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第68話 星痕の共鳴

 静寂。


 迎賓館の長廊下へ、冷たい空気が流れていた。


「……今の、何だ?」


 リツが眉を寄せる。


 窓際。


 彼自身も少し驚いた顔をしていた。


 ヒオリは胸元を押さえる。


 星痕。


 蒼銀の紋様が、微かに熱を帯びていた。


「っ……」


「ヒオリ」


 ペケがすぐ隣へ来る。


 灰銀の瞳が鋭く細まる。


「また視えたのか」


「……うん」


 ヒオリは小さく頷く。


「海の底で、誰かが……」


 言葉にしようとした瞬間。


 頭痛。


 知らない声。


 深海。


 巨大な扉。


 そして。


 “歌”。


『――還して』


「っ!」


 ヒオリがふらつく。


 その身体を、ペケが即座に支えた。


「無理に思い出すな」


「でも……」


「いい」


 低い声。


 だが。


 かなり近い。


 セレスティアが静かに二人を見る。


 そして。


 少しだけ目を伏せた。


◇◇◇


「……リツさん」


 ヒオリがゆっくり顔を上げる。


「さっき、何の歌を歌ってたの?」


「え?」


 リツが少し困った顔をする。


「いや、昔から知ってる民謡だけど」


「北方のですか?」


「いや、海側」


 その瞬間。


 セレスティアの表情が変わった。


「海側……?」


「子供の頃、港町で聞いたやつだ」


 リツが少し考え込む。


「確か、“星還し”とかそんな名前だった気がする」


 空気が止まる。


 セレスティアの海青の瞳が、静かに揺れた。


「……あり得ない」


「セレス?」


「あの歌は」


 彼女が低く呟く。


「マレフィス王族しか知らないはずです」


「……は?」


 今度はリツが固まる。


「いや待て、俺普通にガキの頃――」


 そこまで言って。


 彼自身も違和感に気付いた。


「……誰から聞いたんだ?」


 静寂。


 思い出せない。


 リツが眉を寄せる。


「……変だな」


 その時だった。


 廊下奥の窓ガラスへ、“波紋”が走った。


 ピシ――。


「っ!?」


 全員が反応する。


 次の瞬間。


 窓外景色が、一瞬だけ“海”へ変わった。


 深海。


 青黒い水。


 そして。


 巨大な石門。


『――歌を返して』


 知らない少女の声。


 ヒオリの星痕が強く輝く。


「ぁ……!」


「ヒオリ!!」


 轟!!


 蒼銀魔力が暴走しかける。


 だが。


 その瞬間。


 灰銀魔力が優しく重なった。


 ペケだった。


「落ち着け」


 低い声。


「俺を見ろ」


 ヒオリが苦しそうに顔を上げる。


 灰銀の瞳。


 静かで。


 不思議と安心する色。


「……ぺけ」


「呼吸しろ」


「……ん」


 少しずつ。


 蒼銀魔力が落ち着いていく。


 その様子を見ながら。


 セレスティアは静かに呟いた。


「……共鳴率が上がっている」


「え?」


「以前より遥かに」


 海青の瞳が細まる。


「黒冠で、完全接続に近付いたんですね」


 すると。


 リツが少しだけ真面目な顔になる。


「……つまり、今後もっと増えるってことか?」


「可能性は高いです」


 セレスティアが静かに頷く。


「夢、記憶、感覚共有」


「星霊系統は、深層へ近付くほど“世界側”と繋がる」


 ヒオリが少し不安そうに胸元を押さえる。


「……怖いな」


 その瞬間。


 ペケが静かに言った。


「なら一人で見るな」


「え?」


「視える時は俺を呼べ」


 灰銀の瞳が真っ直ぐヒオリを見る。


「全部一人で抱えるな」


 静かな声。


 でも。


 それは命令じゃなく、約束みたいだった。


 ヒオリは少しだけ目を丸くして。


 そして。


 小さく笑った。


「……うん」


◇◇◇


 同時刻。


 マレフィス海洋王国。


 深海観測神殿。


 巨大水晶が、不気味に脈動していた。


 青黒い魔力波。


 警報。


 観測士達がざわめく。


「深海魔力流、急上昇!!」


「第三海溝側、“門”反応増大!!」


「歌声観測を確認!!」


 その瞬間。


 神殿最奥。


 誰も触れられない禁域水槽の奥で。


 一人の“少女”が、ゆっくり目を開けた。


 蒼い髪。


 閉ざされた瞳。


 そして。


 胸元には、“星痕”によく似た紋様。


 少女は、水中で静かに呟く。


『……見つけた』


 その声は。


 何故か、ヒオリによく似ていた。

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