第43話 崩壊層
無数の黄金眼。
巨大な門の向こう。
闇の奥で、“何か”が蠢いていた。
『返せ』
低い声。
黒霧が脈動する。
『星を返せ』
第四層全域が軋み始めた。
「空間崩壊速度上昇!!」
セオドアが叫ぶ。
「このままでは層ごと落ちます!!」
「全員後退!!」
ガルドが怒鳴る。
だが。
その瞬間。
黒い門から、“腕”が伸びた。
巨大。
禍々しい。
まるで空間そのものを掴み潰すような質量。
「っ――!」
フィリップが黄金剣を振るう。
轟音。
斬撃が炸裂する。
だが。
黒腕は止まらない。
「硬すぎる……!」
「兄上!」
ペケが前へ出る。
灰銀魔力が爆発した。
「下がれ」
低い声。
その瞬間。
空気が凍る。
灰銀の光が第四層全域へ広がっていく。
「……まただ」
アステリアが目を見開く。
「黒冠が、彼へ反応している」
実際そうだった。
黒冠内部へ入ってから、ペケの魔力は異常なほど鋭さを増している。
まるで。
このダンジョンそのものが、灰銀継承者を待っていたみたいに。
「ペケ!」
ヒオリが叫ぶ。
だが。
彼は止まらない。
灰銀剣を構える。
そして。
「――断て」
一閃。
灰銀の斬撃が空間ごと裂いた。
黒い腕。
空間断裂。
周囲の黒霧。
全部まとめて切断される。
『――ァァァァァァァ!!』
門の奥から絶叫。
第四層が激しく震えた。
「す、すげぇ……」
レートが呆然と呟く。
「空間ごと斬ってる……」
だが。
ペケの口元から血が零れた。
「ぺけ!」
ヒオリの顔色が変わる。
また無茶している。
その時だった。
フィアが悲しそうに首を振った。
『だめ……』
『まだ深く繋がっちゃだめ……!』
瞬間。
ペケの灰銀魔力へ、黒いノイズが混ざった。
「っ――!」
ペケが初めて苦しそうに顔を歪める。
頭へ流れ込む。
知らない記憶。
絶望。
死。
崩壊。
そして。
“何度も世界を失った記憶”。
『また守れなかった』
『また間に合わなかった』
『またお前は、一人だった』
「……やめろ」
低い声。
だが。
黒い声は止まらない。
『今回も同じだ』
『星霊は死ぬ』
『お前は壊れる』
『だから――』
「やめろ!!」
灰銀魔力が暴走しかける。
「ペケ!!」
ヒオリが反射的に飛び出した。
そして。
彼の手を、強く掴む。
「っ……」
瞬間。
蒼銀の光が広がった。
星霊魔法。
暖かい光。
それが、暴走しかけた灰銀魔力を包み込む。
「……ヒオリ」
ペケの瞳が揺れる。
すると。
ヒオリは泣きそうな顔で彼を見る。
「一人で行かないで」
小さな声。
「また全部、一人で抱え込もうとしてる」
「……」
「私はここにいる」
蒼い瞳が真っ直ぐ彼を見る。
「だから、置いていかないで」
静寂。
崩壊音だけが響く。
そして。
ペケの灰銀魔力が、ゆっくり落ち着いていく。
まるで。
ヒオリの声だけが届いているみたいに。
「……参るな」
掠れた声。
「お前、本当に俺を止める」
「止めるわよ」
「危険だぞ」
「知ってる」
「死ぬかもしれない」
「それでも」
ヒオリは手を離さない。
「隣にいるって決めたから」
その瞬間。
ペケの瞳から、黒いノイズが消えた。
アステリアが小さく息を呑む。
「浄化してる……?」
「いや」
フィリップが静かに言う。
「支えてるんだ」
灰銀と星霊。
互いが互いを壊れないよう繋ぎ止めている。
その時だった。
フィアが苦しそうに叫ぶ。
『早く!!』
『“核”が目覚める!!』
第四層奥。
巨大な門がさらに開く。
その向こうで。
何か巨大な“影”が、ゆっくり起き上がった。
全員の背筋が凍る。
「……あれが」
ガルドの声が低くなる。
「黒冠最深層の守護存在か」
次の瞬間。
巨大な咆哮が第四層全域を揺らした。
そして。
黒い草原の地平線から。
山ほども巨大な“黒竜”が姿を現した。




