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【夕刊シチ】デイリー両晋南北朝  作者: ヘツポツ斎
【〇四月】三六五年〇八月~三九四年〇三月

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番外編 苻堅さま、諌止の声をねじふせる

 五胡十六国時代随一の名君と言えば苻堅ですが、かれは383年の淝水の戦いで史上まれにみるレベルの大惨敗を喫し、破滅しています。この戦いに先立っては多くの臣下から反対を受けていましたが、苻堅はそれらをねじ伏せ出征しました。


 このやり取りが、正直、めっちゃ面白い。ただ現在やっている企画の尺には合わないので、せっかくだし番外編として出します。題して「苻堅さま、諌止の声をねじふせる」。


 苻堅が華北を一通り制圧すると、今度はまだ制圧できていない東晋の討伐に乗り出したい、と言い出します。この発言について『屠本十六国春秋』に載る賛成者は2、反対者は7。彼らはどのように苻堅に説き、そして苻堅はどのように応じたのでしょうか。これを屠本十六国春秋の原文と、そのあらまし紹介で追ってみましょう。



○マエフリ


堅臨太極殿,引群臣會議曰:

自吾綂承大業,垂三十載,芟夷逋穢,四方略定,唯東南一隅未賓王化。吾毎思天下不一,未嘗不臨食輟餔。今欲起天下兵以討之,計兵仗精卒可得九十七萬,吾將躬先啟行,薄伐南裔。此行也,朕與陽平公之任,非諸將之事,於諸卿意何如?


三十年戦ってきて、どうにも南の片隅だけが従わなくて飯ものどを通らない。なのでそろそろ百万の軍を率いて動き、我がもとにかしづかせたい。あ、もちろんこれは俺や弟の苻融が頑張ることだからね、君たちに丸投げするつもりはないよ! とりあえず意見をくれ!



■賛成者① 朱肜


秘書監朱彤曰:

陛下應天順時,恭行天罰,嘯吒則五嶽摧覆,呼吸則江海絕流。若一舉百萬,必有征無戰,晉主自當銜璧輿櫬,稽顙軍門。若迷而弗悟,必走死江海,猛將追之,即可賜命南巢,返中州士民,使復其桑梓。然後迴駕岱宗,告成封禪,起白雲. who中壇,受萬歲於中岳,爾則終古一時,書契未有。

堅大悅曰:

吾之志也。


「陛下サイコーです! 陛下が百万の軍を自らお動かしになったら晋なんて一瞬です、一瞬! そもそも彼らも故郷を捨てて南に逃れてるんだから故郷に戻してやるのが人道ってもんですし、仮に自分たちの迷妄を悟らなかったとしても滅ぶだけですし! それで天下を統一したらそのまま泰山に詣で、この未曾有の大功を天帝に報告申し上げましょう!


苻堅、大喜びで「だよねー!」と言います。



□反対派① 権翼


尚書左僕射權翼曰:

臣以為晉未可伐。夫以紂之無道,天下離心,八百諸侯不謀而至,武王猶曰彼有人焉,回師止斾,三仁誅放,然後奮戈牧野。今晉道雖微,未有大惡,謝安、桓沖,江左偉才,君臣輯睦,上下同心,可謂晉有人焉。臣聞師克在和,今晉和矣,未可圖也。

堅默然良久,曰:

諸君各言其志。


待ってください、武力による征伐って「無道の王を討つ」ものであって、いまの晋王のどこに無道がありますか? しかも無道の王の下にすら忠臣がいたというのに、よりによって晋王の下にいるのが「あの」謝安と桓沖ですよ? やるな、とは言いません。けど今じゃないです。

苻堅、ぐぬぬ、となり意見を募ります。



□反対派② 石越


太子左衛率石越曰:

吳人恃險偏隅,不賓王命,陛下親臨六師,問罪衡、越,誠合人神四海之望。但今歲鎭星守斗牛,福德在吳,懸象無差,犯之必有天殃。且晉中宗,藩王耳,夷夏之情,咸共推之,遺愛猶在于人。昌明,其孫也,國有長江之險,朝無昏二之釁,臣愚以為利用修德,未宜動師。孔子曰:遠人不服,修文德以來之。願保境養民,伺其虛隙。


いずれはやりましょう、しかし、やはり今ではありません。天の星々も今は晋を祝福していますし、そもそも長江が天然のバリヤーとしてヤバいのに、なんだかんだで司馬睿から司馬曜までを、かの地のものは皇帝として確かに仰いでいます。今考えるべきは文化で圧倒させて屈服させることです。で、隙を見せたらやりましょう。



堅曰:

吾聞武王伐紂,逆犯歲星,天道幽遠,未易可知者。昔夫差威陵上國,而為勾踐所滅,仲謀澤被全呉,孫皓因三世之業,龍驤一呼,君臣面縛,雖有長江,其能固乎?今以吾之眾旅,投鞭於江,足斷其流,又何險之足恃乎?


苻堅は反論します。

天意? 周の武王は自国に凶兆が出ていたタイミングで討伐したが? そんなもんを我々が考えても仕方がないだろう! 過去に栄えた春秋呉も三国呉も結局滅んでいる、ましてやいま我軍の充実すること、馬鞭を投げるだけで長江を埋め立てられるほどだ! バリヤーなぞなんぼのものだ!



越曰:

臣聞紂為無道,天下患之。夫差淫虐,孫皓昏暴,眾叛親離,所以敗也。今晉雖無德,未有大罪,深願陛下且厲兵積粟,以待天時。


石越も再反論です。

紂も夫差も孫皓も民から恨まれてました、だから滅びました。いまの晋がそこまで恨まれていますか? もう一回言います、いまじゃないです。



○中休み①


群臣各言利害,廷議者久之不決。堅曰:

此所謂築室道旁,無時可成,吾當內斷於心耳。

群臣皆出,獨留陽平公融議之。堅曰:

自古定大事者,不過一二臣而已。今群議紛紜,徒亂人意,吾當與汝決之。


群臣の協議で「結論が出ませんでした」。なので苻堅が言います。

道端のひと適当に捕まえて家の建て方を聞いている気分になってきたぞ。もういい、独断で決める、解散、解散!

そして弟の苻融だけを残して、改めて言うのです。

大事は少数で決めるべきだよな! やろうぜ苻融!



□反対派③ 苻融、その1


融曰:

今伐晉有三難:歲星在牛斗,吳、越之福,不可以伐一也;晉主休明,朝臣用命,不可以伐二也;我數戰,兵疲將倦,有憚敵之心,不可以伐三也。諸言不可者,策之上也,願陛下納之。


石越に基本的には賛成です、けどそこにもうひとつ。いま、うちの兵、連戦で疲労困憊してます。ヤバいですよ、まずいです。



堅作色曰:

汝復如此,天下之事,吾當誰與言之!今強兵百萬,資仗如山,吾雖未稱令主,亦不為暗弱。乘累捷之威,擊垂亡之寇,何患不克!豈可復留此殘賊,使長為國家之憂哉!


苻堅、怒ります。

お前までそんなこと言いだしてどうするんだ! いける、いけるって! 勝てるって! お前がうちの軍信じなくてどうすんのよ! お前だって天下に賊が横行してんのやでしょ!



融泣曰:

晉不可伐,昭然甚明。今勞師大舉,恐無萬全之功。且臣之所憂,非此而已。陛下寵育鮮卑、羌、羯,布滿畿甸,舊人族類,徙斥遐方。今傾國而去,如有風塵之變者,其如宗廟何!監國以弱卒數萬留守京師,鮮卑、羌、羯攢聚如林,此皆國之賊也,我之仇也。臣恐非但徒返而已,將有不測之變生於腹心肘腋,後雖悔之,不可及也。臣智識愚淺,誠不足采。王景略一時奇士,陛下每擬之孔明,獨不記其臨終之言乎?


苻融、泣きます。

いや無理、無理ですって! しかも兄上、いま都で鮮卑と羌放し飼いじゃないですか! 万が一があったとき、それがそのまま爆発しますよ! 王猛の言葉思い出してくださいよ、あいつもやめろって言ってたじゃないですか!



○中休み②


於是朝臣進諫者眾。堅南遊灞上,從容謂群臣曰:

軒轅,大聖人也,其仁若天,其智若神,猶有不順者,從而征之,居無常所,以兵為衛,故能日月所照,風雨所至,莫不率從。今天下垂平,惟東南未殄,朕沗荷大業,巨責攸歸,豈敢優遊卒歲,不建大同之業!每思桓溫之寇也,江東不可不滅。今有勁卒百萬,文武如林,鼓行而摧遺晉,若商風之隕秋籜。而朝廷內外皆言不可,吾實未解所由。昔晉武若信朝士之言而不征吳者,天下何由一軌!吾計決矣,不復與諸卿議也。


その後も様々な者が諫めましたが、苻堅、聞く耳を持ちません。それどころか宴会で言い出します。

あのね、お前らわかってないみたいだけど、俺の天下統一は天命なの。その天命に晋だけが逆らってるの。天命に逆らうやつがいるなんて許せる? 許せないっしょ? だいたいお前らはいまじゃないって言うけどさ、これまで何度桓温が攻めてきた? 潰せるときに潰さなきゃまずいっしょ? それっていまじゃね? にもかかわらずお前らが反対する理由がわからん! やるったらやるの! 反対意見は聞きません!



□反対派④ 太子苻宏(つまり、後継者)


太子宏進曰:

今歲在吳分,又晉君無罪,若大舉不捷,恐威名外挫,財力內竭,此群下所以疑也。


天の話も晋の皇帝の話も、いずれもいまは討つべきでないと告げていると思うのです。こういうタイミングで起こしても失敗するのでは、と皆が言っている気がするのですが」



堅曰:

昔吾滅燕,亦犯歲而捷,天道固難知也。秦滅六國,六國之君豈皆暴虐乎!


苻堅の反論はかたくなです。

かつて燕を滅ぼしたときも不吉だと言われていたが成功したぞ。では始皇帝が各国を滅ぼしたとき、各国の王は暴虐だったのか?



■賛成派② 慕容垂


冠軍將軍、京兆尹慕容垂言于堅曰:

弱吞于強,小併于大,此理勢自然,非難知也。夫以陛下神武應期,威加海外,虎旅百萬,韓白滿朝,而蕞爾江南,獨違王命,豈可復留之以遺子孫哉!詩云:謀夫孔多,是用不集。陛下斷自聖心足矣,何必廣詢朝眾。晉武平吳,所仗者張、杜二三臣而已。若從朝眾之言,豈有混一之功。


陛下の神武なら余裕でしょう! 韓信や白起のような将だっているではないですか! だいたい晋が天下統一したときも賛成者は張華や杜預程度でしたよ!



堅大悅曰:

與吾共定天下者,獨卿而已。賜帛五百疋。


苻堅は大喜びです。

「俺とともに天下を定めるのお前だけだ!」

朱肜さん……。



□反対派③苻融 その2


堅鋭意欲取江東,寢不能旦。陽平公融復諫曰:

知足不辱,知止不殆,自古窮兵極武,未有不亡者。且國家本戎狄也,正朔會不歸。今江東雖微弱僅存,然中華正統,天意必不絕之。



南征がしたくてたまらない苻堅さんは夜も眠れません。そこに苻融が再び。

武でどうにかしようとして滅びなかった国はありませんよ! そもそも我ら夷狄が天下を治められるわけないです! 晋はそれでも正統なんですよ!



堅曰:

帝王厯數,豈有常耶?惟德之所在耳。劉禪豈非漢之苖裔耶?終為魏所滅。汝所以不如吾者,正病此不逹通變耳。


苻堅はこの発言を一蹴します。

帝王に必要なのは徳だけだろうが。だいたい正統がどうこうを言うなら、何故劉禅は滅んだのだ?



□反対派⑤ 釈道安


堅素重沙門道安,群臣謂道安曰:

主上將有事于東南,公何不乘間為蒼生致一言也?

十一月,堅出遊東苑,與道安同輦,顧謂安曰:

朕將與公南遊吳越,整六師而巡狩,謁虞陵於疑嶺,瞻禹穴于會稽,泛長江,臨滄海,不亦樂乎!


ところで前秦には釈道安という僧がいて、苻堅から絶大な信頼を寄せられていました。このため釈道安は苻堅の臣下から言われます。

陛下の信頼厚いあなたが止めなかったら、民はどうなりますか!

そしてある日、苻堅とお出かけした際に、苻堅が釈道安に言います。

釈道安殿と江南の地を観光して回りたいものだな!



安曰:

陛下應天御世,富有八州,居中土而制四維,逍遙順時,以適聖躬。動則鳴鑾清道,止則神棲無為,端拱而化,自足比隆堯、舜,何為勞身于馳騎,倦口于經略,櫛風沐雨,蒙塵野次乎!且東南區區,地卑氣癘,舜禹遊而不返,秦皇適而弗歸,何足以上勞神駕,下困蒼生。《詩》云:惠此中國,以綏四方。茍文德足以懐遠,可不煩寸兵而坐賓百越。且陽平公懿戚,石越重臣,皆憂國至深,並謂不可,猶尚見拒。貧道淺陋,言必不允。既荷厚遇,故盡丹誠耳。


「陛下がこの場より天下に号令をおかけするだけで天下が安らいます。どうしてわざわざ東南の片隅に出る必要がありましょうか。そのような土地のために兵らを疲弊させることもございますまい。無論陛下が信頼なさる苻融殿や重鎮の石越どののお諫めの言葉でも止まらぬのであれば、見識浅き貧道の言葉では及ばぬのは承知の上。それでもなお、申し上げずにはおれませぬ。



堅曰:

非為地不廣、人不足也,但思混一六合,以濟蒼生。天生蒸民而樹之君,使司牧之,所以除煩去亂,安得憚勞!朕既大運所鍾,將簡天心以行天罰。高辛有熊泉之役,唐堯有丹水之師,此皆著之前典,昭之後王。誠如公言,帝王無省方之文乎?且朕此行也,以義舉耳。使流度衣冠之胄,還其墟墳,復其桑梓,止為靖難銓才,不為窮兵極武。


苻堅の返答はなかなかガンギマっています。

土地どうこうではないのだ。天下を統一することで民を救いたい、これに尽きるのだよ。それが天意である以上、従わないわけにもいかんのだ。それに釈道安殿のお言葉に従えば帝王が地方を巡幸する必要はない、とどこかに書かれているはずだろう。そもそもにして流寓した士人の子孫を故郷に戻してあげたいという願いゆえの振る舞いでしかなく、武を用いるのが目的ではない。



安曰:

若鑾駕必欲親動,亦不須遠渉江、淮,止宜駐蹕洛陽,枕戈蓄鋭,遣使者奉尺書于前,諸將總六師于後,彼必稽首入陳。如其不庭,伐之未晚。

堅不納。


なら、と釈道安は言います。

それにしても、陛下は洛陽にお出ましになる程度で良いでしょうに。まずはそうした志をお示しになって、それでもなお従わねば初めて本格的に動かす、でもよろしくございます。

苻堅、やっぱり聞き入れませんでした。



□反対派⑥ 張夫人


張氏進曰:

妾聞天地之生萬物,王者之治天下,皆因其自然而順之,故功無不成。是以黃帝服牛乘馬,因其性也;禹浚九川,障九澤,因其勢也;后稷播種百榖,因其時也;湯、武帥天下而攻桀、紂,因其心也。皆有因則成,無因則敗。今朝野之人,皆言晉不可伐,陛下獨決意行之,妾不知陛下何所因也?《書》曰:天聰明自我民聰明。天猶因民,而況於人主乎!妾又聞王者出師,必上觀天道,下順人心。今人心既不然矣,請驗之天道。諺云:雞夜鳴者,不利行師;犬群嚎者,宮室必空,兵動馬驚,軍敗不歸。自秋冬以來,眾雞夜鳴,群犬哀嚎,廄馬驚逸,武庫兵器,自動有聲,吉凶之理非微,此皆非出師之祥也。如妾所論,願陛下詳而思之。



張夫人は、苻堅がその才知ゆえに寵愛していた女性です。

「王が統治を為し得るのは摂理に従うがゆえ。失敗したものは従わぬゆえに破滅しました。臣下の誰もが摂理に背いている、と述べております。にもかかわらず兵をお進めになるのですか。天が聡明ならば、民も聡明。その民がありえぬ、と言っているのです。しかもこの秋、陛下が出征の思いを口にされ始めてより、世間に凶兆が示されています。どうか私の言葉ではなく、天意を、人心を踏まえ、お考え直しください。



堅曰:

軍旅之事,非婦人所當豫也。


これに対する苻堅の言葉は最低です。

女には関係のないことだ。

いやもうちょっと論破してくださいよ。



□反対派⑦ 苻詵(苻堅の末子)


融與尚書原紹、石越等上書面諫,前後數十,終不從。堅少子中山公詵亦諫曰:

臣聞季梁在隨,楚人憚之;宮奇在虞,晉不窺兵,國有人焉故也。及謀之不用,而亡不淹歲,前車之覆軌,後車之明鑒。今陽平公,國之謀主,而陛下違之;晉有謝安、桓沖而陛下伐之。是行也,臣竊惑焉。


その後も苻融・原紹・石越らと何度も諫めましたが、やはりダメ。ついにはこのひとまで言い出します。苻堅の末子、苻詵。

「国にひとがあれば国は保つも、ひとが軽んじられれば滅ぶ、と言われています。苻融様はまさしくここでいうひとではないでしょうか。そして晋の謝安・桓沖もまた、ひとではないでしょうか。



堅曰:

天下大事,孺子安知。


苻堅、この愛する末っ子にぴしゃりと言います。

ちみっこにはわからんよ。



□反対者③ 苻融、その3


時朝臣皆不欲堅行,獨慕容垂、姚萇及良家子弟勸之。陽平公融言于堅曰:鮮卑、羌虜,我之仇讎,常思風塵之變以逞其志,所陳策畫,何可從也!良家少年皆富饒子弟,不閑軍旅,茍為諂諛之言以會陛下之意耳。今陛下信而用之,輕舉大事,臣恐功既不成,仍有後患,悔將何及!堅不聽。


出征直前。ここで初めて積極賛成派の名前が改めて出ます。慕容垂・姚萇、そして良家の子弟、つまりここから先大功を挙げづらくなる人物たちですね。こうした人物たちの声はかなり大きく、苻堅の背を押していたようです。

鮮卑や羌は我らの滅亡を内心で願っています。良家の若者は戦争の現実も知らんぼんぼんです! そうした人物の言葉を信じないでください!

そして苻堅は、これも聞き入れず、淝水に至った、と言うわけです。



☆結論


反対派の発言を捏造だとは思いませんが、とは言えさすがに結果に対して精密すぎるので、幾分の盛りは入っていることでしょう。つまり実際の建言通りというよりは「淝水直前の情勢をトータルで分析すればこうなる」と言った要素も混ぜ込んでいる印象です。


そして賛成派。実際に発言したのは朱肜と慕容垂だけではなかった、はずです。慕容垂に対して「軍略を共にできるのはそなただけだ!」と言っているのも、その前に苻融に反対されたさみしさによるもの、と見なすのが正着でしょうし。賛成派の諸発言は「外れた言葉」だから代表者以外無価値と見なされた、と言う感じでしょう。


個人的には「淝水の結果が現れることを導く言葉」だけが採用された、と見るのがいいのだろうな、と言う印象です。ただここで苻堅の返答がだいぶ非論理的さを加速させているのは、妙に生々しいです。反対されたからより使命感()に燃え上がってしまった、という心理はたぶん的外れでもない気がします。


ただ「ではどうすれば止められたか」については、こう言うしかないのでしょうね。「止めようがなかった」。できればここの議論をもっと詳しく、もうちょっと本来の発言通りに見せて欲しかったとは思うのですが、もちろんそれは言っても仕方のないことなのです。


なお今回参照した『屠本十六國春秋』は、近いうちに全訳をリリースしたいと考えています。そちらではもう少し厳密に訳出もしていますので、また気が向いたら見てみてください。

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