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楽しく錬金できてすっきり目が覚めたマキノは、ふと、初めてこっちの世界で友達になったシオンに何か餞別を渡せないか思いついた。自分の目指すMP量になるまで戻ってこないと決意していたから、たぶん下手したら2度と会えないかもしれない。
自分と会えて良かったって本心で言ってくれた人は日本にもいなかった、ローズさんからのお誘いをどう躱そうかと思っていた懸案事項も片づけてくれた。
それに自分のレベルが高いのは向こうの世界の住人であるというズルをしているという気持ちも強い。自分だけなら感じなかったズルだけど、ここの世界の人と比較すると褒められれば褒められるほど、求められれば求められるほど、それは本来の自分の力じゃないのにって思ってしまう。違うのに違うのに、でも本当のことを言えないもどかしさもあって、ギルド長に許可を求めた。
そしていつものとおり、ギルド長は欲しい言葉を贈ってくれた。
「シオン、ちょっと今からいいかな。」
「マキノ?長期休暇の手続きも終わったら良いよ。」
「じゃ、ちょっと一緒に森に行きたいです。」
「森?」
「はい、森へ」
「え?」
ここは、森の主、亀のいた森。メーベの西の森。
「シオンに、餞別がわりに「テント」のレシピを渡そうと思ったのですが、一番レアな材料の採取の仕方を教えておこうと思いまして。」
「はぁぁぁ????マ、マキノ?なんで「テント」のレシピなんて知っているんだ。あれは高位ダンジョンからのレアドロップアイテムで、普通の錬金術師は普通に作るものじゃないから、レシピは非公開でほとんどのものは知らないはずだぞ!!」
「いや、「テント」が欲しいと思って四苦八苦したらできてしまったんです。」
「できてしまったっていうレベルじゃないぞ!!!この非常識!!!!」
「まぁシオン、できてしまったのだから、仕方がないのです。そこでわたしが作った「テント」のレシピをシオンに餞別代りに渡したいのです。」
「マキノの非常識は身に染みてきたはずなのに、まだあったのかって思いましたよ。でも、ローズさんたちと旅にでるのなら「テント」は欲しいです。そのレシピは有り難くいただきます。僕の小さなプライドより、ローズさんに迷惑をかけたくないですから。」
シオンのその切り替えの早さ、必要なものを必要だと素直に言えるところが好ましいと思う。だから、何かしてあげたくなるのかもしれない。
「シオン、レアアイテムは時間の設定が厳しいから、先にこの近辺で取れる「テント」の素材を採取しにいきましょう。」
「了解です。ここはマキノに着いていきますよ。」
転移の魔法陣を使って着いたのは、久しぶりの初めての町。ここで寝ずに採取し、錬金しモンスターと何度も戦ったのがはるか昔のように思えるけど、まだ半年も経っていないなんて。
時間経過があいまいに感じる。
あれだけ真剣に採取を繰り返したので、場所は全部覚えている。「テント」の材料の素材を、1個ずつ案内し、シオン自身に採取してもらう。
ローズさんたちと出かけるのなら自分の考えた「テント」ならシオンとローズさんたち3人分の計4個必要になるはずなので、シオンには失敗分も含めて余分に採取しておいた方がいいし、初めての町のモンスターは今のシオンの装備に傷一つつけられないのはわかっているので、シオンにはついでにひとりでモンスターと戦ってもらうのもいいだろう。せっせと昼間採取できる素材と夜だけしか採取できない素材も採取して森に戻ることにする。
生身のシオンは少し疲れてきたようなので、「テント」を出して説明を始める。
「シオン、ここに出した「テント」ここのギルドのマーク入っているのが見えますか?」
「ああ、これはギルドのマークだね。でも、何故「テント」にギルドのマークが入っているんだ?」
「この「テント」わたしが欲しいと願ったとおりにできてしまったのですが、少々規格外だったのでギルド長の許可がないと人に譲渡できなくなっているんです。あと、使用できる場所もレベル40以上の人が入れるダンジョン階からと限定されているのです。」
「何?その「テント」?ギルド長がわざわざ「テント」1つにそんな大げさな。確かに一般に「テント」のレシピは公表されていないけど、ダンジョンのレアドロップアイテムとはいえ、S、A級のパーティなら大抵持っているものですよね。ただしマキノの作る規格外は本当に規格外だろうから、何か規格外なのか気になります。」
「とにかく口で説明するよりも見た方が早いからシオン「テント」の中に入ってみてください。」
「ああ、じゃ入りますね。・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
続けて入っていくと、シオンの絶叫が響く。ギルド長よりも驚いているみたい。
「マ、マ、マキノ、この中、「テント」の中なんですよね。ここ!!!!」
「そうですよ。シオン「テント」に入っていったではないですか。」
「じゃ、何故、「テント」の中が宿屋の部屋そっくりなんですか!!!!」
「えっと。「テント」作ろうとした時に、宿屋のベッドみたいなのがいいなと思ったからですよ。」
「何、いいなと思ったらこれになったと!!そんな!そんな非常識な!!!!!」
「シオンはわたしのこと非常識扱いばっかりですね。でも、欲しいと思う気持ちが魔法の力なんですから可能でしょ?」
「いや、いや。いや。でも。あああああ。」
シオンが頭をぶんぶん振っている。ギルド長と違って錬金術を極め続けようと努力してきたシオンに何かショックを与えたのかもしれないとちらっと感じたけど、もう現物はできているのだからそこは仕方がない。
「で、シオン、この「テント」宿屋の部屋そっくりな理由は、ここで寝るとHPMPMAX回復してくれるからなんです。だから、ローズさんと一緒にダンジョン潜った時に使ってくれれば少しは冒険の手助けができるかなと思って。」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?????????!!!!!!!」
わたしが話し終わる前に、シオンが息の続く限り威嚇?してくるけど、何故に?
「「テント」の中が宿屋の部屋だっていうだけでも非常識なのに、MAX回復するっていったいどれだけマキノは非常識なんですか!!
ああああわかりましたギルド長の許可制って。こんなの普通に公表できないですよ。
レベル40以上の人しか入れないダンジョン階でしか使用できない理由もわかりました。これは常識が覆されます。
マキノといると本当に自分の今までの経験や常識が役に立たないと思い知らされますね。でも、マキノこの非常識「テント」のレシピを僕に教えてもいいんですか。これがあれば冒険がはるかに楽になるのは簡単に想像できます。僕がこの「テント」でお金儲けすることも可能ですよ。」
「ギルド長からは人をみて譲渡しろって言われています。シオンは決してお金儲けにこの「テント」は使わないはずです。
シオンの目指すのは自分の力で成し遂げる錬金だと思っています。わたしが15歳でこのレベルであるのもこの「テント」があるお蔭です。シオンの錬金術に対するまっすぐさはわたしの中にあるものと似ています。シオンがわたしのことを友達だと思ってくれるのであれば、同じ土俵で錬金術を極めて欲しいなと思ったのでギルド長も許可してくれました。」
「…マキノありがとう。うん、マキノの期待背負って頑張ってみるよ。」
シオンは長期の休暇届を出してローズさんについていった。他の人に言えばローズさんと一緒だというだけで嫉妬されそうなのと、当分錬金術師が冒険者と戦いに行くことを自分だけの秘密にしておきたいのか、長期休暇の理由は体調不良による自宅療養だったのには笑った。
これで当分またひとりでゆっくり錬金に取り組める。今週は「賢者の石」のレシピが気になったので、図書館に籠って何かヒントはないか探る予定だ。シオンがいなくなって静かになったけど、少しだけ寂しいなとちょっと思ってしまった。




