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第113話 灰銀の剣

 灰銀魔法陣が、空を覆う。


◇◇◇


 誰も言葉を失っていた。


 巨大すぎる。


 アルカディアすら霞むほどの超大型術式。


◇◇◇


「……なに、あれ」


 アイリスが呆然と呟く。


◇◇◇


 幾重もの魔法陣。


 その全てが銀雷を纏っていた。


 空間そのものへ干渉している。


◇◇◇


『空間切断術式』


 ノアが静かに告げる。


『灰銀系統最高位』


『観測名称――《界断》』


◇◇◇


「いや名前から怖いんだけど!?」


 レートが叫ぶ。


◇◇◇


「最高位ってことは……」


 アステリアの顔が強張る。


◇◇◇


『現代では使用不可能とされていた術式です』


◇◇◇


 静寂。


◇◇◇


「つまり?」


 ガブが恐る恐る聞く。


◇◇◇


『使える時点で異常です』


◇◇◇


「だよねぇ!!」


◇◇◇


 その時。


 ペケの足元から、銀雷が弾けた。


◇◇◇


 バチッ――。


◇◇◇


「……っ」


 ヒオリの瞳が揺れる。


 近くにいるだけで分かる。


 危険だ。


 今の術式。


 ペケ自身にも、とんでもない負荷が掛かっている。


◇◇◇


「ぺけ」


 ヒオリが小さく呼ぶ。


◇◇◇


 ペケは振り返らない。


 ただ空を見ていた。


◇◇◇


「ノア」


『はい』


「空門固定開始」


◇◇◇


『了解』


『《アルカディア》全拘束機構展開』


◇◇◇


 次の瞬間。


 方舟側面から、無数の蒼銀鎖が射出された。


◇◇◇


 ギャァァァァァン!!!!


◇◇◇


 空間へ突き刺さる。


 空門そのものを縫い止めるみたいに。


◇◇◇


『拘束成功』


『固定時間――四七秒』


◇◇◇


 同時に。


 ゼルヴァリオンの圧が爆発した。


◇◇◇


『愚かな』


◇◇◇


 空が割れる。


 巨大な黒腕が、鎖を掴み始めた。


◇◇◇


『この程度で』


『止まると思うな』


◇◇◇


 バキバキバキッ――!!


◇◇◇


 蒼銀鎖に亀裂。


◇◇◇


『拘束崩壊まで残り三九秒』


◇◇◇


「減るの早すぎ!!」


 アマカーラが叫ぶ。


◇◇◇


 だが。


 ペケは静かだった。


◇◇◇


 灰銀剣を、ゆっくり構える。


◇◇◇


 その瞬間。


 空気が変わった。


◇◇◇


 重い。


 鋭い。


 まるで世界そのものが、剣圧に押されているみたいだった。


◇◇◇


『……灰銀』


 ゼルヴァリオンの瞳が細まる。


◇◇◇


『何故そこまで抗う』


◇◇◇


「決まってる」


◇◇◇


 低い声。


◇◇◇


 ペケの視線が、一瞬だけヒオリへ向いた。


◇◇◇


「守るって決めた」


◇◇◇


 ヒオリの瞳が揺れる。


◇◇◇


 その直後。


 ペケの魔力が、一気に解放された。


◇◇◇


 轟ッ――――――!!!!


◇◇◇


 銀雷が天を裂く。


 空域全体へ灰銀光が広がった。


◇◇◇


「うわっ……!」


 ガブが目を覆う。


◇◇◇


 空が、銀色に染まっていく。


◇◇◇


『界断術式臨界到達』


 ノアが告げる。


『切断対象設定確認』


◇◇◇


 ペケは静かに口を開いた。


◇◇◇


「空門」


◇◇◇


 その瞬間。


 ゼルヴァリオンが、初めて明確な怒気を放った。


◇◇◇


『やめろ』


◇◇◇


 空間が暴走する。


 巨大黒腕が、一斉に伸びた。


◇◇◇


『それに触れるなァァァァァァ!!!!』


◇◇◇


「遅い」


◇◇◇


 ペケが踏み込む。


◇◇◇


 世界が、置き去りになった。


◇◇◇


 一瞬。


 本当に一瞬で。


 ペケの姿が、空門中央へ到達する。


◇◇◇


 灰銀剣が振り下ろされた。


◇◇◇


「――《界断》」


◇◇◇


 次の瞬間。


 空が、斬れた。

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