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第50話 星を喰らうもの

 巨大な口。


 門の奥。


 世界の深淵から現れた“それ”を見た瞬間、誰もが理解した。


 見てはいけないものだった。


「っ――!」


 ヒオリの呼吸が止まる。


 星空みたいな闇。


 その中央に並ぶ、無数の黄金眼。


 そして。


 空そのものを噛み砕くような巨大な口。


『――――』


 声ですらなかった。


 存在そのものが、世界へ直接響いてくる。


 第四層全域が悲鳴を上げる。


 空間が崩れる。


 黒い草原が消えていく。


「な、なんだよあれ……!」


 レートが完全に顔を青ざめさせる。


「生き物なのか!?」


「違う」


 アステリアが震える声で呟いた。


「あれは“災厄”そのものです」


 星喰い。


 古代時代。


 世界を滅ぼしかけた存在。


 その本体。


『星霊』


 巨大な黄金眼がヒオリを見つめる。


『還れ』


 その瞬間。


 ヒオリの身体が動かなくなった。


「っ……!」


 重い。


 頭が霞む。


 まるで魂を直接引っ張られているみたいだった。


「ヒオリ!!」


 ペケが即座に彼女を抱き寄せる。


 灰銀魔力が広がる。


 すると。


 星喰いが低く笑った。


『また奪うか、灰銀』


「当たり前だ」


 低い声。


 だが。


 今のペケは、以前と違った。


 怒りに飲まれていない。


 ヒオリの手を握ったまま。


 真っ直ぐ前を見ている。


『……なるほど』


 巨大な黄金眼が細まる。


『今回は、“繋がった”か』


 その瞬間。


 星喰いの巨大な口が開いた。


 黒い光。


 世界を呑み込むほどの深淵。


「まずい!!」


 ガルドが叫ぶ。


「全員、防御――」


 遅い。


 黒い奔流が放たれる。


 第四層そのものを消し飛ばす災厄の波。


「っ――!!」


 だが。


 その瞬間だった。


「――星よ」


「――断て」


 蒼銀と灰銀。


 二つの声が重なる。


 轟!!


 巨大な魔法陣が展開された。


 夜空のような蒼銀。


 世界を裂く灰銀。


 それらが完全に重なり合う。


 そして。


 巨大な“星剣”が生まれた。


「なっ……!?」


 フィリップが目を見開く。


「融合術式……!?」


 誰も見たことがない。


 蒼銀と灰銀が、一つの力へ変わっている。


『また、その力か』


 星喰いの声が低くなる。


 憎悪。


 怒り。


 それが空間を震わせる。


 だが。


 ペケは止まらない。


 ヒオリも、手を離さない。


「ぺけ」


「ああ」


 視線が重なる。


 次の瞬間。


 二人は同時に踏み込んだ。


 ――斬。


 世界が光に包まれる。


 蒼銀と灰銀の星剣が、黒い奔流を真正面から切り裂いた。


 轟音。


 第四層全域へ光が走る。


 そして。


 巨大な星喰いの“口”へ、一直線に斬撃が届いた。


『――――!!』


 初めて。


 星喰いが苦悶の咆哮を上げた。


 黄金眼が揺れる。


 門が軋む。


「効いてる……!」


 セレスティアが息を呑む。


 だが。


 その瞬間。


 星喰いの周囲空間が、さらに裂けた。


『まだ足りぬ』


 低い声。


『星霊を寄越せ』


 無数の黒腕が門から溢れ出す。


「来ます!!」


 セオドアが叫ぶ。


 だが。


 ヒオリの身体が、急に強く光り始めた。


「っ……!」


 蒼銀魔力が暴走する。


 胸元の痣。


 それが、まるで星みたいに輝いていた。


『……継承』


 フィアが目を見開く。


『まさか、今ここで……!?』


「な、に……?」


 ヒオリ自身も分からない。


 だが。


 頭の奥へ、無数の声が流れ込んでくる。


『お願い』


『終わらせて』


『次こそ、救って』


 歴代封星巫女たちの声。


 涙。


 願い。


 そして。


 その全てが、ヒオリへ集まり始める。


「ヒオリ!!」


 ペケが叫ぶ。


 だが。


 蒼銀の光は止まらない。


 第四層全域を埋め尽くすほど膨れ上がっていく。


 その瞬間。


 ヒオリの瞳が、静かに“星色”へ変わった。


 そして。


 誰も聞いたことのない声で、彼女は呟く。


「――星霊継承、第二位階解放」


 空気が凍った。


 アステリアの顔色が変わる。


「嘘……」


 翡翠の瞳が震える。


「この時代で、“第二位階”に到達するなんて……」

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