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第69話 深海の少女

 マレフィス海洋王国。


 大陸南西海域最大国家。


 その中心、“蒼都アクアレイス”は、まるで海上へ浮かぶ星だった。


「……すごい」


 ヒオリが息を呑む。


 巨大海上都市。


 白蒼建築。


 水晶橋。


 海面を走る魔導船。


 そして。


 夜でも淡く発光する海。


「本当に海が光ってる……!」


「だから言っただろ」


 隣でペケが静かに言う。


 海風が吹く。


 少し塩の香り。


 北方とは全然違う空気だった。


「綺麗……」


 ヒオリは思わず海へ近寄る。


 その瞬間。


 海面が、ふわりと蒼く輝いた。


「……え?」


 小さな光粒。


 まるで星みたいに、水面下を漂っている。


「海霊光です」


 セレスティアが説明する。


「マレフィス特有の高濃度海洋魔力反応ですね」


「海の星みたい……」


 ヒオリが小さく笑う。


 すると。


 近くを歩いていた子供達が、ざわっと反応した。


「……蒼星様だ」


「本当に居る……!」


「黒冠の……!」


 瞬く間に囲まれる。


「えっ、えっ」


「お姉ちゃん、星降らせたの!?」


「黒い怪物倒したの!?」


「す、少しだけ……?」


 完全に困っていた。


 すると。


 後ろでリツが吹き出す。


「人気者だな」


「他人事じゃないでしょリツさん」


 実際。


 リツも普通に女性陣へ囲まれていた。


「リツ様!歓迎祭でも歌ってください!!」


「無理だって」


「一曲だけ!!」


「その“一曲だけ”信用してねぇからな!?」


 完全にマレフィスでも捕獲されていた。


 セレスティアが少し笑う。


「もう噂が届いてるんですね」


「……そんな有名なのか?」


 リツが本気で困惑する。


 すると。


 レートが肩を竦めた。


「北方で歌った時点でもう終わりだろ」


「何が終わりなんだよ」


「女性人気」


「嬉しくねぇ……」


 だが。


 耳は少し赤かった。


◇◇◇


 その夜。


 マレフィス王城、客室。


 ヒオリは一人、窓から海を見ていた。


 夜の海。


 星みたいな海霊光。


 波音。


 静かで綺麗だった。


 でも。


 胸の奥が少しざわつく。


「……来てる」


 小さく呟く。


 何かが。


 深海から、自分を呼んでいる。


 その時だった。


 コンコン。


 部屋扉がノックされる。


「はい?」


「俺だ」


 ペケだった。


「ぺけ?」


 部屋へ入ってくる。


 そして。


 彼は少しだけ眉を寄せた。


「また眠れてないのか」


「……分かる?」


「顔見ればな」


 ヒオリは苦笑する。


「海来てから、変な感じするの」


「星痕か」


「うん」


 蒼い瞳が海を見る。


「ずっと呼ばれてるみたい」


 静寂。


 波音だけが響く。


 その時だった。


 突然。


 ヒオリの星痕が、強く輝いた。


「っ――!」


 視界が反転する。


◇◇◇


 深海。


 暗い海底。


 巨大な石門。


 その前で。


 一人の少女が立っていた。


 蒼い髪。


 透き通る白肌。


 そして。


 ヒオリとよく似た蒼い瞳。


『……やっと来た』


 少女が微笑む。


「……誰?」


『わたし?』


 少女は少しだけ困ったように笑った。


『忘れちゃった』


「え……?」


『ずっと、待ってたのに』


 その瞬間。


 巨大な“扉”が軋む。


 ゴゴゴ――。


 海底全域が震える。


 少女が振り返る。


 そして。


 悲しそうに呟いた。


『もう、“あれ”が起きちゃう』


「あれ……?」


 次の瞬間。


 扉隙間から、“黄金の瞳”が覗いた。


「っ!!」


 ヒオリの全身が凍る。


 星喰い。


 黒冠で見たものと同じ。


 だが。


 もっと巨大。


 もっと深い。


 その瞬間。


 少女がヒオリを突き飛ばした。


『まだ駄目!!』


 轟!!


 深海が砕ける。


 黄金眼が咆哮した。


『星霊』


『今度こそ、還せ』


◇◇◇


「ヒオリ!!」


 現実。


 気付けば。


 ペケが肩を掴んでいた。


「っ……はぁ……!」


 呼吸が乱れる。


 汗。


 震え。


 星痕がまだ熱い。


「……また視たか」


 低い声。


 ヒオリは苦しそうに頷く。


「深海に……女の子がいた」


「女?」


「私に、似てた」


 その瞬間。


 ペケの瞳が僅かに揺れた。


 だが。


 次の瞬間だった。


 王城全域へ、警鐘が鳴り響く。


 ゴォォォン――!!


 海上都市全体がざわめく。


「……っ!」


 ペケが即座に窓外を見る。


 すると。


 遠い沖合。


 海面中央が、“巨大な渦”になっていた。


 そして。


 その中心から、蒼い光柱が空へ伸びていた。

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