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第34話 遠征メンバー

 翌朝。


 王立アルカディア学院中央広場。


 まだ朝靄の残る石畳に、多くの学生たちが集まっていた。


 理由は一つ。


 “黒冠の奈落調査遠征隊”の正式発表。


「すげぇ人数だな……」


 レートが辺りを見回しながら呟く。


 騎士科。


 魔導科。


 研究科。


 さらに各国護衛騎士まで集結している。


 まるで小規模軍隊だった。


「当然だ」


 フィリップが腕を組む。


「相手はSランクダンジョンだからな」


 その空気は重い。


 誰もが理解している。


 これは学生遠征なんて甘いものじゃない。


 国家規模災厄への対処だ。


 その時。


 学院長ケン・アルディウスが中央壇上へ姿を現した。


「これより、“黒冠の奈落調査遠征隊”を正式編成する」


 ざわめきが止む。


「今回の遠征は、極めて危険性が高い」


「そのため、同行を許可するのは各科上位生徒と、特別認可者のみだ」


 学院長の杖が鳴る。


 空中へ名前が浮かび上がった。


『ペケ・ヴァルディア』


『ヒオリ・リュミエール』


『アステリア・シルヴァレイン』


『フィリップ・ヴァルディア』


『レオンハルト・グランシェル』


『セレスティア・マーレフィス』


『アルト・アルヴェルト』


『アイリス・ヴァンレイ』


『セオドア・クロイツ』


『レート・イルヴァ』


「……濃すぎるだろ」


 レートが引き攣った顔をする。


「王族率高くない?」


「高いですね」


 セオドアが真顔で頷いた。


「大陸情勢的にはかなり危険です」


 実際そうだった。


 王国王女。


 帝国皇子。


 エルフ第一王女。


 海洋王国王女。


 もし遠征失敗となれば、大陸全土が揺れる。


「ですが」


 アステリアが静かに空を見る。


「このメンバーでなければ、黒冠には届けません」


 翡翠の瞳。


 その声音には確信があった。


◇◇◇


 遠征説明後。


 学院武装庫前。


「ほら」


 アイリスがニヤニヤ笑いながらヒオリへ近付く。


「ついに二人でダンジョン旅行だぞ」


「旅行じゃないから!?」


「いやでも流れ的には完全にそうだろ」


「違うってば!」


 ヒオリが真っ赤になる。


 すると。


「……騒がしい」


 低い声。


 ペケだった。


 黒い遠征用コート姿。


 腰には灰銀剣。


 相変わらず無駄に格好良い。


「お、来た来た」


 アイリスが笑う。


「お前さ、遠征中ヒオリ様から離れる気ゼロだろ」


「当然だ」


 即答だった。


 ヒオリの思考が止まる。


「だって狙われてる」


「理由が物騒なのよ!」


「事実だ」


「そうだけど!」


 ペケは本当に真面目だった。


 だから余計困る。


 その時。


「……殿下」


 アルトが静かに近付いてくる。


「準備は完了しました」


「ああ」


 ペケが頷く。


 するとアルトは、少しだけ視線をヒオリへ向けた。


「ヒオリ様」


「え?」


「殿下をお願いします」


 ヒオリが目を瞬かせる。


「……私?」


「はい」


 アルトは真面目な顔だった。


「殿下は昔から、一人で抱え込みすぎます」


「ですが」


 その視線が少し柔らかくなる。


「貴女がいると、少しだけ止まるので」


 ヒオリの胸が熱くなる。


 その時だった。


「アルト」


 ペケが低く言う。


「余計なことを言うな」


「事実です」


「お前最近口が軽い」


「アイリスほどではありません」


「それはそう」


 アイリスが頷いた。


「俺は軽い」


「自覚あるんだ……」


 ヒオリは思わず吹き出しそうになる。


 すると。


 ペケがちらりと彼女を見る。


「……笑ったな」


「え?」


「その顔の方がいい」


 また自然にそう言う。


「〜〜〜っ!」


 ヒオリが顔を覆った。


 無理。


 本当に心臓が持たない。


◇◇◇


 一方その頃。


 学院屋上。


 ルシアン・ヴァルディアは、静かに北空を見上げていた。


「……黒冠、か」


 金眼が細められる。


 その隣へ、一人の黒衣人物が現れる。


「本当に行かせるのですか」


「ええ」


 ルシアンは微笑んだ。


「むしろ、行かなければ始まりません」


「星霊と灰銀」


「両方が黒冠へ辿り着いた時、封印は次の段階へ進む」


 黒衣が低く問う。


「それで世界はどうなります」


 沈黙。


 そして。


 ルシアンは楽しそうに笑った。


「さぁ?」


「でも」


 金眼が細く歪む。


「きっと、退屈ではなくなりますよ」


◇◇◇


 その夜。


 ヒオリは自室の窓辺へ立っていた。


 遠く北空。


 黒冠の方向。


 胸元の痣が、微かに熱い。


「……待ってる」


 また声が聞こえる。


 冷たい。


 けれどどこか悲しい声。


『星よ』


 ヒオリは小さく指を握る。


 怖い。


 でも。


 逃げるわけにはいかない。


 その時。


 コンコン、と窓を叩く音。


「え?」


 振り返る。


 そこには。


 窓外バルコニーに立つペケの姿があった。


「……ぺけ!?」


「眠れないだろ」


 当然みたいに言う。


「少し付き合え」


 月明かりの中。


 灰銀の王子は静かに手を差し出していた。

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