その名前が発せられた瞬間。


 海そのものが震えた。


『星霊』


 巨大存在が、ヒオリを見る。


『今度こそ還れ』


 次の瞬間。


 黒い津波みたいな魔力が放たれた。


「ヒオリ!!」


 ペケが前へ出る。


 灰銀魔力。


 斬撃。


 だが。


 深海圧と混ざった災厄魔力は重すぎた。


 轟!!


 《ルミナス・アーク》全体が吹き飛ばされる。


「きゃぁっ!?」


 ヒオリがふらつく。


 その時だった。


 海底少女が、叫ぶ。


『歌って!!』


 全員が彼女を見る。


『深海封印は、“共鳴”でしか閉じられない!!』


「共鳴……?」


『星霊と灰銀だけじゃ足りない!』


 蒼い瞳が、真っ直ぐリツを見る。


『あなたの歌が必要なの!!』


 静寂。


 リツが完全に固まる。


「……は?」


 だが。


 次の瞬間。


 深海災厄《レヴィア=ネメシス》が、巨大な黄金眼を開いた。


 その瞳が、“リツ”を見た瞬間。


 初めて、明確な敵意を滲ませる。


『……その声』


 深海全域が軋む。


『何故、お前がまだ生きている』


 空気が凍った。


「……は?」


 リツ本人だけが、何も分かっていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ