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第119話 中央評議会

 ペケの指先が、僅かに動いた。


「……ぺけ?」


 ヒオリが振り返る。


 だが。


 それ以上の反応はなかった。


 静かな寝息だけが聞こえる。


「気のせい……?」


 小さく呟いた時だった。


「ヒオリ様」


 学院騎士が再度声を掛ける。


「中央評議会がお待ちです」


「……はい」


 ヒオリは、もう一度だけペケの手を握った。


「すぐ戻るね」


 返事はない。


 でも。


 その温もりだけで、少し安心できた。


 王都アルディア中央区。


 評議塔。


 白銀と蒼を基調とした巨大建築。


 各国要人や学院上層部すら出入りする中枢施設。


「うわぁ……」


 ガブが小声で呟く。


「絶対怒られる」


「だから何回言うんですか」


 ミーチーが呆れていた。


 重厚な扉が開く。


 中には既に、多数の人物が並んでいた。


 学院幹部。


 王国騎士団。


 研究院。


 そして――。


「……」


 中央最上段。


 六つの席。


 中央評議会。


 アルディア最高権力者達。


 空気が重い。


 ヒオリは自然と背筋を伸ばした。


「ヒオリ・リュミエール」


 低い声が響く。


 中央席。


 白髪の老人が、静かにこちらを見ていた。


「今回の空域災害について、説明を求める」


「……はい」


 ヒオリが小さく頷く。


 だが。


 次の瞬間。


「その前に」


 別の男が口を開いた。


 黒衣。


 鋭い目。


 研究院側の人物だった。


「確認したいことがあります」


 嫌な空気。


 ヒオリの胸がざわつく。


「あなたは、“星霊砲”を起動した」


 静寂。


「……はい」


「そして、王級存在と接触した」


「……」


「さらに」


 男の視線が細まる。


「空間干渉後の灰銀魔力と共鳴し、侵食を停止させた」


 空気が変わった。


 周囲の視線が、一斉にヒオリへ向く。


「……何が言いたいんですか」


 レートが一歩前へ出る。


 だが。


 男は無視した。


「ヒオリ・リュミエール」


「あなたは本当に、“人間”ですか?」


 空気が凍った。


「っ――」


 アイリスの顔色が変わる。


 ガブも絶句していた。


 ヒオリ自身も、言葉を失う。


 その時だった。


 ギィ……。


 評議場の扉が、再び開く。


 全員が振り返る。


 そこに立っていたのは――。


「……は?」


 レートが固まった。


 銀灰の髪。


 黒い外套。


 右腕へ包帯を巻いたまま。


 ペケが、そこに立っていた。


「ぺけ!?」


 ヒオリが目を見開く。


 場の空気が、一瞬で変わる。


 中央評議会ですら沈黙した。


 ペケは静かに室内を見渡す。


 そして。


 ヒオリへ向けられていた視線を確認すると、僅かに目を細めた。


「俺の婚約者に」


 低い声。


「勝手な詮索をするな」


 その瞬間。


 評議場全体へ、灰銀の威圧が落ちた。

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