第107話 灰銀と空の王
『……灰銀』
アズラエルの黄金眼が、ペケを見下ろす。
空が震える。
まるで。
世界そのものが警戒しているみたいだった。
◇◇◇
ペケは静かだった。
灰銀魔力。
銀雷。
空中へ立ちながら、ただアズラエルを見ている。
◇◇◇
「ぺけ……」
ヒオリが小さく呟く。
その横顔は、いつもよりずっと冷たかった。
◇◇◇
『何故、お前が居る』
アズラエルが低く唸る。
『灰銀は既に――』
途中で止まる。
次の瞬間。
ペケの魔力が膨れ上がった。
轟――。
空が軋む。
◇◇◇
「続けろ」
低い声。
「何を知ってる」
その瞬間。
アズラエルの巨大な翼が僅かに止まった。
まるで。
“予想外”を見たみたいに。
◇◇◇
『……記録と違う』
黄金眼が細まる。
『今代の灰銀は、未完成のはず』
「失礼だな」
レートが思わず呟いた。
「完成してこれなの怖いんだけど」
全員同意だった。
◇◇◇
その時。
アズラエル背後の黒空間が、大きく脈動する。
ドクン――。
巨大な黒い腕が、さらに這い出てきた。
◇◇◇
『空門侵食率六三%』
ノアが警告する。
『このままでは王級存在が現界します』
「だからその王級ってのがゼルヴァリオンなんだよね!?」
アイリスが叫ぶ。
『肯定』
「嫌すぎる」
◇◇◇
その瞬間。
腕の中の少女が震えた。
「……来る」
小さな声。
「空が、泣いてる」
◇◇◇
ヒオリの星痕と。
少女の空色星痕が共鳴する。
蒼銀光が広がった。
◇◇◇
「あなた、名前は?」
ヒオリが優しく聞く。
少女は少し呆然としていた。
そして。
震える声で答える。
「……セラ」
◇◇◇
「セラちゃん」
ヒオリが笑う。
「もう大丈夫」
その瞬間。
セラの瞳から涙が零れた。
◇◇◇
『星霊』
アズラエルが低く唸る。
『何故そこまで守る』
すると。
ヒオリは少し困った顔をした。
「えっと……」
数秒考えて。
「助けたいから?」
静寂。
◇◇◇
アズラエルが止まる。
完全に理解不能みたいな顔だった。
◇◇◇
「理由っている?」
ヒオリが首を傾げる。
「泣いてるなら助けたいよ」
その声は、あまりにも真っ直ぐだった。
◇◇◇
その時。
空間が裂ける。
アズラエルが動いた。
轟ッ――!!
巨大黒槍が、ヒオリへ放たれる。
◇◇◇
「ヒオリ!!」
だが。
次の瞬間。
銀雷が、黒槍を“消し飛ばした”。
◇◇◇
轟――――ッ!!
空が裂ける。
ペケだった。
◇◇◇
「話してる最中だ」
低い声。
灰銀の瞳が冷えている。
その瞬間。
アズラエルが、初めて明確な殺意を向けた。
◇◇◇
『灰銀』
『やはり、お前は邪魔だ』
◇◇◇
次の瞬間。
空全域へ、無数の黒翼魔法陣が展開された。
「っ!?」
アステリアが青ざめる。
「まずい!!」
「何!?」
「あれ、“天墜槍”!!」
◇◇◇
空が黒く染まる。
そして。
何千、何万もの黒槍が現れた。
空域殲滅魔法。
◇◇◇
「ちょっと待って量おかしい!!」
レートが叫ぶ。
その時。
ノアが静かに告げる。
『回避不可能』
空気が凍る。
◇◇◇
だが。
ペケだけは動じなかった。
「ノア」
『はい』
「アルカディアの主砲使えるか」
『現時点では制限中』
「解除条件は」
静寂。
ノアが、ヒオリを見る。
◇◇◇
『正式操船者による承認』
「えぇ!?」
またヒオリだった。
◇◇◇
その瞬間。
アズラエルの天墜槍が、一斉に降り始める。
黒い雨。
空の終焉。
◇◇◇
「ヒオリ!!」
ペケが叫ぶ。
「撃て」
◇◇◇
蒼い瞳が揺れる。
怖い。
でも。
守りたい。
◇◇◇
ヒオリは、操船光陣へ両手を伸ばした。
「――《アルカディア》!!」
その瞬間。
方舟中央部が、“太陽みたいに輝いた”。
◇◇◇
『主砲解放』
『星霊砲――起動』
◇◇◇
白銀光が、空を埋め尽くした。




