第41話 黄金の群れ
無数の黄金眼。
黒い草原の奥。
闇の中で、数百もの視線がこちらを見つめていた。
「……冗談だろ」
レートの声が引き攣る。
空気が重い。
息苦しい。
ただ見られているだけで、本能が警鐘を鳴らしていた。
「全個体、S級反応……!」
セオドアが顔を強張らせる。
「普通あり得ません!」
「ここが黒冠だからだろうな」
アイリスが双剣を抜いた。
だが。
いつもの余裕は薄い。
相手が悪すぎる。
「陣形維持!」
ガルドの怒声が響く。
「ヒオリ嬢を中心に防衛円形成!」
帝国騎士たちが即座に動く。
だが。
その瞬間だった。
黄金眼の群れが、一斉に動いた。
「来るぞ!!」
黒霧魔獣たちが草原を裂いて突進する。
速い。
まるで黒い流星群。
「っ――!」
レオンハルトが白銀剣を振り抜く。
閃光。
先頭個体を斬り飛ばす。
だが。
「キリがない!!」
左右から次々飛び掛かってくる。
アイリスが笑いながら魔獣の喉を裂き。
アルトの大剣が地面ごと吹き飛ばす。
セレスティアは巨大水壁を展開。
フィリップが黄金剣で群れを薙ぎ払った。
だが。
多すぎる。
「第四層でこれかよ……!」
レートが悲鳴を上げながら魔力弾を放つ。
その時だった。
一体の黒狼が、死角からヒオリへ飛び掛かる。
「ヒオリ!!」
瞬間。
ペケが動いた。
灰銀の光。
音を置き去りにする速度。
――斬。
狼型魔獣の頭部が消し飛ぶ。
さらに。
振り返りざま二体。
踏み込み一閃で三体。
灰銀の剣が振るわれるたび、S級魔獣が霧になって消えていく。
「……なんだあれ」
帝国騎士の一人が呆然と呟く。
「本当に人間か……?」
ペケは止まらない。
その灰銀魔力は、黒冠内部でさらに鋭さを増していた。
まるで。
この場所そのものが、彼を強化しているみたいに。
「ペケ!」
ヒオリが叫ぶ。
彼の動きが速すぎる。
また無茶をしている。
その瞬間。
黒霧魔獣たちが、一斉に方向を変えた。
「っ!?」
全個体が、ペケへ襲い掛かる。
まるで。
“灰銀”を殺すことが最優先みたいに。
「殿下!!」
アルトが飛び出す。
だが。
間に合わない。
数十体同時。
普通なら避けられない。
その時だった。
「――星よ」
蒼銀の光が広がる。
ヒオリだった。
星霊魔法陣が夜空のように展開される。
無数の星光が降り注ぎ。
黒霧魔獣たちを一斉に貫いた。
『――ギァァァァァァァ!!』
悲鳴。
黒霧が浄化されていく。
「なっ……!」
ガルドですら目を見開く。
「S級群体を一撃で……!?」
ヒオリ自身も驚いていた。
以前より、魔法が自然に発動している。
まるで。
黒冠内部で、星霊魔法が“馴染み始めている”。
「……危険だな」
アステリアが静かに呟く。
「適応速度が速すぎる」
その時だった。
突然。
第四層全体が脈動した。
ドクン、と。
巨大な心臓みたいな音。
「っ!?」
全員が動きを止める。
すると。
草原中央。
蒼い川の奥。
空間がゆっくり裂け始めた。
「空間断裂……!」
セオドアが顔色を変える。
だが。
出てきたのは魔獣ではなかった。
一人の少女。
白銀の髪。
透けるような身体。
蒼い瞳。
まるで幻みたいな存在。
「……え」
ヒオリが目を見開く。
少女は静かにこちらを見ていた。
泣きそうな顔で。
『やっと……』
掠れた声。
『来てくれた』
その瞬間。
ヒオリの胸元が激しく脈打つ。
星霊魔法が共鳴していた。
「封星巫女……!」
アステリアが息を呑む。
だが。
次の瞬間。
少女の背後空間が、大きく歪んだ。
黒い手。
巨大な黄金眼。
そして。
世界を軋ませるような低い声が響く。
『見つけた』
全員の背筋が凍る。
星喰い。
その“視線”が。
完全にこちらへ届いていた。




