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第61話 蒼星の少女

 ノルディア迎賓館、中庭。


 雪が静かに降っている。


「……寒い」


 ヒオリは白い息を吐きながら、毛布へ包まった。


「まだ病み上がりなんですから、外へ出るならもっと厚着してください」


 隣でミリアが呆れたように言う。


「だって部屋の中ずっと居ると暇なんだもん」


「昨日まで意識失ってた人の台詞じゃありません」


「うぅ……」


 反論できない。


 ヒオリは小さく肩を縮める。


 すると。


 ミリアがふっと笑った。


「でも、元気そうで安心しました」


 穏やかな声。


 ヒオリは少しだけ目を瞬かせる。


「……心配かけた?」


「かなり」


「ごめんね」


「本当にです」


 だが。


 ミリアの表情は優しかった。


 雪が降る。


 静かな時間。


 黒冠での激戦が、まるで遠い夢みたいだった。


「……変わっちゃったのかな」


 ヒオリがぽつりと呟く。


「何がですか?」


「私」


 蒼い瞳が、雪空を見る。


「第二位階とか、星霊とか」


「なんかもう普通じゃない気がして」


 その声は、小さく不安そうだった。


 すると。


 ミリアは静かにヒオリを見る。


「ヒオリ様」


「うん?」


「私は、何も変わってないと思いますよ」


「え?」


「お強くはなりました」


「それは実感ある……」


「ですが」


 ミリアが小さく笑う。


「困っている人を放っておけないところも」


「すぐ無茶するところも」


「寂しいとすぐ顔に出るところも」


「全部そのままです」


「最後いらなくない?」


「事実ですので」


 即答だった。


 ヒオリがむっと頬を膨らませる。


 すると。


 中庭入口側から、賑やかな声が聞こえてきた。


「ヒオリ様ー!!」


 元気よく駆け込んできたのはセレスティアだった。


 その後ろにはアイリスもいる。


「やっと外出てる!」


「心配したんだからね!」


 セレスティアがそのまま抱き付いてくる。


「わっ!?」


「本当に無茶しすぎです!」


「ご、ごめん……」


「第二位階って何ですかもう!」


 かなり怒っていた。


 でも涙目だった。


 ヒオリは少しだけ困ったように笑う。


「セレス……」


「死んじゃうかと思ったんですよ……」


 小さな声。


 その瞬間。


 ヒオリはようやく実感した。


 自分は、一人で戦ってたわけじゃない。


 心配してくれる人が、こんなにいた。


 すると。


 後ろで見ていたアイリスがニヤッと笑う。


「まぁでも」


「殿下の顔は傑作だったぞ」


「え?」


「ヒオリ様倒れた瞬間、完全に世界終わった顔してた」


「アイリス」


 低い声。


 いつの間にかペケがいた。


「うわ出た」


「ぺけ!?」


 ヒオリが目を瞬かせる。


 ペケはいつも通り無表情だった。


 だが。


 ミリアが小さく笑う。


「ちょうど噂していたところですよ」


「してない」


「してました」


 即答。


 すると。


 セレスティアが少しだけジト目になる。


「第二皇子殿下、最近ヒオリ様のところ来すぎでは?」


「そうか?」


「そうです」


 即答だった。


 アイリスが吹き出す。


「殿下、自覚ないの怖いよな」


「……?」


 本当に分かってない顔だった。


 ヒオリが思わず笑ってしまう。


 その瞬間。


 ペケの視線が少しだけ柔らかくなった。


 ほんの一瞬。


 でも。


 それを見たセレスティアが、小さく目を細める。


「……なるほど」


「セレス?」


「いえ、何でもありません」


 そう言いながら。


 彼女は静かに雪空を見る。


 その横顔は、少しだけ大人びて見えた。


 黒冠の戦いは終わった。


 けれど。


 人の想いは、少しずつ変わり始めている。


 静かに。


 確実に。

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