第54話 黒き心臓
無数の黄金眼。
門の奥。
深淵そのものみたいな闇が、静かに脈動していた。
その中心。
“黒い星”。
星喰いの心臓。
ドクン。
ドクン。
脈打つたびに、第四層全域が軋む。
「……気持ち悪い」
ヒオリが小さく呟く。
見ているだけで、本能が拒絶する。
あれは存在してはいけないものだ。
『近付けると思うか』
星喰いが低く笑う。
次の瞬間。
門の周囲空間が一斉に裂けた。
「っ!?」
無数の黒霧魔獣。
さらに。
黒棺から現れた黄金眼の少女まで、ゆっくり前へ出る。
『ここから先は通さない』
黒翼が広がる。
災厄級魔力。
第四層の空気が重く沈む。
「……厄介だな」
フィリップが黄金剣を構えた。
「相手が多すぎる」
「なら道を作る」
低い声。
ペケだった。
灰銀の瞳が静かに細まる。
「ヒオリ」
「うん」
「心臓まで一直線で行くぞ」
その瞬間。
灰銀と蒼銀の魔力が再び重なる。
《星灰連理》。
二人の周囲空間が、星光で満たされていく。
『止めろ!!』
星喰いが咆哮した。
無数の黒腕が襲い掛かる。
だが。
「――星よ」
ヒオリが手を伸ばす。
蒼銀の星々が一斉に降り注いだ。
轟!!
黒腕が消し飛ぶ。
浄化。
第二位階へ至った星霊魔法は、既に黒霧そのものを侵食し始めていた。
『……浄化率上昇』
セオドアが目を見開く。
「黒冠内部なのに、逆に星霊側が領域を書き換えてる……!?」
「ヒオリ様……」
ミリアが息を呑む。
だが。
ヒオリ自身は苦しそうだった。
第二位階。
流れ込んでくる情報量が多すぎる。
歴代封星巫女たちの記憶。
痛み。
孤独。
全部が胸へ流れ込んでくる。
「っ……」
「ヒオリ」
低い声。
ペケがそっと彼女の手を握る。
その瞬間。
暴れかけていた星霊魔力が、静かに安定した。
「……大丈夫」
灰銀の瞳が真っ直ぐ彼女を見る。
「俺がいる」
ヒオリの胸が熱くなる。
不思議だった。
この人の声だけで、本当に落ち着く。
◇◇◇
『……気に入らない』
黄金眼の少女が静かに呟く。
その瞳には、僅かな嫉妬が滲んでいた。
『どうして今代だけ』
『そんな風に並べるの』
黒翼が広がる。
瞬間。
少女が消えた。
「っ!!」
速い。
空間転移。
次の瞬間には、ヒオリの目前。
黒爪が振り下ろされる。
だが。
――斬。
灰銀の光。
ペケが割り込む。
「邪魔」
少女が眉を寄せる。
「当然だ」
低い声。
灰銀剣と黒爪が激突する。
轟音。
第四層がさらに崩壊した。
「殿下!!」
アルトたちも飛び込む。
レオンハルトの白銀斬撃。
フィリップの黄金剣。
セレスティアの水流拘束。
全員が同時に少女へ攻撃を叩き込む。
だが。
少女は静かに笑った。
『弱い』
瞬間。
黒い衝撃波。
「っ――!!」
全員が吹き飛ばされる。
「がっ……!」
レートが地面を転がる。
「強すぎんだろ……!」
その時だった。
ヒオリの背後へ、無数の星光が集まり始める。
『……星霊の子』
歴代封星巫女たちの声。
『お願い』
『あなたなら』
『終わらせられる』
その瞬間。
ヒオリの瞳が、さらに深い星色へ変わった。
「……みんな」
蒼銀の魔力が脈動する。
そして。
彼女の背後へ、新たな術式が浮かび上がった。
巨大な星座陣。
「え……?」
アステリアが目を見開く。
「第二位階の、さらに先……?」
だが。
ヒオリ自身にも分からない。
ただ。
胸の奥から、言葉が浮かぶ。
「――星霊解放術式」
星座陣が回転する。
無数の星々が輝き始めた。
そして。
ヒオリは静かに、門の奥の“黒い星”へ手を向ける。
「もう」
蒼い瞳が揺れる。
「誰も、閉じ込めさせない」
その瞬間。
巨大な星光が、黒い心臓へ一直線に放たれた。




