第120話 灰銀の威圧
評議場全体へ、灰銀の威圧が落ちた。
空気が重い。
息が詰まる。
まるで猛獣が室内へ現れたみたいだった。
「……っ」
研究院の男が息を呑む。
ペケはゆっくり室内へ入ってくる。
右腕には包帯。
顔色も万全じゃない。
それでも。
誰一人、彼を“弱っている”とは思えなかった。
「ぺけ……!」
ヒオリが駆け寄る。
「なんで起きてるの!?」
「寝てろって言われた」
「なら寝ててよ!!」
即答だった。
だが。
その声には、明らかに安堵が混ざっていた。
ペケは少しだけ目を細める。
「泣いてないな」
「誰のせいだと思ってるの……!」
また涙目だった。
そのやり取りに。
張り詰めていた空気が、少しだけ揺らぐ。
だが。
「ヴァルディア帝国第二王子」
中央席の老人が静かに口を開く。
「まだ安静が必要なはずだ」
「問題ない」
「問題大ありだろ……」
レートが小声で突っ込んだ。
全員同意だった。
ペケは評議会を見渡す。
その視線だけで、研究院側の数人が黙り込んだ。
「質問は俺が受ける」
低い声。
「ヒオリには触れるな」
「しかし――」
「聞こえなかったか?」
銀雷が、バチッと弾けた。
一瞬。
室温が下がったみたいに空気が冷える。
研究院の男が押し黙る。
その時。
「……相変わらずだな」
別の声が響いた。
奥の席。
長い銀髪を後ろで束ねた女性が、呆れたようにため息を吐く。
「空を斬った直後とは思えん」
「知り合い?」
ガブが小声で聞く。
アステリアが頷いた。
「中央評議会第四席」
「“蒼氷の魔女”エルミナ・フェルクス」
ヒオリ達が目を見開く。
大陸最高峰の魔導師の一人。
その本人が、ペケを見て苦笑していた。
「昔から無茶ばかりする」
「……昔?」
アイリスが眉を寄せる。
だが。
ペケは話を逸らすように視線を動かした。
「今回の件だが」
評議場の空気が再び引き締まる。
「空門出現」
「王級存在ゼルヴァリオン確認」
「星喰いの存在も確定した」
ざわっ――。
評議会側が騒つく。
「星喰いだと……?」
「記録上の災厄ではないのか」
「封印済みでは……」
動揺。
当然だった。
神話級存在。
本来、現代で確認されるはずがない。
「静粛に」
中央席の老人が杖を鳴らす。
そして。
重い視線が、ペケへ向いた。
「一つ確認する」
「……」
「ゼルヴァリオンは、お前を“灰銀の王”と呼んだ」
静寂。
「どういう意味だ?」
室内の空気が止まる。
ヒオリも、思わずペケを見た。
ペケは少しだけ沈黙した。
そして。
「……分からない」
短く答える。
だが。
その瞬間。
エルミナだけが、僅かに目を細めた。
まるで。
“嘘ではないが、全部でもない”と理解したみたいに。
その時だった。
突然。
ノアの声が評議場へ響く。
『緊急報告』
全員が振り返る。
『王都地下深度区域にて、大規模魔力反応を観測』
空気が変わる。
『反応源――ヴァルディア帝国使節団滞在区画』
「……何?」
ペケの目が細まる。
次の瞬間。
『空間侵食反応、確認』
ぞわっ――。
ヒオリの背筋に悪寒が走った。
『王都内部にて、“門”の発生を確認しました』




