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第48話 黒き星姫

 災厄級魔力。


 第四層全域へ放たれたその瞬間、全員の呼吸が止まりそうになった。


「っ……!」


 ヒオリが胸を押さえる。


 重い。


 苦しい。


 存在そのものを押し潰されるような圧。


「う、そだろ……」


 レートの膝が揺れる。


「これ、本当に人型か……?」


 黒棺から現れた少女。


 白銀髪。


 黒いドレス。


 透き通るほど整った顔立ち。


 だが。


 その黄金の瞳だけが、人間のものではなかった。


『――見つけた』


 少女が静かに微笑む。


 その視線は、真っ直ぐヒオリへ向いていた。


「ヒオリ!!」


 ペケが即座に前へ出る。


 灰銀魔力が広がる。


 だが。


 少女は小さく首を傾げた。


『また、灰銀』


 どこか懐かしそうな声音。


『本当に、しつこいね』


 次の瞬間。


 ヒュン、と。


 少女の姿が消えた。


「っ!?」


 全員の視界から完全に消失する。


 速い。


 認識できない。


 だが。


「――後ろだ」


 ペケだけが反応した。


 灰銀剣を振り抜く。


 轟!!


 衝撃波。


 少女の黒爪と灰銀剣が激突する。


「ぺけ!」


 ヒオリが目を見開く。


 少女は、ペケのすぐ目の前にいた。


『へぇ』


 黄金眼が細まる。


『今代の灰銀、少し強い』


 ペケは無言。


 だが。


 灰銀の瞳は鋭いままだ。


「お前は何だ」


『忘れたの?』


 少女が静かに笑う。


『わたしは、“最初の失敗作”』


 空気が凍る。


「失敗作……?」


 セレスティアが顔を強張らせる。


 少女は楽しそうに続けた。


『封星巫女の初期実験体』


『星喰いを封じるために、“星霊”を無理やり器へ押し込まれた子』


 ヒオリの血の気が引く。


 つまり。


 この少女もまた。


 封印の犠牲者。


『でも失敗だった』


 黄金眼が歪む。


『わたし、“向こう側”と混ざっちゃったから』


 黒霧が溢れ出す。


 第四層が悲鳴を上げる。


『だから今は半分、星喰い』


 その瞬間。


 少女の背後へ巨大な黒い翼が広がった。


「っ……!」


 ガルドが剣を構える。


「全員警戒しろ!!」


 だが。


 少女は興味なさそうに周囲を見る。


 そして。


 再びヒオリへ視線を戻した。


『でも安心して』


 にこり、と。


 儚い笑顔。


『次は、ちゃんと成功するから』


 その一言で。


 ヒオリは理解してしまった。


 この子は。


 自分を“次の封星巫女”へしようとしている。


「……嫌」


 小さな声。


 ヒオリの瞳が震える。


 すると。


 少女は少しだけ寂しそうな顔をした。


『どうして?』


『世界を守れるのに』


「違う」


 ヒオリが強く首を振る。


「そんなの、守るって言わない」


『……』


「誰かを永遠に閉じ込めるのは、救いじゃない」


 静寂。


 黒霧だけが揺れる。


 すると。


 少女の黄金眼が、少しだけ揺れた。


『……変わったんだね』


 その視線が、今度はペケへ向く。


『昔の灰銀なら』


『世界のためなら、全部捨てられたのに』


 その瞬間。


 ペケの頭へ、また記憶が流れ込む。


 白銀髪の少女。


 泣きながら笑うフィア。


 崩壊する空。


 そして。


 “自分の手で、誰かを封印へ送った記憶”。


「っ――!」


 ペケの瞳が揺れる。


 灰銀魔力が不安定になる。


『思い出した?』


 少女が静かに笑う。


『お前は昔、“彼女たち”を見捨てた』


 空気が凍る。


「やめろ!!」


 ヒオリが叫ぶ。


 少女が目を瞬かせる。


 ヒオリは、真っ直ぐペケの前へ立った。


「違う」


 蒼い瞳が揺れる。


「ぺけは、そんな人じゃない」


『……どうして言い切れるの?』


「分かるから」


 即答だった。


「この人は、誰かを見捨てて平気な人じゃない」


 ペケが目を見開く。


 ヒオリは振り返らない。


「だから」


 蒼銀魔力が静かに広がる。


「過去が何だったとしても」


「今のぺけを、私は信じる」


 その瞬間。


 灰銀魔力が、静かに安定した。


 黒い侵食が止まる。


 まるで。


 ヒオリの声だけが、彼を現実へ引き戻しているみたいに。


『……あぁ』


 少女が小さく呟く。


 黄金眼が細まる。


『なるほど』


 その時だった。


 第四層最奥。


 巨大な門の向こうから。


 “何か”が笑った。


 ゾワ、と。


 全員の背筋へ悪寒が走る。


『見つけた』


 低い声。


 今までとは違う。


 もっと深い。


 もっと古い。


 そして。


 巨大な黄金の瞳が、ゆっくり門の奥で開いた。


 フィアの顔が絶望に染まる。


『だめ……』


 白銀髪の少女が震える。


『“本体”が、目を覚ました……』

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