第101話 灰銀、空を裂く
《アルカディア》上部装甲が開く。
暴風。
空。
そして。
空喰獣グラン=ゼヴァ。
◇◇◇
巨大怪鳥は、明らかに警戒していた。
無数の黄金眼。
その全てが、ペケを見ている。
まるで。
“危険な何か”を本能で理解したみたいに。
◇◇◇
「ぺけ!!」
ヒオリが叫ぶ。
「無茶しないで!!」
だが。
ペケは振り返らなかった。
「無茶じゃない」
低い声。
「試すだけだ」
「その台詞大体危ない時なんだよ!!」
完全に実績があった。
◇◇◇
すると。
ノアが静かに告げる。
『戦闘甲板展開』
ゴォォォォン――。
《アルカディア》船首部分が変形していく。
白銀装甲。
光の翼。
そして。
巨大な浮遊戦闘甲板が展開された。
◇◇◇
「すっご……」
アイリスが呆然と呟く。
空中へせり出した白銀の戦場。
その中央へ。
ペケが歩いていく。
◇◇◇
次の瞬間。
グラン=ゼヴァが咆哮した。
キィィィィィィィィッ!!
巨大な闇弾が放たれる。
空間を削りながら飛来する黒光。
◇◇◇
「っ!!」
ヒオリが息を呑む。
だが。
ペケは動かなかった。
灰銀魔力が、静かに広がる。
銀雷。
威圧。
そして。
空気そのものが軋む。
◇◇◇
「――墜ちろ」
静かな声。
その瞬間。
灰銀斬撃が、“空を裂いた”。
轟――――ッ!!
銀色の線が走る。
次の瞬間。
グラン=ゼヴァの闇弾が、空中で消滅した。
「え……?」
アステリアが固まる。
◇◇◇
だが。
終わりじゃない。
灰銀の一閃は、そのまま空を走り続けた。
そして。
巨大怪鳥の右翼を、“丸ごと切断”した。
◇◇◇
『ギャァァァァァァァァァァッ!?』
絶叫。
黒銀の羽が舞う。
巨大怪鳥が、初めて苦痛の悲鳴を上げた。
◇◇◇
「うわぁ……」
ガブが引いていた。
「兄上また規模おかしくなってる」
ミーチー居たら多分頭抱えてた。
◇◇◇
その時。
ヒオリの星痕が強く脈打つ。
「っ……!」
視界が揺れる。
また記憶。
◇◇◇
星空。
白い神殿。
そして。
一人の青年。
灰銀の瞳。
長い銀髪。
その姿は、今のペケによく似ていた。
『空は苦手なんだよな』
青年が苦笑する。
その隣で。
誰かが笑っていた。
蒼い髪。
白い翼。
でも。
顔だけが見えない。
◇◇◇
『だから落ちる前に助けて』
少女が笑う。
『灰銀』
◇◇◇
「っ――!!」
ヒオリが息を呑む。
その瞬間。
空から、“歌”が聞こえた。
◇◇◇
悲鳴みたいな歌。
壊れた空の歌。
そして。
グラン=ゼヴァの身体が、再生を始める。
「なっ!?」
切断された翼が、黒い霧から再構築されていく。
◇◇◇
『再生確認』
ノアが淡々と告げる。
『通常攻撃では完全撃破不可』
「先に言え!!」
レートが叫ぶ。
◇◇◇
その時だった。
アステリアが震える声で言う。
「核……!」
「え?」
「空喰獣には核があるんです!!」
金色の瞳が怪鳥中央を見る。
「胸の奥に、“空核”が!!」
◇◇◇
次の瞬間。
グラン=ゼヴァの胸元が裂ける。
そこから現れたのは――
“人の顔”だった。
「っ……!?」
ヒオリ達が凍り付く。
◇◇◇
少女だった。
白い髪。
閉じた瞳。
胸元へ埋め込まれたまま眠っている。
「……嘘」
アステリアの顔が青ざめる。
「生贄……?」
◇◇◇
その瞬間。
グラン=ゼヴァが再び咆哮する。
だが今度は。
その声の奥から、確かに少女の声が聞こえた。
『――助けて』
静寂。
そして。
ペケの灰銀魔力が、さらに膨れ上がる。
灰銀の瞳が、静かに細まった。
「……気に入らないな」
その声音だけ。
少し怒っていた。




