第42話 封印の少女
黄金の瞳。
空間の裂け目の奥。
そこから覗く“何か”を見た瞬間、全員の本能が悲鳴を上げた。
『見つけた』
低い声。
世界へ直接響くような、不快な音。
「っ……!」
ヒオリの身体が震える。
星霊魔法が悲鳴を上げていた。
「ヒオリ!」
ペケが即座に前へ出る。
灰銀の魔力が膨れ上がる。
すると。
裂け目の前に立っていた白銀髪の少女が、必死に首を振った。
『だめ……!』
泣きそうな声。
『まだ戦っちゃだめ!!』
その瞬間。
少女の身体から、蒼い鎖が伸びる。
空間断裂へ巻き付き。
強引に“何か”を押し戻し始めた。
『――ッ!!』
世界を軋ませる咆哮。
黄金の瞳が憎悪に染まる。
『封星巫女……!!』
黒い腕が空間から伸びる。
少女を掴もうとした、その瞬間。
「させるか」
灰銀の光。
ペケが踏み込む。
――斬。
一閃。
黒い腕が切断され、霧となって散った。
だが。
ペケの表情は険しい。
「……硬い」
灰銀剣で完全に断てない。
それだけで異常だった。
「殿下!」
アルトたちも前へ出る。
だが。
『下がって!!』
少女が叫んだ。
次の瞬間。
第四層全体が激しく脈動する。
黒い草原が崩れ始めた。
「空間崩壊!?」
セオドアが顔色を変える。
「まずい、この層自体が壊れます!」
「原因は!?」
「向こう側との接続が強すぎる!」
その時。
少女がヒオリを見る。
蒼い瞳。
涙で濡れていた。
『お願い』
掠れた声。
『早く、最深層へ』
ヒオリの胸が痛む。
「あなたは……誰なの」
少女は少しだけ笑った。
儚い。
消えてしまいそうな笑顔。
『わたしは、“フィア”』
『最後の封星巫女』
その名前を聞いた瞬間。
ペケの頭へ、激しい痛みが走った。
「っ――!」
灰銀の瞳が揺れる。
見える。
知らないはずの景色。
血塗れの戦場。
崩壊する空。
そして。
泣きながらこちらへ手を伸ばす、白銀髪の少女。
『――お願い』
『生きて』
「……フィア」
気付けば、口から名前が漏れていた。
少女が目を見開く。
『……覚えて、るの?』
空気が止まる。
ヒオリも、アステリアも、全員がペケを見る。
だが。
ペケ自身も困惑していた。
「……分からない」
頭が痛い。
記憶が混ざる。
これは自分じゃない。
なのに。
“知っている”。
『灰銀……』
フィアの瞳から涙が零れる。
その瞬間だった。
空間断裂が大きく裂けた。
『返せ』
黄金の瞳が完全に開く。
黒霧が爆発した。
「全員伏せろ!!」
ガルドが叫ぶ。
次の瞬間。
巨大な黒い衝撃波が第四層を飲み込んだ。
「っ――!!」
轟音。
視界が黒に染まる。
ヒオリは反射的に目を閉じた。
だが。
痛みは来ない。
恐る恐る目を開ける。
そこには。
自分を庇うように立つ、灰銀の背中があった。
「ぺけ……!」
ペケの周囲には灰銀魔力障壁。
だが。
バキ、と。
障壁へ亀裂が走る。
「殿下!!」
アルトが叫ぶ。
黒い圧力が強すぎる。
押し切られる。
その時だった。
「――星よ」
ヒオリの身体が自然に動いた。
蒼銀の光が広がる。
星霊魔法。
それが灰銀障壁へ重なる。
次の瞬間。
砕けかけた障壁が、再び輝きを取り戻した。
蒼銀と灰銀。
二つの光が重なる。
『また……』
黄金の瞳が憎悪に歪む。
『また繋がるのか……!!』
その瞬間。
フィアが震える声で叫んだ。
『早く最深層へ!!』
『もう、“核”が目覚める!!』
第四層全体が崩れ始める。
空間が裂ける。
星空が歪む。
世界そのものが壊れていく。
「撤退するぞ!!」
ガルドが怒鳴る。
だが。
その時。
黒霧の奥で。
巨大な“門”が、ゆっくり姿を現した。
ヒオリの血の気が引く。
学院で見たものと同じ。
いや。
もっと大きい。
もっと深い。
そして。
その門の向こうから。
無数の黄金眼が、一斉にこちらを見ていた。




