第102話 空核の少女
『――助けて』
その声は確かに聞こえた。
巨大怪鳥グラン=ゼヴァの胸奥。
“核”として埋め込まれている少女から。
◇◇◇
静寂。
誰もすぐには動けなかった。
あまりにも異様だったから。
空喰獣。
災厄の怪物。
その中心に、“人”が居る。
◇◇◇
「……ふざけてる」
アステリアが震える声で呟く。
金色の瞳が揺れていた。
「また……」
その声に。
ヒオリは気付く。
この子も知っているんだ。
“誰かが犠牲になる世界”を。
◇◇◇
その瞬間。
グラン=ゼヴァが暴れ始めた。
キィィィィィィィィィッ!!
巨大な翼が空を裂く。
暴風。
黒雷。
《アルカディア》が激しく揺れる。
「っ!!」
ヒオリが手摺へ掴まる。
◇◇◇
『敵性反応増大』
『空間侵食開始』
ノアが警告する。
すると。
怪鳥周囲の空間が、“崩れ始めた”。
「空が……割れてる?」
アイリスが青ざめる。
そこには。
黒い亀裂が広がっていた。
まるで。
世界そのものへ傷が入っているみたいに。
◇◇◇
「核を破壊すれば止まるのか?」
ペケが静かに聞く。
アステリアが顔を歪める。
「駄目です!!」
「え?」
「あの子も死にます!!」
静寂。
◇◇◇
その時だった。
ルナが、小さく呟く。
『……似てる』
蒼い瞳が揺れる。
『昔の、わたし達に』
その言葉が。
全員の胸へ重く落ちた。
◇◇◇
深海。
門。
鍵。
役割。
犠牲。
また同じだ。
◇◇◇
「なら」
ヒオリが前へ出る。
蒼銀魔力が、静かに溢れ始める。
「助ける方法探そう」
即答だった。
◇◇◇
「ヒオリ」
ペケが見る。
だが。
ヒオリの瞳は真っ直ぐだった。
「壊すだけじゃ終わりたくない」
静かな声。
「この子も助けたい」
その瞬間。
胸奥の少女が、僅かに反応した。
◇◇◇
『……星霊』
小さな声。
閉じていた少女の瞳が、ゆっくり開く。
蒼空色の瞳。
涙で濡れていた。
◇◇◇
『……どうして』
少女が震える。
『わたし、怪物なのに』
その瞬間。
ヒオリは、迷わず答えた。
「違うよ」
蒼い瞳が真っ直ぐ少女を見る。
「助けてって言ったでしょ?」
◇◇◇
静寂。
その瞬間。
少女の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
◇◇◇
だが。
次の瞬間だった。
グラン=ゼヴァ全身へ、“黒い侵食”が走る。
『――黙れ』
低い声。
違う。
今までと違う。
もっと巨大で。
もっと深い。
◇◇◇
空が震える。
天空そのものが軋む。
そして。
ヒオリの星痕が、今までで最も激しく脈打った。
「っぁ……!!」
「ヒオリ!?」
ペケが支える。
◇◇◇
その時。
ヒオリの脳裏へ、知らない光景が流れ込む。
◇◇◇
白い空。
崩れる浮遊島。
泣いている翼の少女達。
そして。
巨大な“黒い太陽”。
その中央に居る、一体の存在。
黄金眼。
無数の翼。
空を喰らう闇。
◇◇◇
『我は』
低い声。
世界へ響く。
◇◇◇
『――空喰王ゼルヴァリオン』
◇◇◇
「っ――!!」
ヒオリが息を呑む。
その瞬間。
グラン=ゼヴァの黄金眼が、一斉に開いた。
そして。
空の彼方から、“さらに巨大な影”が近付いてくる。
◇◇◇
アステリアの顔から血の気が消えた。
「嘘……」
震える声。
「あれ、“王直属”……!?」
◇◇◇
雲海を割りながら現れたのは。
三体。
超巨大空喰獣。
それぞれが、一つの浮遊島ほど巨大だった。
◇◇◇
ノアの瞳が赤く点滅する。
『警告』
『敵性存在追加確認』
『戦力差――極大』
静寂。
そして。
ノアが初めて、“焦ったような声”で告げた。
『……マスター』
『逃走を推奨します』




