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第25話 星を断つ剣

 蒼銀と灰銀。


 二つの光が夜空を貫く。


 その輝きは、まるで新しい星が生まれたようだった。


 学院全域を覆っていた黒霧が、少しずつ押し返されていく。


「黒霧が……!」


 セオドアが目を見開く。


「浄化されている……!?」


「違います」


 アステリアが静かに首を振った。


「“拒絶”しています」


 翡翠の瞳が、空の二人を見つめる。


「星霊と灰銀」


「本来、星喰いを滅ぼすために生まれた対災厄術式」


 その瞬間。


 空間断裂の奥で、“星喰い”が絶叫した。


『やめろォォォォォ!!』


 黒い門が震える。


 無数の腕が暴れ狂う。


 まるで恐怖しているようだった。


「……怯えてる?」


 レートが呆然と呟く。


 SS級災厄。


 世界を滅ぼした存在が。


 今。


 たった二人を恐れている。


「ペケ」


 ヒオリが空中で小さく彼の名を呼ぶ。


 蒼銀の光に包まれた彼女は、まるで星そのものみたいに綺麗だった。


 そして。


 ペケもまた、彼女を見ていた。


 灰銀の瞳。


 その奥にあった孤独が、少しずつ消えていく。


「……不思議だ」


 低い声。


「何が?」


「お前がいると」


 ペケは静かに剣を握り直す。


「壊れなくて済む気がする」


 その言葉に。


 ヒオリの胸が強く脈打った。


 夢の中で。


 この人は、ずっと一人だった。


 誰にも頼らず。


 誰にも救われず。


 だから最後には、壊れてしまった。


 でも今は違う。


「大丈夫」


 ヒオリは小さく笑った。


「今度は、私がいるから」


 その瞬間。


 ペケの灰銀魔力が、大きく脈動した。


 まるで応えるみたいに。


 すると。


 空間断裂の奥で、黄金の瞳が狂ったように歪む。


『認めぬ!!』


 黒霧が暴走する。


 巨大な門が完全に開き始めた。


 闇。


 絶望。


 世界の裏側。


 その向こうから、“本体”が姿を現そうとしている。


「まずい!」


 学院長が叫ぶ。


「完全顕現するぞ!!」


 アステリアの顔色も変わった。


「間に合わない……!」


 だが。


 ペケだけは静かだった。


 灰銀の剣を握る。


 そして。


 ヒオリの星光が、その刀身へ絡み付いていく。


 蒼銀と灰銀が混ざり合う。


 すると。


 剣の形が変わり始めた。


「……っ!?」


 フィリップが目を見開く。


 刀身へ、古代文字が浮かぶ。


 星の紋章。


 封印術式。


 そして。


 まるで夜空を削り出したような、美しい剣へ変貌していく。


「星断剣……」


 アステリアが震える声を漏らした。


「伝承に残る、“星を断つ刃”……!」


 その瞬間。


 ペケの頭へ、また記憶が流れ込む。


 古代戦争。


 崩れる世界。


 そして。


 星喰いへ向かって、この剣を振るった“前の自分”。


「……なるほど」


 ペケが静かに呟く。


 ようやく分かった。


 なぜ自分が、この剣を継いでいるのか。


 なぜヒオリへ惹かれるのか。


 全部。


 遠い昔から続いていた。


『また……また邪魔をするのか灰銀!!』


 星喰いが咆哮する。


 巨大な黒槍が無数に生成された。


 学院へ降り注ぐ。


「全員防御!!」


 フィリップたちが前へ出る。


 だが。


 その瞬間。


 ペケが剣を構えた。


「ヒオリ」


「うん」


 二人の魔力が重なる。


 星が共鳴する。


 そして。


 ペケは静かに踏み込んだ。


 ――斬。


 たった一振り。


 それだけだった。


 だが。


 世界が裂けた。


 灰銀と蒼銀の斬撃が夜空を走る。


 空間断裂。


 黒槍。


 黒霧。


 全部を巻き込みながら、一直線に“門”へ届く。


『ァァァァァァァァァァァァァ!!』


 星喰いが絶叫した。


 巨大な門へ亀裂が走る。


 崩壊。


 蒼銀の光が闇を喰い破っていく。


「押し返してる……!」


 レオンハルトが息を呑む。


 SS級災厄を。


 たった二人が。


「いや……」


 学院長が震える声で呟く。


「違う」


 その目は、空を見上げていた。


「封印し直しているんだ」


 次の瞬間。


 巨大な光柱が天へ突き抜けた。


 夜空が白く染まる。


 星喰いの悲鳴。


 崩れる門。


 そして。


 世界を覆っていた黒霧が、少しずつ消えていった。


 静寂。


 誰も言葉を発せない。


 ただ。


 空の中心で。


 蒼銀と灰銀の光だけが、静かに輝いていた。

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