第106話 四天眷アズラエル
「……四天眷」
アステリアの声が震える。
「あれ、王直属最上位……!」
◇◇◇
空が覆われる。
巨大すぎる翼。
浮遊島一つを呑み込めそうな影。
そして。
額へ刻まれた、黒い王紋。
◇◇◇
『――アズラエル』
ノアが静かに識別する。
『四天眷序列第二位』
『空域殲滅特化個体』
「名前からして嫌すぎる」
レートが真顔で呟く。
だが。
冗談言ってる余裕は無かった。
◇◇◇
アズラエルの黄金眼が、ゆっくりヒオリを見る。
その瞬間。
星痕が激しく脈打った。
「っ……!」
息が苦しい。
空気が重い。
まるで。
空そのものに睨まれているみたいだった。
◇◇◇
『星霊』
低い声。
空全域へ響く。
『返してもらおう』
「……返す?」
ヒオリが少女を抱き締める。
すると。
腕の中の少女が震えた。
「やだ……」
「え?」
「戻りたくない……っ」
涙声だった。
◇◇◇
その瞬間。
ヒオリの瞳が変わる。
蒼銀魔力が強く揺れた。
「この子、嫌がってる」
静かな声。
だが。
明確な拒絶だった。
◇◇◇
『……拒むか』
アズラエルの巨大翼が広がる。
空間が軋む。
次の瞬間。
無数の黒槍が、空から降り注いだ。
◇◇◇
「ヒオリ!!」
ペケが叫ぶ。
だが。
ヒオリは逃げなかった。
その代わり。
蒼銀魔力が、彼女の周囲へ展開する。
◇◇◇
「――《星霊障壁》!!」
蒼い光壁。
星光が空を覆う。
◇◇◇
轟轟轟轟轟――!!
黒槍群が激突する。
衝撃。
暴風。
だが。
ヒオリは耐えた。
◇◇◇
「え……」
アステリアが目を見開く。
「防いだ……?」
その声には驚愕が混ざっていた。
四天眷の攻撃。
本来なら、一国級防御結界ですら砕かれる。
◇◇◇
その時だった。
ヒオリの腕の中で。
少女の胸元が、小さく光る。
◇◇◇
「……?」
ヒオリが見る。
そこには。
“空色の星痕”が刻まれていた。
◇◇◇
アステリアが息を呑む。
「まさか……!」
◇◇◇
「その子」
金色の瞳が震える。
「空の星霊……!?」
静寂。
全員が凍り付いた。
◇◇◇
「え」
ヒオリが固まる。
「星霊って私だけじゃないの!?」
「そこ!?」
アイリスが思わず突っ込む。
◇◇◇
その瞬間。
アズラエルが、初めて怒気を露わにした。
『返せ』
空が割れる。
巨大な黒翼が、さらに広がった。
◇◇◇
『その娘は』
黄金眼が細まる。
『――王の器だ』
◇◇◇
静寂。
その言葉の意味を理解するより早く。
空が崩れた。
◇◇◇
アズラエルの背後。
空間そのものが裂ける。
そして。
巨大な“黒い腕”が現れた。
「っ……!?」
ヒオリが息を呑む。
深海で見た。
あの感覚。
門の向こう側。
世界外側の存在。
◇◇◇
『空門侵食拡大』
ノアが警告する。
『このままでは現界します』
「現界って何が!?」
レートが叫ぶ。
◇◇◇
その時。
アステリアが、青ざめた顔で呟いた。
「……空喰王」
静寂。
◇◇◇
「ゼルヴァリオンが、もう出てくる……!」
◇◇◇
次の瞬間だった。
灰銀閃が、“空を断ち切った”。
轟――――ッ!!
◇◇◇
アズラエルの巨大黒翼が、一瞬で吹き飛ぶ。
『……ッ!?』
初めて。
四天眷が驚愕した。
◇◇◇
その前へ。
灰銀魔力を纏ったペケが、静かに降り立つ。
銀雷が空を走る。
その瞳は冷えていた。
◇◇◇
「人を器扱いするな」
低い声。
だが。
その怒気は、今までで一番重かった。
◇◇◇
アズラエルが、ゆっくりペケを見る。
『……灰銀』
その瞬間。
空全域が震えた。
まるで。
“敵を認識した”みたいに。




