第49話 星喰いの本体
巨大な黄金眼。
門の奥。
闇のさらに深淵で、“それ”は静かにこちらを見ていた。
『見つけた』
低い声。
世界の底から響くみたいな音。
その瞬間。
第四層全域へ亀裂が走った。
「っ――!!」
空間が悲鳴を上げる。
黒い草原が崩れ。
星空が裂け。
世界そのものが軋み始める。
「な、なんだこれ……!」
レートが顔を青ざめさせる。
「存在するだけで空間が壊れてるぞ!?」
「……本体」
アステリアの声が震えていた。
「星喰いの、本体です」
誰も言葉を失う。
今まで戦っていたのは、あくまで端末。
影。
欠片。
そして今。
“本物”が目を覚まそうとしている。
『星霊』
黄金眼がヒオリを見つめる。
『ようやく辿り着いた』
その瞬間。
ヒオリの身体が硬直した。
視線だけで分かる。
あれは、自分を狙っている。
「ヒオリ」
低い声。
ペケだった。
自然に前へ出る。
完全に庇う位置。
灰銀の瞳は、門の奥だけを睨んでいる。
『灰銀』
星喰いが静かに嗤う。
『また邪魔をするか』
「当たり前だ」
即答だった。
その瞬間。
灰銀魔力が広がる。
今まで以上に濃く。
鋭く。
第四層全域を染め上げるほどに。
だが。
ヒオリは気付いていた。
さっきと違う。
今のペケは、暴走していない。
怒りはある。
でも。
ちゃんと、自分を保っている。
その理由を理解した瞬間。
ヒオリの胸が熱くなった。
『……変わったな』
星喰いが低く呟く。
『昔のお前なら、既に壊れていた』
「知るか」
ペケが剣を構える。
「俺は、俺だ」
その瞬間。
門の奥で、巨大な黄金眼が細まった。
次の瞬間。
空間が裂ける。
「っ!?」
ペケの真横へ、黒い腕が出現した。
速い。
認識を超えている。
だが。
――蒼銀。
ヒオリの星霊魔法が、先に反応した。
「ぺけ!!」
星光が走る。
黒腕の軌道が逸れる。
その隙へ。
灰銀の斬撃。
――斬。
黒腕が切断される。
轟音。
第四層がさらに崩壊した。
「今の連携……!」
フィリップが目を見開く。
「見えていたのか?」
「いや」
アステリアが静かに首を振る。
「感じ取っていたんです」
灰銀と星霊。
二つの力が、完全に同調し始めている。
◇◇◇
『面白い』
星喰いの声が響く。
すると。
門の奥から、黒霧が溢れ始めた。
そして。
第四層全域へ、“影”が現れる。
「……っ」
ヒオリが息を呑む。
そこにいたのは。
ペケだった。
いや。
“壊れた未来のペケ”。
黒い灰銀魔力。
死んだような瞳。
血塗れの剣。
そして。
その腕の中には、息絶えたヒオリの姿。
「なっ……!?」
ヒオリの顔が青ざめる。
『これがお前たちの未来だ』
星喰いが嗤う。
『星霊は死ぬ』
『灰銀は壊れる』
『何度繰り返しても、同じだ』
黒い幻影のペケが、ゆっくり顔を上げる。
その瞳には、絶望しかなかった。
『守れなかった』
低い声。
『また失った』
「……やめろ」
ペケの灰銀魔力が揺れる。
ヒオリは反射的に彼の手を握った。
「見ないで」
震える声。
「そんなの、未来じゃない」
すると。
ペケの瞳が、少しだけ戻る。
灰銀の揺らぎが収まる。
『無駄だ』
星喰いが低く笑う。
『運命は変わらない』
『灰銀は必ず孤独になる』
その時だった。
「……違う」
小さな声。
ヒオリだった。
蒼い瞳が、真っ直ぐ門の奥を見る。
「ぺけは、一人にならない」
『……』
「私がいるから」
静寂。
第四層が止まったみたいだった。
その瞬間。
灰銀魔力と蒼銀魔力が、再び共鳴する。
暖かい光。
それが、黒い幻影を少しずつ消していく。
『……なるほど』
星喰いの声が低くなる。
『それが今代の答えか』
黄金眼が、ゆっくり細まった。
そして。
門の奥で、“本体”が動き出す。
巨大すぎる影。
世界そのものみたいな質量。
フィアの顔が絶望に染まる。
『だめ……!』
『まだ出てきちゃだめ!!』
だが。
遅い。
巨大な門が、ゆっくりと開き始めた。
そして。
その奥から。
“星を喰らう巨大な口”が、静かに姿を現した。




