第104話 方舟の主
第104話 方舟の主
『――《アルカディア》正式操船者、適合開始』
「……また私!?」
ヒオリの悲鳴が、船内へ響いた。
◇◇◇
蒼い魔法陣。
浮かぶ身体。
周囲を舞う無数の光粒。
完全に“選ばれし者”みたいな演出だった。
◇◇◇
「すごーい!!」
アイリスだけテンションが高い。
「よくないよ!?」
ヒオリは必死だった。
すると。
ノアが静かに説明する。
『星霊因子適合率九八%』
『旧管理者権限との同期を確認』
「旧管理者?」
ヒオリが瞬く。
◇◇◇
その時。
また記憶が流れ込む。
◇◇◇
空。
白い飛空船。
そして。
笑っている少女。
蒼い髪。
白い翼。
彼女が操船席へ座っていた。
『アルカディア、前へ』
その瞬間。
巨大飛空船が、空を駆ける。
◇◇◇
『もし、次の時代が来たら』
少女が振り返る。
『この船を、また飛ばしてね』
◇◇◇
「っ……!」
ヒオリが息を呑む。
胸が苦しい。
懐かしい。
でも知らない。
◇◇◇
「ヒオリ!」
ペケが即座に支える。
浮いていた身体が、ゆっくり降りる。
「大丈夫か」
「……うん」
でも。
まだ心臓が早い。
◇◇◇
すると。
ノアが、少しだけ首を傾げた。
『不思議』
「え?」
『星霊反応は過去管理者と酷似』
『しかし人格波形は別個体』
静寂。
◇◇◇
「……転生とか?」
アイリスが呟く。
「軽く言うな」
セオドアが真顔で突っ込む。
だが。
否定できない空気だった。
◇◇◇
その時だった。
超巨大空喰獣メルディアが、空から急降下してくる。
轟ォォォォォン!!
巨大な嘴が、《アルカディア》結界へ直撃した。
◇◇◇
『結界耐久率低下』
『このままでは突破されます』
ノアが告げる。
「どうする!?」
アステリアが叫ぶ。
◇◇◇
その瞬間。
ヒオリの前へ、操船席のような光陣が現れた。
「……え」
『正式操船権限移行中』
『操船者へ進行権を委譲』
「いや知らないよこんなの!?」
ヒオリが本気で困る。
◇◇◇
すると。
ノアが少しだけ考える。
『……感覚です』
「雑!!」
レートが吹き出した。
◇◇◇
「ヒオリ」
ペケが静かに言う。
灰銀の瞳が真っ直ぐ彼女を見る。
「やれ」
「無茶振りすぎるよ!?」
「大丈夫だ」
短い声。
でも。
妙に安心する。
◇◇◇
その時。
グラン=ゼヴァ達が、同時に咆哮した。
三方向からの突撃。
空間侵食。
黒雷。
完全包囲。
◇◇◇
「っ……!」
ヒオリが操船光陣へ手を伸ばす。
その瞬間。
《アルカディア》全体へ、蒼銀の光が走った。
◇◇◇
『操船同期完了』
『方舟機関起動』
『空域航行形態へ移行します』
◇◇◇
ゴォォォォォン――!!
巨大飛空船が、浮いた。
いや。
“跳ねた”。
◇◇◇
「きゃぁぁぁぁぁ!?」
アイリス達が吹き飛びかける。
次の瞬間。
《アルカディア》が、常識外れの速度で空を駆け始めた。
◇◇◇
「速っ!?」
レートが叫ぶ。
景色が流れる。
雲海を突き抜ける。
空喰獣達が一気に後方へ置き去りになった。
◇◇◇
『回避成功』
ノアが平然と言う。
だが。
ヒオリ本人が一番驚いていた。
「え、ちょ、動いた!?」
『操船成功です』
「感覚で本当にいけた!?」
全員同じ気持ちだった。
◇◇◇
その時。
遥か後方。
三体の超巨大空喰獣が、一斉に翼を広げる。
そして。
空全域へ響く咆哮と共に、“追跡”を開始した。
◇◇◇
一方その頃――。
天空群島最奥。
巨大水晶前。
空喰王ゼルヴァリオンは、静かに笑っていた。
『方舟が飛んだか』
黄金眼が細まる。
『ならば歓迎しよう』
その瞬間。
背後空間が、大きく裂けた。
黒い空。
無数の黄金眼。
そして。
“空門”の奥から、さらに巨大な影が蠢いていた。
◇◇◇
『――終焉の空へ』




