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第52話 灰銀と星霊

 闇が来る。


 第四層全域を呑み込むほど巨大な“深淵”。


 空間そのものが消えていく。


「っ――!!」


 ヒオリが息を呑む。


 本能が叫んでいた。


 あれに触れれば終わる。


 存在ごと喰われる。


『灰銀』


『星霊』


 星喰いの巨大な黄金眼が、静かに細まる。


『今度こそ終わらせる』


 その瞬間。


 巨大な闇が、一気に二人へ襲い掛かった。


「ヒオリ!!」


 ペケが即座に彼女を抱き寄せる。


 灰銀魔力が爆発した。


 だが。


 闇が大きすぎる。


 押し切られる。


「っ……!」


 灰銀障壁へ亀裂が走る。


 第四層が悲鳴を上げる。


「殿下!!」


 アルトが叫ぶ。


 だが。


 近付けない。


 星喰いの圧が強すぎる。


 その時だった。


 ヒオリが、静かにペケの手を握り返した。


「……ぺけ」


「喋るな」


「聞いて」


 蒼い瞳。


 震えている。


 怖い。


 でも。


 逃げていなかった。


「私、一人じゃ無理」


「……」


「だから」


 ヒオリは、小さく笑った。


「一緒に戦って」


 静寂。


 その瞬間。


 ペケの灰銀魔力が、静かに変わった。


 暴力的だった力が。


 少しずつ“形”を持ち始める。


「……ああ」


 低い声。


 灰銀の瞳が真っ直ぐヒオリを見る。


「最初から、そのつもりだ」


 次の瞬間。


 蒼銀と灰銀。


 二つの魔力が、完全に重なった。


 轟!!


 第四層全域へ巨大な光柱が立ち上る。


「なっ……!?」


 ガルドが目を見開く。


「まだ出力が上がるのか!?」


 違う。


 これは単純な魔力増幅じゃない。


 “融合”。


 灰銀と星霊。


 本来別系統だった力が、一つになろうとしていた。


『……来た』


 フィアが涙を零す。


『やっと……』


 歴代封星巫女たちの残滓が、一斉に星光へ変わっていく。


 まるで。


 ずっと待っていたみたいに。


◇◇◇


 ヒオリの意識が、深い星海へ落ちていく。


 そこには。


 知らない世界があった。


 古代。


 崩壊した大地。


 泣いている空。


 そして。


 一人の青年。


 灰銀の髪。


 血塗れの剣。


 その隣には。


 星霊を纏う少女。


『ごめんね』


 少女が泣いている。


『また、置いていく』


『……やめろ』


 青年が震える声で言う。


『今度こそ、一緒に生きるって』


『世界が先だよ』


 少女は悲しそうに笑った。


『灰銀は、生き残って』


 その瞬間。


 巨大な門。


 黒棺。


 封印。


 少女は、自らその中へ入っていく。


『――!!』


 青年の絶叫。


 崩壊する世界。


 そして。


 絶望の中で、灰銀魔力が暴走する。


 ヒオリは息を呑んだ。


 分かった。


 これが。


 “始まり”。


◇◇◇


「っ――!」


 ヒオリが現実へ戻る。


 涙が零れていた。


「ヒオリ?」


 ペケが彼女を見る。


 灰銀の瞳。


 でも。


 さっきまでより、ずっと優しい光だった。


「見えたの」


 ヒオリの声が震える。


「昔の、灰銀と星霊」


 その瞬間。


 ペケも静かに目を閉じた。


「ああ」


 低い声。


「俺も見た」


 そして。


 彼はゆっくり星喰いを見る。


 灰銀魔力が静かに研ぎ澄まされていく。


「……お前のせいか」


『……』


「全部」


「ずっと、繰り返してきたのは」


 星喰いが低く笑う。


『だからどうした』


『世界を守るには、封印が必要だった』


『星霊は器として最適だった』


「違う」


 ヒオリが前へ出る。


 蒼銀の星輪が回転する。


「そんな犠牲の上の世界なんて」


「救いじゃない」


 その瞬間。


 星喰いの黄金眼が細まった。


『……同じことを言ったな』


「え?」


『初代星霊も』


 空気が止まる。


『だから壊れた』


 次の瞬間。


 巨大な闇が再び膨れ上がる。


 だが。


 今度は違った。


 ペケが静かに剣を構える。


 ヒオリも、蒼銀魔法陣を展開する。


 そして。


 二人は自然に並んだ。


 まるで。


 最初からそうあるべきだったみたいに。


「ヒオリ」


「うん」


「今度は」


 灰銀の瞳が細まる。


「誰も置いていかない」


 ヒオリは小さく笑った。


「それ、私も言おうとしてた」


 次の瞬間。


 蒼銀と灰銀。


 二つの光が、完全に一つへ重なる。


 第四層全域へ。


 “星剣”を超える巨大術式が展開された。


 アステリアが息を呑む。


「まさか……」


 翡翠の瞳が震える。


「古代神話級術式――」


 その瞬間。


 ヒオリとペケが、同時に名を口にした。


「――《星灰連理》」


 世界が、光に染まった。

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