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第44話 黒竜

 咆哮。


 世界そのものが震える。


 黒い草原の地平線。


 そこから現れた“それ”は、あまりにも巨大だった。


「……は?」


 レートの声が掠れる。


 黒竜。


 だが普通の竜じゃない。


 山のような巨体。


 漆黒の鱗。


 背から噴き出す黒霧。


 そして。


 その両眼だけが、不気味な黄金色に光っていた。


『――――』


 低い唸り。


 空気が重い。


 存在するだけで精神を削られるような圧。


「おいおい……」


 アイリスですら笑みが消える。


「これ、本当にSランクダンジョンの守護存在か?」


「いや……」


 ガルドが険しい顔で呟く。


「下手なSランクじゃない」


 赤眼が細められる。


「災厄級だ」


 その瞬間。


 黒竜が動いた。


「っ!!」


 地面が爆ぜる。


 巨体とは思えない速度。


 一瞬で距離を詰めてくる。


「散れ!!」


 ガルドが怒鳴った。


 直後。


 黒竜の爪が地面を薙ぎ払う。


 轟音。


 黒い草原そのものが吹き飛んだ。


「っ――!」


 レオンハルトがヒオリを抱えて飛び退く。


 セレスティアの水障壁が砕け散る。


 フィリップが黄金剣で衝撃波を受け止めた。


 だが。


「重っ……!!」


 黄金の瞳が歪む。


 押し切られる。


 その時だった。


「兄上!」


 灰銀の光。


 ペケが飛び込む。


 ――轟。


 灰銀剣と黒竜の爪が正面衝突した。


 衝撃波。


 第四層全域へ亀裂が走る。


「ぺけ!!」


 ヒオリが叫ぶ。


 だが。


 ペケは止まらない。


 灰銀魔力を爆発させながら、黒竜を真正面から押し返していた。


「マジかよ……」


 レートが呆然と呟く。


「殿下、ドラゴン押してるんだけど……」


「普通に考えて意味分からんな」


 アイリスが苦笑する。


 しかし。


 黒竜が咆哮した瞬間。


 黒い衝撃波が炸裂した。


「っ!!」


 ペケの身体が吹き飛ぶ。


「ペケ!」


 ヒオリが反射的に駆け出す。


 だが。


 黒竜の黄金眼が、真っ直ぐ彼女を捉えた。


 その瞬間。


 ヒオリの胸元が激しく脈打つ。


『星霊』


 頭へ直接響く声。


『渡せ』


 黒竜が口を開く。


 黒炎。


 圧倒的な破壊の塊。


「ヒオリ様!!」


 ミリアの悲鳴。


 避けられない。


 その時だった。


「――させるか」


 低い声。


 灰銀の影が、ヒオリの前へ立つ。


 ペケだった。


 口元から血を流しながら。


 それでも。


 迷わず前へ出る。


「ぺけ!」


「下がれ」


「でも!」


「いいから」


 灰銀の瞳。


 その奥にあるのは、静かな怒りだった。


 次の瞬間。


 黒炎が放たれる。


 世界を焼き尽くすような黒い炎。


 だが。


 ペケは剣を構えた。


 灰銀魔力が膨れ上がる。


 そして。


「――断ち切れ」


 一閃。


 灰銀の斬撃が、黒炎を真っ二つに裂いた。


 轟音。


 空間ごと切断された炎が左右へ逸れていく。


 その光景に。


 全員が言葉を失った。


「黒炎を……斬った……?」


 ガルドですら呆然としていた。


 だが。


 ペケの呼吸は荒い。


 灰銀魔力が乱れている。


「っ……」


 黒冠が深すぎる。


 ここでは、灰銀の力を使うほど“向こう側”と繋がってしまう。


『灰銀』


 黒竜の黄金眼が細まる。


『またお前か』


 空気が凍った。


「……喋った?」


 レートが顔を引き攣らせる。


 だが。


 ペケの瞳は鋭いままだ。


「お前は何だ」


 黒竜が静かに笑う。


『門番』


『星喰いへ至る道を守るもの』


 その瞬間。


 フィアの顔色が変わった。


『だめ……!』


 白銀髪の少女が叫ぶ。


『その竜は、“核”に繋がってる!!』


「核……?」


 ヒオリが目を見開く。


 次の瞬間。


 黒竜の胸元が、ゆっくり裂けた。


 中にあったのは――巨大な黒い結晶。


 脈動している。


 まるで心臓みたいに。


『星霊』


 黒竜の黄金眼がヒオリを見つめる。


『お前が来れば、封印は完成する』


「っ……!」


 ヒオリの身体が震える。


 完成?


 それはつまり。


『お前が“核”になればいい』


 空気が止まった。


 フィアが泣きそうな声で叫ぶ。


『逃げて!!』


『それは、“新しい封星巫女”を作るための器なの!!』


 ヒオリの血の気が引く。


 つまり。


 自分を、永遠の封印へ変えるつもりだ。


 その瞬間。


 ペケの灰銀魔力が、静かに暴走を始めた。

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