第110話 空の災王
空間の奥で。
巨大な蒼黒の瞳が、こちらを見ていた。
◇◇◇
その瞬間。
世界から音が消えた。
◇◇◇
「……ぇ」
ガブの声が震える。
立っているだけで苦しい。
呼吸が重い。
心臓を掴まれているみたいだった。
◇◇◇
『……観測確認』
ノアの声が、珍しく僅かに乱れていた。
『王級存在』
『第一封鎖域突破を確認』
◇◇◇
「第一封鎖域って何……」
レートが青ざめる。
◇◇◇
『説明を簡略化します』
『本来、“世界側”が侵入を拒絶している状態を封鎖域と呼称します』
『現在、突破されました』
◇◇◇
「簡略化して最悪なんだけど!?」
◇◇◇
空が軋む。
巨大な瞳が、ゆっくり開いていく。
◇◇◇
その視線だけで。
雲が裂けた。
◇◇◇
「……うそ」
アイリスが息を呑む。
「見ただけで……?」
◇◇◇
『ゼルヴァリオン』
アズラエルが低く頭を垂れる。
あの怪物が。
まるで臣下みたいに。
◇◇◇
『空王よ』
◇◇◇
次の瞬間。
空門が、さらに裂けた。
◇◇◇
巨大な“指”が現れる。
黒より深い蒼。
星みたいな紋様。
世界とは異なる魔力。
◇◇◇
「っ……!」
ヒオリの星痕が激しく疼く。
蒼銀光が漏れ出した。
◇◇◇
「ヒオリ!?」
ペケが即座に支える。
◇◇◇
「これ……駄目……」
ヒオリの顔色が悪い。
「近い……」
「何がだ」
◇◇◇
ヒオリは震える瞳で、空を見た。
◇◇◇
「あれ、“星”の力使ってる……」
◇◇◇
静寂。
◇◇◇
アステリアの表情が凍る。
「……ありえない」
◇◇◇
「知ってるの?」
レートが振り返る。
アステリアは、苦しそうに唇を噛んだ。
◇◇◇
「星録時代に、一度だけ記録があるの」
「え……」
「あれは、“星喰い”」
◇◇◇
空気が凍る。
◇◇◇
「星を……喰う?」
ガブが呆然と呟いた。
◇◇◇
「世界外生命体」
アステリアの声が重い。
「文明ごと空を侵食して、星霊そのものを喰らう災厄」
◇◇◇
その時。
セラが小さく震えた。
◇◇◇
「……お姉ちゃん」
◇◇◇
「え?」
ヒオリが目を見開く。
◇◇◇
セラは、空の奥を見ていた。
泣きそうな顔で。
◇◇◇
「あそこに……いる」
◇◇◇
直後。
ゼルヴァリオンの瞳が、ヒオリ達を見下ろした。
◇◇◇
ドクン――。
◇◇◇
空間全体が脈動する。
その瞬間。
ヒオリの脳裏へ、大量の光景が流れ込んできた。
◇◇◇
崩壊した空。
燃える方舟。
泣き叫ぶ人々。
黒い翼。
蒼銀の少女。
◇◇◇
「っぁ……!!」
ヒオリが頭を押さえる。
◇◇◇
「ヒオリ!!」
◇◇◇
だが。
その瞳は、空を見たままだった。
◇◇◇
「……知ってる」
小さな声。
「私、あれを知ってる……」
◇◇◇
全員が息を呑む。
◇◇◇
その時だった。
ゼルヴァリオンの巨大な指先が、ゆっくりこちらへ向く。
◇◇◇
『――星霊』
◇◇◇
声。
直接、頭の中へ響く。
◇◇◇
『見つけた』




