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そんなことしながら、2時間ぐらいかけて町にたどりついた。村かなと思ったけど、町だと思う。畑とか田んぼとか広がっていない。
建物が中心で石畳でよくある中世ヨーロッパの雰囲気。いや、大手の遊園地の異国を模した町に紛れ込んだような気すらする。
ちょっとイベント的な匂い。文字が読めるということは、自分的には日本語で「ギルド」と書いてある看板があるわけで、一種のアトラクションの中にいるような気がするのは仕方がない。
何をどうしてよいのかわからないまま、「近くのギルドに行く」ことだけが最初のミッションみたいだけど、知らないところに入るのは少し躊躇する。
何回かギルドの前を行ったり来たりしてみたけれど、ここに入らないと話が進まないのであれば仕方がない。ここはゲームなんだと言い聞かせてドアを押して入ってみる。
がやがやと人がいるような気がするけれど、こっちから話しかけないと答えない村人Aみたいな感じなのかこっちを見ることもない。早く要件を知りたいから受付にいる、いかにも受付Aというようなお姉さんにタブレットを見せてここに来るようにと書いてあった旨を告げると
「ギルド長が話をしますので、右手奥の部屋に入ってください」
と簡単に言われ、右手の奥を見ると「ギルド長室」と書いた表札。
わざわざ個室で偉いさんと話すのか苦手だ・・・。でも、これはゲーム、もしくは夢の中だ。こんな現実はあるはずもない。初めての人が苦手だけど、恐怖心も不安もいつもより少ないような気がしたので、恐る恐る扉を開けると、
「よっ。ごくろーさん。」
非常に気さくなおじさんがソファーに座って手招きしている。ちょっと安心して前まで行くと座れよと勧められる。
「ちょっとタブレット出してみて。」
ギルド長は当たり前のようにタブレットを操作してデータをどこかに送っていたようで
「君が今回のテスターさんだね。よろしく。一応ここでギルド長をしているけれど、まぁ向こうとこっちを繋ぐ調整役もしている。わからないことがあったら何でも聞いて。」
「向こうとこっちというのは?」
「ああ。その辺スカウト担当に聞かなかった?」
「ぜんぜんまったく何がなにやらさっぱり…。」
ギルド長ぶつぶつとスカウト担当者の悪口を言っていたようだが聞かないふりをしていると、
「向こうというのは君が生活していた世界。こっちは今君がいるテストする世界。半分リアルで半分実験中。何人かのテスターさんに順番に実験をしてもらってうまくいけば機能させる予定。
詳細について本当はスカウト担当が説明しなくちゃいけないことで俺は専門外なんでな。またあいつにあったらそこは聞いてみてくれ。
君は、望んだことが望み通りになったら終わりというルールになっているな。君の望みは⋯ハーレム運営?チート能力で無双?鑑定能力を生かしてまったりいくか?神獣や神様の加護が欲しいか?勇者か魔王やモンスター、聖女や悪役令嬢になりたいの?それとも誰かに溺愛でもされたいか?何を望んだんだ?」
「望みですか?ああ。採取して錬金したりで図鑑を埋めたいって言いました。」
「はい?図鑑?埋める?何だそれ?」
「ゲームに出てくる図鑑をコンプリートさせたいのです!!1個ずつ図鑑が埋まっていく多幸感!新しいアイテムに、レアアイテムをゲットする興奮。それに…」
「おお!そうか。まぁマニアックな望みを嬉々と語られると、あいつが説明も程々に君を選ぶ訳がわかったよ。では初期設定をするから色々聞いていくけれど、図鑑はモンスターとアイテム、どっちもコンプリートするのか?大変だよ?」
「いえ、モンスターはそれほど興味がないので⋯あ!レアなアイテムドロップとか素材は気になりますけど、モンスター自身はどうでもいいですね。アイテム図鑑だけで大丈夫です。」
「はいはい。モンスター図鑑はコンプリート希望せず、アイテム図鑑のみで。仲間とかどうする?」
「仲間?いえ、できれば自分ひとりがいいです。基本採取とか錬金とかひとりでこつこつ地味に少しずつやっていきたいです。」
「うむ。ソロ希望。ああ仲間は人間じゃなくても神獣やドラゴン、フェンリルとかはどう?」
「動物飼ったことがないからいいです。餌の用意とかよくわからないですし、初めての世界で自分以外のものの世話をする余裕があるかどうかわからないので。」
「神獣等オプションなし、と。」
「あの⋯この世界での稼ぎ方を教えてくれませんか?初期費用が500Gしかなくて、これで何日ぐらい生きていけるの全然わからなくて。」
「稼ぎ方は、ほれ、ここ。タブレットの図鑑のページを開いて⋯おお!もうこれだけ採取してきているのか!そのアイテムの絵の上で長押しするとその素材の個別画面が開くからそこから『売却』を押して売るといいぞ。
この『薬草』は1個50Gで売却できる。ギルドで売却すればもう少し高く買い取ってもらえるぞ。町にいる時には直接売ると良い。
その時は、ギルドの壁際の依頼書を確認するといいぞ。依頼を達成できるものがあるかもしれないからな。受付にタブレットを出せば依頼処理の手続きしてもらえるぞ。
ちなみに宿はこの町ならば1泊100Gだな。食事は50Gぐらいだ。アイテムはその町の近くで採取できるものはギルドの窓口やアイテムショップで買うこともできる。
錬金した『傷薬』なら100Gで売れるぞ。素材を手にして他の冒険者のように売りたい時には、下の方にある『確認』ボタンを押すと実際の素材をタブレットから取り出せる。それを持って直接店に売りにいけばいい。」
「『薬草』や『傷薬』は案外高値で引き取ってもらえるんですね。それならば生活していけるかも。あ!アイテムは地図上で光っていたので見つけられましたが、光っていない時は採取できないんでしょうか?」
「そういう仕様なんだわ。基本光っていないものはタブレットに収納できないと思ってくれ。普通は3時間ごとに同じ場所で採取できるようにはなっているが⋯君はソロで図鑑埋めがお望みだからな。光る間隔はもう少し短く設定しておくかな⋯よし、10分に1回は採取できる設定にしておこう。
時々レアな素材が出たり採取できる個数が増えたり、品質が良くなることもあるからな。何度も取ってみることをお勧めするいいぞ。レアな素材は図鑑埋めには必要だよなぁ⋯レアな素材が取りやすいように運を初期設定MAXにしておくかな。あ、レアな素材といえばモンスターが落とすレアドロップアイテムがあったな。これも落としやすいようにしておくか。」
「イベントでしか手に入らないアイテムとかありますか?」
「イベントでしか手に入らない物はないが、ダンジョンや特定の土地や場所にいかないと手に入らないものはある。そうか、そうなるとダンジョンのソロ制覇が必要か。移動の手段も考えないとな。」
「移動の手段とは?」
「まさか馬車や徒歩でこの世界を制覇して全ての図鑑をコンプリートしたいわけじゃないよな?それこそ自分の足でかつ一人で達成しようとしたら100年ぐらいかかるぞ。
魔法である程度移動する手段はあるが⋯MP残高を常に気にしなければならない。君は錬金もするなら錬金術で魔法陣が作れるはずだから作ってみるといい。移動の魔法陣を早いレベルで作れるように設定しておくわ。
後、アイテム図鑑の半分ぐらいは錬金術で作ることになるから、早い段階から色々試してみるといい。 あ、錬金術なんだが作ればレベルは上がる。レシピを増やしたい時は図書館やアイテムショップに行くといい。錬金術の本を読むと作れるものが増えることになっているんだ。だから行った先々の町の図書館やアイテムショップは入ってみた方がいいぞ。王都には錬金術の学校もあるから、お金に余裕があれば入学するのもありだ。
世界中の錬金術の本がそろっているから遠方まで足を延ばす必要がなくなる場合がある。まぁとにかく色々試してみるといい。
何かあればどこの町のギルドでもギルド長室には俺がいる。そういう仕様なんだ。あと、町の人はこのチュートリアルが終われば普通に接してくるぞ。一応普通の生身の人たちだ。君が動けばこの世界になんらかの影響が広がる。その影響力がどこまで及ぶのか、どんな影響を与えるのかそのデータが必要で君に来てもらっている。
他の人はタブレットを認識できない。だから地図が光ってアイテムを示すことはない。彼らは自力で探し採取している。それでもこっちの人は魔法を使えるから、自分のステータスは誰もが確認することができる。
アイテムボックスは、レベルが上がればある程度使えるようになるので、バッグひとつでうろうろしていてもそう目立たないと思う。ちなみに受付A嬢はシステムの一部で生身の人ではないので、タブレットから素材を売買しても大丈夫だ。
初期設定後はこんな感じだ。
『レベル1 職業空欄
HP2000MP2000
武器なし 防具 旅人の服
魔法 風魔法レベル1 水魔法レベル1 土魔法レベル1 火魔法レベル1 スキル 錬金 レベル1』
職業はどうする?」
「職業ですか?図鑑コンプリートが目的なので得に何かになりたいっていうのは無いので、そのまま空欄にしておいてください。」
「まぁ不便が生じたら相談するんだな。他に何か質問はないか。」
「この世界の時間の流れと元の世界の時間の流れの関係はどうなっていますか?」
「ああ、言い忘れていた。ここでの時間は流れているけれど君自身は循環している。まぁここにいる間、図鑑をコンプリートするまで年を取らない。望みが達成できれば、ここで何年過ごそうとも君は元の世界の元の時間に戻れることになっている。」
「もし、ここで年を取りたくなったり、図鑑がいつまでもコンプリートせずに、この世界でモンスターに襲われて死んでしまった場合はどうなりますか?」
「年を取りたくなった場合は要相談だな、向こうでの寿命がその分減る可能性がある。この世界で死んだ場合は強制送還。君はここでの世界のすべての記憶がなくなり元の世界へ戻ることになる。何の影響もなしにね。だから、ここでの生活は君にとってマイナスにはならないと思う。」
「あ、魔法の使い方とかありますか?今まで使ったことがないので、さっぱりわからないのですが。」
「そりゃ向こう世界じゃ使ったことないだろう(笑)ここでの使い方は簡単だ。心の強さが魔法の強さになる。あると思ったらある。できると思ったらできる。基本それだけなんだ。
たとえば、君はドライヤーのスイッチをつけたら風が吹くのは当然であり、冷蔵庫は冷えていて、ストーブは熱いのは知っているだろう。
魔法はそれらの応用で、熱いものを想像すれば熱いものがでて、冷たいものを考えたら冷たくなる。面倒くさかったら、最初にイメージを固定してしまえばいい。メテオ・ストライクとか勝手に自分で名づけて、これは広範囲で火属性の大量ダメージ有と思い込んでも大丈夫だぞ。自分のMP量やレベルも関係してくるけどな。」
「メテオ・ストライクは恥ずかしいのでやりませんが、だいたいわかりました。魔法も錬金も望んだとおりっていうわけですね。後は図鑑を完成すればそれでいいんだと思うとわくわくしてきました。あ、最後ですが、ギルド長の後ろの棚にある『初級錬金術の本』貸してもらえないでしょうか。」
ギルド長ははっとした顔をした後、笑いながら本を渡してくれた。
「君は十分適応している。あいつの目は確かだったな。まぁしばらくはこの町でいろいろ試してみるといい。モンスターもそれほど強くはない。」
「本はここで読んでいいですか。」
「え、貸すから持って帰ればいいよ。」
「いえ、今読みたいし、すぐ読めるし、借りていると気になるのですぐに返したいです。」
何とも言えない顔をしているギルド長を無視して、とにかく読んでおきたかったので集中する。この世界では本に目を通すだけでタブレットに知識としてレシピが増えていくようだ。初級は簡単だ。全部で15個程度。ただ、今持っている在庫だけでは全部作れそうにはないみたいだ。
「ありがとうございます。すぐに採取に行ってこようと思います。」
「え、すぐに採取って、宿屋は行かなくていいのか。」
「ええ、10分に1回とはいえ、錬金する素材として必要ならばいくつあっても無駄にはなりません。取れるだけ取ってこなくては。また、何かあればご相談させていただきます。」
呆れ顔のギルド長を置き去りにして、元の草原まで戻ってきた。




