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充実した講義も終わって今日こそは図書館で本を借りようと歩きだしたら、
「マキノ、話がある。」
シオンが真剣な目で声掛けしてきた。
昨日の最初のちょっと作った顔ではなく本気で真剣そうだったので、ついていくと、今日は人のいない研究会用の個室だ。講義が楽しくて研究会にはまだ一度も参加したことがないので、きょろきょろしていると
「今日はマキノと話をするために特別に部屋を借りたんだ。この部屋なら何人かで秘密の錬金をしても声が外に漏れないので重宝しているんです。」
「えっとシオン今日はなんでしょうか。」
「ああ、ごめん。昨日の今日で申し訳ないんだけど、マキノからすごく衝撃を受けた。正しい錬金術師の有り方を見せられた気がしたんです。
過去の高位の錬金術師のレシピで、どれだけ錬金レベルをあげても絶対作れないだろうっていうようなMP量ものすごく使うレシピがあるんですが、マキノのレベルとMP量を聞いて、そういうレシピは今の家に引きこもって錬金だけしていたのではなく、マキノみたいに自分で採取して冒険者レベルも上げて出来上がったレシピだったんだなと初めて気づきました。
だから僕も最高の錬金術師になるためにMPを今から増やしたいんです。戦い方を教えて下さい。」
シオンに真摯に頭を下げられる。えっとシオンの覚悟はまぁいいとして、お話の中に高位の錬金術師の絶対に作れないだろうっていうレシピの方が気になる。
精霊王に教えてもらったとおり、ここは交換条件で進めてみよう。
「シオン、ダンジョンでの戦い方教えますが、その代わりその高位の錬金術師のレシピ教えて下さい。」
「ああ、マキノはやっぱりそっち気になりますか。僕もそのレシピを偶然見つけてから絶対に作りたいと思い続けてきたんです。いくつか非常にレアな素材も必要としています。僕にできることはできる限り協力するので、僕もいつか自身で作れるように協力してください。」
「シオン、いつかわたしはこの町を出るので、とりあえず君が一人で戦えるように協力してみる。君のレベルが上がれば支援の応援メンバーとしてパーティに加入すれば一人で採取するより効率的にレベルを上げることができるかもしれない。
どうレベルを上げていくのかは君に任せるから、とりあえず生き残って戦える方法を伝授するよ。まず魔法なんだけど、シオンのレベルはどのぐらい?」
「戦いに行っていないので、生活魔法を使う程度で火が5、風3、水8、土2ぐらいだと思う。」
「わかった。じゃ行くよ。」
シオンに例の指輪と防具を装備させて「守りの護符」も身に着けさせたらそんじょそこらのモンスターは傷ひとつ付けられない防御力になっているのを確認して、ローズさんたちと出会ったウーライのダンジョンに魔法陣で飛ぶ。
「シオンの戦う魔法のイメージってどんなの?前にわたしの魔法に文句言っていたよね。」
「いや、あれはものすごく驚いたからね。僕のイメージは火花や稲妻が散るような、また燃えるさかる火炎みたいなのかな。」
「じゃ、それで行こう。シオン、魔法は錬金と同じなんだ。強い思いが形になる。祈りと同じなんだよ。だから錬金術師は本当は魔法使いにもなれるはずだと思う。イメージを固めて願う。思う形が魔法となって出てくるんだ。シオンの戦う魔法のイメージ火花や稲妻のような火炎が舞うイメージをしっかり作って。」
「お、おう。」
「イメージが作れたのなら、ほら前に「鬼蜘蛛」がいるから、それをぶつけてみて、あ、何か名前があった方が後々楽だと思うよ。」
「なまえ?」
「そう魔法の名前、技の名前、例えばファイヤーブレスとか。」
「ああ、そういう名前ね。ええええっと。舞い狂う火炎・・・火炎花吹雪!!!」
シオンがそう叫ぶとシオンの魔法が形となり、燃え盛る火炎が火花を散らし容赦なく「鬼蜘蛛」を燃やし尽くした。
もともと錬金のレベルの高いシオンの魔法は、魔法レベルこそ低いわりには効果が高かった。中級レベルの「鬼蜘蛛」を倒したせいで、シオンの火と風の魔法のレベルが上がったようだけど、先日ダンジョンボスを倒したばかりで冒険者レベルは1匹ぐらいでは上がりにくくなっている。
初めてモンスターを一人で仕留めたせいで、シオンが少し興奮しているかもしれないけど、ダンジョンの中だし、さっさとドロップアイテムを拾いに行こう。「鬼蜘蛛」のドロップアイテムの「鬼蜘蛛の糸」は本当に役立つので何個あっても嬉しい。
「はい、これシオンの分。」
シオンにアイテムを渡すと、
「僕、戦うことできたんですね。今まで錬金術師を目指していたから、魔法のレベルも低いしダンジョンで戦えないと思い込んでいました。」
「シオンは魔法レベルは低くても錬金レベルが高いからMPの総量も多いし、イメージを思い込んでそれを形にすることも慣れているから同程度の魔法レベルの初心者よりはるかに戦えるなと思ったよ。それに今の防御力、レベル40ぐらいのダンジョンでもぜんぜん行けるよ。」
「ここのダンジョンは中堅冒険者がよく来るところですよね。一度マキノと来たことで、次回から僕一人でも魔法陣で飛んでくることができるようになったのは助かりました。」
「ええ、ここはレベル20ぐらいから入ることができて攻略レベルは45なので、現在レベル29のシオンがちょうど良い修業の場になると思ったんだけど、シオンはMP回復薬作れる?」
ダンジョンを歩きつつ、モンスターと出会えばシオンが戦い、そろそろ1階のセーフティゾーンに到着するので聞いてみた。
「MP回復薬ですか?少し前に南の方で「リンゴジュース」のレシピで回復するってすごいニュースが流れて、あれは作れるようになっていますが。」
「じゃ、次の段階、ちょっと待ってね、紙にレシピを書くから。これが「MP初級回復薬」で、こっちが「MP中級回復薬」の分。」
「は?なんでそんなものが錬金できるんですか?いったいこのレシピはどこから見つけたんですか!!!」
「シオン、落ち着いて。これはわたしが欲しくて祈って作ったものです。「リンゴジュース」と同じように欲しいって願ったらできちゃったんで、そんな程度のものだけど、初級は100程度、中級は200ぐらいMP回復するからダンジョンで戦う時はもっとくと便利だよ?なんでそんなに怖い顔なの?」
「「初級MP回復薬」とか「中級MP回復薬」とか今まで聞いたことがないんですが、マキノ作っちゃったってそんな簡単に僕にレシピ公開していいんですか?」
「「リンゴジュース」の時にギルド長に聞いた時に公開してもいいって聞いたから、これもいいんじゃないかな。それにシオンがやる気になって、今までの錬金術師の常識を覆しても自分の夢を目指す姿は応援したいなと。」
「マキノがこんなにいいやつだとは思っていなかった。得体の知らない王位錬金術師の席を取りに来たどこぞのお金持ちの嫌なやつかと思っていて、ごめん。」
なんだか結構言われようだけど、シオンのまっすぐな物言いは嫌いではない。
「あ、そうだ。シオン、もしどこかパーティに入ってレベルを上げたいと思うなら、いい人いるから紹介しようか。」
「マキノに友達がいるんですか?」
「友達ではなく知人ですが、嫌ならいいんですが。」
「いやごめん。良い人なら紹介してください。」
「ちょっと待ってね、どこにいるのか聞いてみるから。」
バッグから連絡用の水晶を取り出すとローズさんに声掛けをしてみる。今戦っていなかったらいいんだけど。
「マキノ?マキノなの?連絡ありがとう。今、どこにいるの?パーティに入る気になった?」
「あの、ローズさん、お久しぶりです。わたしは今王都の王立錬金術学校で錬金術を学んでいるのですが、そこでできた友達が冒険者レベルを上げたいと言っています。錬金レベルはマスタークラスで、HP回復薬もMP回復薬も罠避けも護符も作れます。どうでしょうか。そんなに長期間じゃなくていいので、受け入れてもらえることは可能でしょうか。」
ローズさんが水晶の向こう側でミントさんやキャッシーさんにマスタークラスの錬金術師だって!!!って叫んでいるのが聞こえる。
「マキノの友達だもんね、一度会ってみて考えさせてもらうわ。マキノが王都にいるならば明日の夕刻、王都の小鹿亭で構わない?」
「小鹿亭には行ったことがないけれど探します。では明日夕刻によろしくお願いします。」
話し終えると、シオンがわなわなしている?何故?
「マ、マキノ、今のローズさんってもしかして「暁の乙女」のローズさんなんですか!!」
「あ?うんそんなパーティ名だったと思う。」
「何をのんきに!!「暁の乙女」って言えば、冒険者じゃない僕たち錬金術師にさえ噂が回るぐらいの実力良し顔良し性格良しの絶大な人気を誇る3人組じゃないですか!!!」
「へーシオン知っていたんだ。わたしはぜんぜん知らなかったんだけど、ここのダンジョンでちょっと縁があって知り合いになったんだよ、錬金術師が珍しいのかずっと勧誘されていたんだけど、わたしは基本ひとりで採取して錬金したい方なんでずっとお断りしていて、ちょっと心苦しかったんでシオン紹介できそうで良かったです。」
「僕を紹介できるって、良くないです!!いや、いいんだけど良くないと言うのか。」
シオンが何故かパニクっている。
「あ、シオンは回復魔法とか使えるの?」
「ああ、普通に嗜み程度ならばできるけれど。本当に嗜み程度だけなんですよ。」
「とりあえず明日紹介するから、今日もう少し戦い慣れておこうか。」
そういうと、シオンは気を取り直してまた素直に戦い始めた。本当こういうところは前向きでいいやつだなと思う。「火炎花吹雪!!」の連呼は少し痛い気もするけれど、本人が気に入っていて威力があることはいいことだ。
5階まで下りてレベル1個上げてちょうど30になったところで寮に戻ることにする。自分の力だけでレベルを上げることができるとわかったシオンは今まで見た中で一番いい笑顔をしている。モンスターのドロップアイテムを拾う時も嬉しそうだった。
「まさか自分の力で「軍隊ガニの甲羅」を手に入れられる日が来るとはつい先日まで想像もしていなかったです。」
しみじみ言葉を噛みしめながらつぶやくシオンを見守りながら、帰還魔法陣を使う。
「何故MPが余っているはずなのに帰還魔法を使わないんですか?」
「錬金術師だから?」
「錬金術師は魔法陣で帰還しないといけないと思っているとか?」
「いや、生活魔法や支援魔法、回復魔法ってあんまり使ったことなくて使い方わからなくて。」
へへって笑うと何言っているんだっていう顔をされたけど、正直未だに帰還魔法わからない。その代わり帰還魔法陣は山ほど作っているから大丈夫。そう説明するとマキノだからなとつぶやかれた。
シオンが明日行く小鹿亭は良く知っているということで案内してもらうことにしていつもどおり寮の前で別れた。




