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第24話 遥か昔の約束

 巨大な門が開いていく。


 空間断裂の奥。


 闇の中で軋むそれは、まるで“世界の裏側”へ繋がっているようだった。


「……まずい」


 学院長の顔色が青ざめる。


「あれが完全解放されれば、本当に終わる」


 誰も反論できない。


 本能が理解している。


 あの門の向こうには、“出してはいけない何か”がいる。


『――開け』


 黄金の瞳が笑う。


『我らを縛る星を壊せ』


 その瞬間。


 黒霧がさらに膨れ上がった。


 学院北部が闇へ呑まれていく。


「結界維持限界です!」


 教授陣の悲鳴。


 結界術式に次々と亀裂が走る。


「くそっ……!」


 フィリップが剣を握り締めた。


 だが。


 止め切れない。


 SS級災厄。


 これはもう、一国単位の戦力が必要な戦場だ。


 その時だった。


「……ヒオリ」


 空中で、ペケが静かに振り返る。


 灰銀の瞳。


 その奥に、微かな迷いがあった。


「今から俺が、門ごと斬る」


 空気が止まる。


「は?」


 レートが素で固まった。


「門ってあの門か!?」


「無茶です!」


 セオドアが叫ぶ。


「空間断裂ごと斬るなんて、人間に可能な芸当じゃ――」


「可能かどうかじゃない」


 ペケは静かに言う。


「やるしかない」


 その言葉に。


 ヒオリの胸が締め付けられる。


 まただ。


 この人は。


 いつも“自分一人で終わらせよう”とする。


「……やだ」


 ヒオリが掠れた声を漏らす。


 蒼銀の瞳が揺れていた。


「また、一人で行くの……?」


 ペケの動きが止まる。


 その瞬間。


 頭の奥へ、知らない景色が流れ込んできた。


 星空。


 崩れゆく世界。


 血塗れの灰銀の剣士。


 そして。


 泣きながらその背中を追い掛ける、蒼い少女。


『待って』


『一人で行かないで』


『今度こそ、あなたを――』


「っ……!」


 ヒオリが頭を押さえる。


 記憶?


 違う。


 これは。


 もっと古い。


 魂そのものへ刻まれた何か。


「ヒオリ様!?」


 ミリアが駆け寄ろうとする。


 だが。


 その前に、蒼銀の光が弾けた。


 星霊魔法が完全覚醒を始める。


「な……!」


 学院長が絶句する。


「この反応は……!」


 ヒオリの背後へ、巨大な星光魔法陣が浮かび上がった。


 古代文字。


 星座。


 失われた術式。


 そして。


 その中心で。


 ヒオリの蒼い瞳が、まるで夜空みたいに輝いていた。


『――契約承認』


 声。


 今度は全員が聞いた。


 男でも女でもない。


 星そのものが喋っているような声。


『星霊継承者確認』


『灰銀適合者確認』


 その瞬間。


 ペケの灰銀魔力が、強制的に引き寄せられる。


 蒼銀と灰銀。


 二つの光が、完全に重なった。


「……っ!」


 ペケが初めて苦しそうに顔を歪める。


 膨大な情報が頭へ流れ込んでくる。


 古代戦争。


 星喰い。


 滅びた文明。


 そして。


 何度も繰り返される、“同じ結末”。


『また失うのか』


 声が響く。


『灰銀』


 ペケの瞳が揺れる。


 見える。


 知らないはずの景色が。


 血に染まった星空。


 腕の中で冷たくなっていく少女。


 そして。


 届かなかった手。


「……っ」


 ペケの呼吸が乱れる。


 ヒオリが目を見開いた。


 今。


 この人も同じものを見ている。


『今度こそ』


 星の声。


『繰り返すな』


 その瞬間。


 ヒオリは自然に手を伸ばしていた。


「ペケ」


 名前を呼ぶ。


 灰銀の瞳がこちらを向く。


 そして。


 ヒオリは泣きそうな顔で笑った。


「今度は、一緒に戦おう?」


 静寂。


 空が裂ける音だけが響く。


 ペケは数秒、何も言わなかった。


 けれど。


 やがて。


 本当に少しだけ。


 彼は笑った。


 初めてだった。


 孤独じゃない未来を見た人の顔だった。


「ああ」


 低い声。


 けれど優しい。


「……一緒に終わらせる」


 その瞬間。


 蒼銀と灰銀の光が、完全に一つになる。


 学院全域へ巨大な光柱が立ち上った。


 夜空を貫く、星の輝き。


 そして。


 空間断裂の奥で。


 “星喰い”が、初めて恐怖に歪んだ。

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