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第45話 灰銀暴走

 灰銀魔力が揺らぐ。


 黒冠第四層。


 黒い草原全域へ、重圧のような魔力が広がっていく。


「っ……!」


 ヒオリの呼吸が止まりそうになる。


 分かる。


 今のペケは危ない。


 いつもの静かな魔力じゃない。


 怒り。


 焦燥。


 恐怖。


 それら全部が、灰銀魔力へ混ざっている。


「ぺけ……!」


 ヒオリが震える声で呼ぶ。


 だが。


 ペケは黒竜だけを見ていた。


 灰銀の瞳が、静かに冷えていく。


『新しい封星巫女』


 黒竜の言葉が、まだ響いている。


『お前が“核”になればいい』


 その瞬間。


 灰銀魔力が爆発した。


 轟音。


 第四層の空間そのものが軋む。


「なっ……!」


 ガルドが目を見開く。


「魔力だけで空間を……!?」


 ペケが一歩踏み出す。


 その足元から、黒い草原が崩壊していく。


「殿下!」


 アルトが叫ぶ。


 だが。


 返事はない。


 灰銀の王子は、静かに剣を構えた。


『……その顔』


 黒竜が笑う。


『昔と同じだな、灰銀』


「黙れ」


 低い声。


 だが。


 その声音には、抑え切れない怒気が混ざっていた。


『また守れないのが怖いか』


 黒竜の黄金眼が歪む。


『だから壊れるまで力を使う』


『愚かだ』


 その瞬間。


 ペケの灰銀魔力がさらに膨れ上がった。


「まずい!!」


 アステリアが叫ぶ。


「黒冠が、灰銀へ共鳴してる!!」


 実際そうだった。


 第四層全域の黒霧が、ペケへ吸い寄せられている。


 まるで。


 ダンジョンそのものが彼を暴走させようとしているみたいに。


「止めないと!」


 ヒオリが前へ出る。


 だが。


 黒竜が咆哮した。


 轟!!


 黒炎が広がる。


「ヒオリ様!!」


 ミリアが叫ぶ。


 避けきれない。


 その瞬間。


 灰銀の光が割り込んだ。


 ペケだった。


 黒炎を正面から受け止める。


「ぺけ!!」


 灰銀障壁が軋む。


 だが。


 彼は退かない。


 まるで。


 ヒオリへ攻撃を通すことだけは、絶対許さないみたいに。


「……殺す」


 低い声。


 その瞬間。


 ヒオリの背筋が凍った。


 今の声。


 普段のペケじゃない。


 もっと冷たい。


 もっと壊れた声。


『そうだ』


 黒竜が嗤う。


『怒れ』


『憎め』


『灰銀とは、そういう力だ』


 黒霧がペケへ纏わり付く。


 そして。


 彼の灰銀魔力へ、黒が混ざり始めた。


「っ――!」


 アステリアの顔色が変わる。


「侵食が始まってる……!」


「侵食!?」


 レートが叫ぶ。


「黒冠の深層は、精神と魔力を侵します!」


 セオドアが即答した。


「特に灰銀術式みたいな古代系統は影響を受けやすい!」


 その時だった。


 ペケの周囲空間へ、無数の幻影が現れる。


 崩壊する街。


 血塗れの戦場。


 倒れていく人々。


 そして。


 何度も繰り返される、“ヒオリが死ぬ未来”。


『また失う』


『また守れない』


『だから全部壊せ』


「……やめろ」


 ペケが苦しそうに眉を寄せる。


 だが。


 黒い声は止まらない。


『世界ごと消せば』


『誰も失わない』


 その瞬間。


 灰銀魔力が完全に黒へ染まりかけた。


「ぺけ!!」


 ヒオリが飛び出す。


 誰より早く。


 そして。


 強く、彼を抱き締めた。


「っ……!」


 空気が止まる。


 ペケの瞳が揺れる。


「……ヒオリ」


「駄目」


 震える声。


 でも。


 必死だった。


「そっち行っちゃ駄目」


「……」


「一人で苦しまないで」


 ヒオリの瞳から涙が零れる。


「私はここにいるから」


「だから、戻ってきて……!」


 静寂。


 崩壊音だけが響く。


 その瞬間。


 黒く染まりかけていた灰銀魔力へ、蒼銀の光が重なった。


 暖かい光。


 星霊。


 それが、暴走を少しずつ押し戻していく。


『……星霊』


 黒竜の黄金眼が細まる。


『やはりお前は邪魔だ』


 次の瞬間。


 黒竜の胸部結晶が激しく脈動した。


「っ!?」


 フィアが叫ぶ。


『避けて!!』


 だが。


 遅い。


 黒結晶から放たれたのは――巨大な黒い光。


 第四層そのものを消し飛ばすような破壊光線だった。

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