第51話 第二位階
蒼銀の光。
第四層全域を埋め尽くすほどの星光が、黒冠内部を照らしていた。
「……綺麗」
誰かが、呆然と呟く。
それほどまでに神秘的だった。
夜空。
星海。
まるで宇宙そのものが降りてきたみたいな光景。
その中心で。
ヒオリの瞳が、静かに“星色”へ染まっていた。
「――星霊継承、第二位階解放」
静かな声。
だが。
その一言だけで、第四層全域の空気が変わった。
「っ……!」
星喰いの巨大な黄金眼が細まる。
『第二位階……』
初めて。
その声音へ、明確な警戒が混ざった。
「ヒオリ……?」
ペケが目を見開く。
だが。
ヒオリ自身も、何が起きているのか分かっていなかった。
ただ。
無数の声が聞こえる。
歴代封星巫女たち。
泣きながら。
願いながら。
ずっと待っていた少女たちの声。
『お願い』
『もう終わらせて』
『次こそ、自由に』
胸が痛い。
苦しい。
でも。
不思議と怖くなかった。
「……みんな」
ヒオリの瞳から涙が零れる。
「ずっと、苦しかったんだね」
その瞬間。
蒼銀魔力がさらに広がった。
すると。
第四層全域へ、無数の“星”が現れる。
「なっ……!?」
レートが息を呑む。
それは光の粒じゃない。
少女たちだった。
透けるような身体。
白い服。
儚い笑顔。
歴代封星巫女たちの残滓。
「……そんな」
セレスティアが目を見開く。
「魂が、まだ……」
彼女たちは静かにヒオリを見る。
泣きそうな顔で。
でも。
どこか希望を見るみたいに。
『やっと』
『来てくれた』
『星霊の子』
ヒオリの胸が締め付けられる。
その時だった。
星喰いが咆哮した。
『返せ』
巨大な黒霧が渦を巻く。
『それは我のものだ』
無数の黒腕が、一斉にヒオリへ伸びた。
「ヒオリ!!」
ペケが飛び出す。
だが。
その瞬間。
ヒオリの周囲へ、星光が展開された。
蒼銀結界。
黒腕が触れた瞬間、次々と浄化されていく。
『……浄化』
星喰いの声が低くなる。
『この時代に、そこまで至るか』
すると。
ヒオリの頭へ、知らない知識が流れ込んできた。
星霊継承。
位階。
古代術式。
そして。
“第二位階”が何を意味するのか。
「……星霊の、解放」
小さな呟き。
その瞬間。
ヒオリの背後へ、巨大な星輪が出現した。
蒼銀の輪。
無数の星々が巡っている。
「おいおい……」
アイリスが苦笑する。
「もう神話じゃねぇか」
だが。
アステリアの顔は険しかった。
「違う……」
翡翠の瞳が揺れる。
「まだ不完全です」
「え?」
「第二位階は、本来“二人”で開くもの」
全員が彼女を見る。
アステリアは静かにペケを見る。
「灰銀と星霊」
「両方が完全共鳴して、初めて真価へ届く」
その瞬間。
ヒオリの蒼い瞳が、自然にペケを見た。
灰銀の王子。
彼もまた、自分を見ている。
すると。
また記憶が流れ込む。
古代世界。
崩壊する空。
そして。
灰銀の青年と星霊の少女が、背中合わせに戦う姿。
『今度こそ』
『二人で』
その瞬間。
ペケの灰銀魔力が、静かに呼応した。
蒼銀へ引き寄せられるように。
「……なるほど」
ペケが低く呟く。
「だから、お前だったのか」
「ぺけ……?」
すると。
灰銀の瞳が少しだけ柔らかくなる。
「最初から」
「お前だけ、妙に特別だった」
ヒオリの心臓が強く脈打つ。
だが。
次の瞬間。
星喰いが、巨大な口を開いた。
『繋がる前に喰らえばいい』
黒い深淵。
それが、第四層全域を呑み込もうと広がっていく。
「っ――!」
フィアが叫ぶ。
『だめ!!』
『今のままじゃ、まだ完全じゃない!!』
だが。
星喰いは止まらない。
巨大な黄金眼が、二人を見下ろす。
『灰銀』
『星霊』
『今度こそ、終わらせる』
その瞬間。
巨大な“闇”が、一気に二人へ襲い掛かった。




