第108話 星霊砲
白銀光が、空を埋め尽くした。
◇◇◇
アルカディア中央部。
巨大な星霊紋が展開される。
幾重もの蒼銀魔法陣。
方舟全体が震えていた。
◇◇◇
『星霊砲――出力上昇』
『三〇%』
『五〇%』
『七〇%』
◇◇◇
「うわぁぁぁちょっと待って待って待って!!」
ガブが半泣きで手すりにしがみつく。
「揺れすぎ揺れすぎ!! これ落ちる!!」
「落ちません!!」
ミーチーが全力でガブの襟を掴んでいた。
◇◇◇
だが。
空気は笑える状況じゃなかった。
空一面。
黒槍が降り続けている。
数千。
いや数万。
“空そのもの”が敵だった。
◇◇◇
「ヒオリ!!」
アイリスが叫ぶ。
「急いで!!」
「……っ!」
ヒオリの両手が震える。
操船光陣。
流れ込んでくる膨大な魔力。
意識が呑まれそうになる。
◇◇◇
『星霊適合率確認』
『操船者承認完了』
『星霊回路――接続』
◇◇◇
「きゃ……ぁっ……!」
ヒオリが苦しそうに息を漏らした。
星霊砲。
これは普通の兵器じゃない。
“星霊”そのものを燃料にしている。
◇◇◇
「ヒオリ!」
ペケが即座に支える。
その手は驚くほど落ち着いていた。
「呼吸を乱すな」
「でも……これ……」
「飲まれるな。お前が制御しろ」
低い声。
不思議と、それだけで恐怖が静まっていく。
◇◇◇
アズラエルの黄金眼が細められる。
『……方舟級兵装』
『何故、人類が扱える』
◇◇◇
「知らないよそんなの!」
レートが叫ぶ。
「こっちも初見なんだよ!!」
◇◇◇
その瞬間。
空門がさらに脈動した。
ドクン――。
黒空間が裂ける。
巨大な“顔”みたいなものが、奥から覗いた。
◇◇◇
『確認』
ノアの声が静かに響く。
『王級存在反応増大』
『ゼルヴァリオン現界率三四%』
◇◇◇
「まだ出てきてないのに圧がやばいんだけど……」
アマカーラの額から汗が落ちる。
空気が重い。
立っているだけで本能が警鐘を鳴らしていた。
◇◇◇
その時。
セラが小さく震えた。
「……駄目」
空色の瞳が、空門を見上げる。
「出たら、いっぱい死ぬ」
◇◇◇
ヒオリがセラの手を握る。
「大丈夫」
優しい声だった。
「絶対止めるから」
◇◇◇
その瞬間。
セラの星痕が輝いた。
空色光。
そして。
ヒオリの蒼銀光と重なる。
◇◇◇
『星霊波長一致』
『補助適合者確認』
『星霊砲出力上昇』
◇◇◇
「え?」
ヒオリが目を見開く。
次の瞬間。
星霊砲の光量が、一気に跳ね上がった。
◇◇◇
『八五%』
『九〇%』
『最終安全制御――解除』
◇◇◇
「おい待て解除って何!?」
レートが嫌な顔をする。
ノアは無慈悲だった。
『簡単に説明します』
『今から撃つ砲撃は山脈を消し飛ばせます』
「簡単すぎて怖い!!」
◇◇◇
だが。
ペケだけは空を見ていた。
黄金眼。
黒い門。
そして、その奥。
「……来るな」
低く呟く。
◇◇◇
直後だった。
空門内部から。
巨大な黒腕が、さらに三本現れる。
空間そのものを引き裂きながら。
◇◇◇
『ゼルヴァリオン現界率五二%』
『間に合いません』
◇◇◇
静寂。
だが次の瞬間。
ペケが前へ出た。
◇◇◇
「ノア」
『はい』
「星霊砲照準を空門中央へ固定」
『固定完了』
「ヒオリ」
ペケが振り返る。
灰銀の瞳。
静かなのに、圧倒的に強い。
◇◇◇
「撃ち抜け」
◇◇◇
その言葉で。
ヒオリの恐怖が消えた。
信じてくれている。
なら。
応えたい。
◇◇◇
ヒオリは両手を強く重ねた。
「――お願い、《アルカディア》」
◇◇◇
蒼銀光が爆発する。
方舟全体が鳴動した。
空気が震える。
星が軋む。
◇◇◇
『星霊砲――発射』
◇◇◇
次の瞬間。
世界が白に染まった。




