第105話 終焉の空域
《アルカディア》は、雲海を突き抜けていた。
白銀の船体。
光の翼。
そして。
後方から迫る、三体の超巨大空喰獣。
◇◇◇
「速い速い速い!?」
ヒオリが半泣きで叫ぶ。
景色が流れすぎている。
雲が線になっていた。
◇◇◇
『現行速度・時速三八〇〇』
ノアが平然と告げる。
「何て?」
レートが聞き返す。
『時速三八〇〇』
静寂。
「頭おかしい」
セオドアが真顔で呟いた。
全員同意だった。
◇◇◇
だが。
後方の空喰獣達も追ってくる。
巨大な翼。
空間侵食。
雲海を喰らいながら飛行していた。
◇◇◇
「追いつかれる!?」
アイリスが叫ぶ。
『問題ありません』
ノアが答える。
『《アルカディア》は逃走特化性能も保有』
「万能すぎない?」
ヒオリが困惑する。
◇◇◇
その瞬間。
船尾側面装甲が展開した。
白銀魔法陣。
そして。
無数の光弾が発射される。
◇◇◇
ドドドドドドドッ――!!
「うわぁぁぁ!?」
アイリスだけ楽しそうだった。
◇◇◇
光弾群が、後方空喰獣へ直撃する。
轟音。
爆炎。
だが。
完全撃破には至らない。
◇◇◇
『対象耐久値高』
『撃退には中枢破壊が必要』
ノアが冷静に分析する。
その時。
アステリアが前方を見て、息を呑んだ。
「……見えてきた」
◇◇◇
雲海の向こう。
そこには。
“空の世界”が広がっていた。
◇◇◇
浮遊島群。
白い塔。
天空都市。
空を泳ぐ巨大生物。
そして。
崩れ落ちる島々。
◇◇◇
「……綺麗」
ヒオリが呆然と呟く。
幻想的だった。
でも。
同時に壊れている。
空の一部が黒く侵食され。
浮遊島が次々落下していた。
◇◇◇
「これが……天空群島」
ガブが息を呑む。
その時だった。
空域全体へ、鐘の音が響く。
ゴォォォォン――。
◇◇◇
「え?」
アステリアの顔色が変わる。
「まずい……!」
「何!?」
「あの鐘、“崩落警鐘”です!!」
◇◇◇
次の瞬間。
前方巨大浮遊島が、“崩れた”。
轟ォォォォォン――!!
「っ!?」
島全体が傾く。
建物が落ちる。
悲鳴。
空の民達が逃げ惑っていた。
◇◇◇
「……助けないと」
ヒオリが前へ出る。
だが。
アステリアが首を振った。
「駄目です!!」
「え?」
「止まったら囲まれます!!」
実際。
後方では三体の超巨大空喰獣が迫っている。
空門まで行かなければ終わる。
でも。
◇◇◇
ヒオリは、崩れ落ちる島を見た。
泣いている子供。
逃げる人達。
そして。
空へ落ちていく少女。
◇◇◇
「っ!!」
考えるより先に、身体が動いていた。
「ヒオリ!?」
ペケが目を見開く。
次の瞬間。
ヒオリが、《アルカディア》外へ飛び出した。
◇◇◇
「えぇぇぇぇぇ!?」
アイリス絶叫。
でも。
ヒオリ本人も半分勢いだった。
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
普通に落ちていた。
◇◇◇
「何やってんだあいつ!?」
レートが叫ぶ。
その時。
ヒオリの星痕が輝く。
蒼銀光。
そして。
空そのものが、彼女を“持ち上げた”。
◇◇◇
「……え?」
ヒオリが止まる。
落ちていない。
浮いている。
◇◇◇
『空域適合確認』
ノアが呟く。
『星霊、飛行権限一部解放』
「そんな権限あるの!?」
ヒオリが叫ぶ。
でも今はそれどころじゃない。
◇◇◇
落下していた少女へ、ヒオリが手を伸ばす。
「掴まって!!」
少女が涙目で手を伸ばす。
その瞬間。
ヒオリは少女を抱き抱えた。
◇◇◇
だが。
その直後。
巨大な影が、空を覆う。
◇◇◇
『――星霊』
低い声。
見上げる。
◇◇◇
そこには。
今までよりさらに巨大な空喰獣が居た。
島一つを覆うほどの翼。
黄金眼。
そして。
その額には、“王紋”が刻まれていた。
◇◇◇
アステリアの顔が凍り付く。
「……四天眷」
震える声。
「あれ、王直属最上位……!」




