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図書館に入りたいだけだったのに、いつの間に学校に入学するはめになってしまった。官僚か学生か教師じゃなきゃ図書館使えないのなら仕方がない。入学しても必要な知識をおさめたら短期で卒業もできるようなのでこっちの基本を学ぶのはいいのかもしれない。
学生は既に錬金術を独学や師について学んできた方も多く年齢層はばらばらで人種も種族もばらばらで、わたしひとりが混ざるぐらいで目立たないのが嬉しい。
ただ。入学したら寮に入らないといけないので、夜中の採取がしばらくできなくなるのが残念だ。
入学はいつからでもできるため、入ったら自分の好きな講義を好きなだけ受講できるスタイルになっている。勉強会もあるそうだ。最初は図書館だけでいいと思っていたが、どの講義が面白いかわからないのでひととおり全部順番に受講していったら全部面白くて朝から夕方まで毎日ぎっちり講義を受ける羽目になってしまった。
学生時代これほど熱心な生徒ではなかったが、ここの知識は自分の好きな分野ばかりであること、向こうの世界では聞いたことがないことばかりであること。勉強というよりは自分の興味に答えてくれるものばかりで楽しいとしか言えない。学校の授業というよりはカルチャースクールを受講しているような感じだ。
錬金術の基礎、素材の扱い方、レア素材の探索方法、祈りのパワーアップのさせ方、魔法陣の研究、一度作ったアイテムの改造や性能の上げ方、結界の強化方法。独学ではわからなかったこつや知恵の宝庫に全部聞き逃したくなくて時間が許す限り顔を出していると自分の錬金のレベルもどんどん上がっていくのがわかる。
こっちの世界で初めて筆記道具を見つけて久しぶりに文字を書けるのも嬉しい。メモを取りつつ授業を受け、開いた時間には図書館に行き、本を借りて夜中寮で読みふける。
もちろん、寮の中のベッドもHPMPMAX回復仕様なので、本を読んだ後に講義の内容の復習や練習を兼ねて新しいアイテムを次々作り出すこともできる。長い間空欄になっていた図鑑の錬金術のページが埋まっていく至福の時。この生活何年してもいいぞ。と思い始めていたある日、講義が終わって図書館で本を物色していたら、
「毎日熱心だね、僕はシオン、君は?」
いきなり声をかけられてびっくりしてしまった。振り向くと高校生ぐらいの知らない生徒が目の前に立っていた。誰?あ、シオンって名乗っていたっけ。では何の御用で?
「マキノです。」
「マキノよろしく、同じ生徒として友達になりませんか。」
「へ?友達?」
相手は気さくに、でも自分には作って用意した作り物の笑顔のように見えて怖い。知らない人に声かけられるのは苦手だ。
授業もできるだけ目立たないように気配を消して端っこに座っていたのに、どこで見つかってしまったんだろうか。挨拶が済んだなら早く逃げたいが、育ちの良さそうな一見優しげに見えるシオンは、こちらが動揺しているのを完全スルーして。まだ解放してくれそうもない。
「マキノは、何を目指しているんですか?」
「はぁ?何をって?」
いや目指しているのは図鑑のコンプリートなんだけど、こっちの世界の人にタブレットの図鑑は存在していない。なんていえばいいんだろう。
「世界のすべての素材やアイテムを知りたいっていうところでしょうか?」
「知ってどうするんですか?」
「いや、知りたいだけですが。」
「知った情報でお金持ちになりたいとか、王宮の錬金術師の職に就きたいとかはないですか?」
「今は、特に働きたいと思っていないです。欲しいものは錬金でだいたい作ることができるからお金もそんなに必要ないし。ただ知りたいだけですよ。」
研究バカか。と小さな声で納得されたようだが、なんで声掛けしてきたんだろうか。
「シオンは何故わたしに声をかけて来られたのですか?」
「最初に言ったと思いますが、友達になりたいと思って。ここ1か月マキノがこの学校で一番目立つ存在で一番年齢も近そうで、僕のライバルになるのなら味方にしておきたいんです。」
「え。友達宣言本気なんですか?へ?一番目立つ?誰よりも隅っこで誰とも話さずひっそり講義を受けていただけなのに?」
無自覚バカか、とぼそぼそ言っているがそれ聞こえているけど。
「マキノは本当に目立っていないと思っていたんですか。この学校のすべての講義を受講し、どの教科の課題も一番で提出し、そのすべてを高得点で合格をもらい、毎日図書館の本を借りては次の日に返却している。いったい錬金術のレベルはどのぐらいなんだ。いつ寝ているのかと噂されてますよ。」
「課題はほっとくと忘れてしまいそうになるから、授業後にすぐやっているだけですし、授業も本もどれもこれも初めてで興味深くて楽しいからなんですが。」
「マキノは師についたことはないのですか?」
錬金の祈りを教えてくれたのはギルド長だけど、師ではないよね。
「錬金術師の師はいません。」
「そうでしょうね。マキノ、この学校の初級レベルの講義から上級マスターコースの授業まで普通は全部受講することはない。自分のレベルに合わせて授業を選択する。だいたい2,3取ればいい方なんですよ。
課題もあるし予習復習も必要になってきますからね。マキノはそれらほぼ全部の授業を受講している。
初級でも目をキラキラさせ受講しているから初心者かと思えば、上級マスターコースでも普通に授業についていっているし、レベルの高い課題もさっさと提出していく。誰とも話をしないし、食堂にも表れない。街にもでない。空いた時間は中庭か図書館でいつもひとり。そりゃ目立つでしょう。」
「え、でも、他の皆さんが全部の授業を受講しないのであれば、何故わたしが全部の授業を受講していることをご存じなんですか?」
「他の皆は、食堂や街で友達と話をしていますから。僕の授業にいつも一番で課題を提出するやつがいるんだけど、いつも一ひとりいるから何者かわからない。というような話をすれば俺のところもいるよ。俺が受けた講義にも似たやつがいるぞ。みたいな話を突き止めていけば全部マキノだったっていう結果になったわけです。」
あ、う、目立たないようにしたつもりだったのに。
「僕はマキノがライバルじゃないってわかって良かったです。」
「ライバル?」
「ここに来る人の大半は王宮の錬金術師の職を目指しているんですよ。給与はいいし研究はし放題ですからね。」
「ええ、そういう意味であればライバルじゃないです。王宮で働きたいとは1mmも思ってないので大丈夫です。ここで欲しい情報を得られたら、次の町に行くつもりですから。」
「じゃマキノやっぱり友達になってください。」
はい?ライバルじゃなければほっといてくれるんじゃないんですか?
「え、友達そんなに本気?」
「マキノ友達いなさそうじゃないですか。マキノには前から興味があったんです。いろいろ聞きたいことまだまだあるんです。」
そうにっこり笑うシオンの笑顔は、今度は心からの笑顔だってわかったけど、ちょっと黒い感じがしたので今すぐ本当は逃げたい。
「何が聞きたいんでしょうか?」
知りたいことが分かれば友達発言も撤回してくれて解放してくれるかもしれない。
「マキノ答えてくれるんですね。じゃ図書館で話をするのはなんだから、カフェに行きましょう。」
そう言うと嬉しそうに、そして逃げ出したりさせないぞというような意志が込められているのか、がっつり腕を取られて図書館を後にする。
連れられてきた場所はカフェというより食堂の隣で、学生がいつも寛いでいる一角だった。安くて美味しいとは小耳にはさんだことはあるけれど、人が多いので、利用したことはない。
「ここのコケモモジュースが結構美味しいんだ。」
シオンはここに来ると、すぐに注文にいき、にこりと笑ってきれいなピンクのジュースを目の前に差し出した。やることが素早い。
中庭の見える気持ちの良い席に案内されたけど、周りの人の視線が痛い。何故か注目を浴びているような気がする。
「それで何が聞きたいんですか?わたし何一つ特別なことしていないつもりなんですが。」
やはり無自覚バカなんだな。シオンが小さな声でぼそぼそ言う。だからそれ聞こえているっし。
「まず、先日のマスタークラスでの課題の「結界石の応用」での提出物。あれは一体何を出したんですか?マキノから説明を受けた先生は狂喜乱舞で合格点を出されていましたが。僕たちのところまで聞こえてこなかったし、先生はその後僕たちには内緒にされていました。あれです。あれがものすごく気になって今回声掛けを強行したきっかけです。」
「ああ、あれですか?先生が結界石の初級から上級まで作成したことがあるのなら、その上の応用が何か付与されたものを提出するようにと言われたので、「初級結界石」はレベル15ぐらいまでのモンスターや悪意のある人からの不意打ちがなくなる。
「中級結界石」はレベル20まで、「上級結界石」はレベル30までとなっていて、どれも自分から攻撃さえしなければ不意打ちされずに安全に「テント」内で眠れるような仕組みになっているので、それを常時身に着けるアクセサリーにして、ダンジョンの罠避けに使えないかと思って作ってみたら「罠避けの指輪」ができたので提出してみました。
モンスターレベルは40ぐらいまでなら目の前を歩いていていてもこっちから攻撃しなければ避けてくれますし、落とし穴、電気、泥沼、毒、眠り、火炎についてはダメージなしで避けて通れるようになっていて、ミミックは開ける前に光って反応してくれるようになっています。」
これは自分がゲームをしていて欲しかったアイテムなのですんなりできたので、苦労はしていない。ただMPはごっそり取られたし★も3個ついていたのでそこそこ良い出来だったんだろうとは思っていたけれど。何か悪いことでもしたんだろうか。シオンがぶるぶる震えているような。
「罠避け?どんなに盛った内容の結界石なんですか!!そんなの聞いたこともないようなものを、作ったらできちゃったって!!!」
「いや、でも、ダンジョン潜るなら欲しいじゃないですか。」
「え、ダンジョンに潜るならって、マキノはダンジョンに潜るんですか?錬金術師なのに?」
「え、シオンは潜らないんですか?錬金するのに素材欲しくなるでしょう?」
「素材は町のアイテムショップやギルドや学校で買えますし、レアな素材はそれこそギルドに依頼を出して買っています。今頃、自分で素材を取りに行くような錬金術師がいるなんて。」
「そうだったんですか。そういうのは疎くて。最初から自分で採取しては錬金しているので、そういうものだと思っていました。」
「もしかしてマキノが時々空き時間に中庭うろうろしているのは・・・。」
「ああ。そうですよ。皆さんあんまり中庭行かれないのでどうなのかなとは思ったのですが、先生に聞いたら取っても構わないと許可は得たので、取らせてもらっていますが、この中庭結構レアな素材を採取できるんですよ。今、講義であまりフィールドに採取行けなくなったので、中庭は助かっています。」
「中庭でレア素材の採取をしていると?」
「ええ、中庭といっても結構広いんですよ。右手の奥には「学びの光草」左手には「賢者の実」「薬草」「火炎層」と真ん中あたりで時々レアな「虹のしずく」が取れますよ。他にも探せば結構あるんですよ。」
マキノが言い終わるより先に、周りにいた生徒が一斉に中庭を目指して走りだしていた。シオンも「虹のしずく」と聞いたら飛び出したくなったが、今はせっかく捕まえたマキノの話を聞いてしまいたいのでぐっと我慢した。
「その、さっきの「罠避けの指輪」のレシピは教えてもらえるんだろうか。」
周りからほとんど人がいなくなったせいもあって、少し硬い声でシオンが問うてきた。ちょっと無理して聞いているような気がする。あんまり気が進まないんだろうな。というのはわかる。男のプライドがあるんだろう。でもシオンはプライドよりも知識の興味を優先したところが自分に少し似ているので、先生に秘密にするようにも言われていないので公開することにした。
どっちにしても作ってしまえば自分にはそれほどレシピに執着はないのだ。提出する時にレシピはノートにメモしていたので、それをそのままシオンに譲る。自分は既にタブレットに載っているのでレシピのメモは必要ないし。
シオンはレシピを食い入るように見ると、必要素材を確認しているようだ。
「マキノ、後で代金は支払うので、「イススの護石」1個在庫があれば譲って欲しい。」
「イススの護石」は以前「守りの護符」を作った時に知った素材で便利に使えそうだからと、採取できる場所を見つけた時に山ほど採取したので今もたくさん持っている。
「はい。どうぞ。」
「やっぱり持っているんだね。ありがとう。」
全部の素材が揃ったようでシオンが目を瞑る。人が錬金をするのを間近で見る機会は少ない。この学校に入って良かったなと思うことの1つだ。人の錬金している姿は神々しくて見ているのは好きだ。
シオンが光ったと思ったら手の平に「罠避けの指輪」が載っていた。
目を開けたシオンが「罠避けの指輪」を、すみからすみまで食いつくように観察し、日常魔法で自分のステータスを表示させて、持っていかれたMPの消費量を確認していた。
「マキノ、これ1個作るのにMP3600使っていますね。作っている最中にごっそり体から抜けていくあの感じは初体験ですよ。どのぐらいMP消費するか聞いておけば良かったです。あと少し消費MPが多かったら足りなかったから成功できなかったですね。錬金レベルも1上がりました。よくこんなのを簡単に作ってしまいましたね。」
ああそうなんだ。普通に錬金だけしていればMPはそう上がらないんだろうか。マスタークラスでMP3600でぎりぎりって標準なんだろうか。
「失礼だけどシオンは錬金レベルがどのぐらいでMPはどのぐらいあるんですか?」
「マキノも教えてくれるのならお答えしますが。」
「それぐらいなら答えます。今、錬金レベルは72でMPは38000ぐらいですね。」
「ええええ!!!」
「シオン、声が大きいですよ。」
周りの人が食堂のおばちゃん以外中庭に行ってくれて本当に良かった。
「マキノ?本当にそのレベルでそのMP量なんですか。もしかして賢者とかそっちの肩書きがついているとか?」
「いや、実は職業は無職ですよ。何も肩書きつけていません。」
「はぁぁぁぁ!」
「だからシオン声が大きいです」
品のよいシオンが何故か崩れまくっている。
バカなのか、なんなんだ。相変わらず独り言のシオンは黒い発言が多い。
「マキノ、よく聞いて下さい。普通ここの生徒の錬金レベルは30~40ぐらいです。30ぐらいで初級、32ぐらいで中級、35ぐらいで上級、マスタークラスが40ぐらい。先生が50から60で、王立錬金術師が45~65ぐらいなんですよ。僕は43でMPは4200ぐらいです。たぶん、王立錬金術師のトップレベルよりもマキノの方が上ですね。何故なんだ。」
「あーたぶん、ダンジョン潜ってモンスター倒しているからだと思います。魔法を使ってレベルが上がるとMPの上りがいいんですよ。」
「マキノ、現在の冒険者レベルっていったいいくらなんですか?」
「レベル78ぐらいかな。」
「レベル78!!!!冒険者クラスは?」
「ギルドの登録はしていないので冒険者クラスはないんです。」
「よく聞いて下さい、マキノ。普通の冒険者はレベル78あればAクラスか下手したらSクラスで上位ダンジョンも攻略できるレベルなんです。マキノが素材を全部自分で取りに行っているというのは、本当にダンジョンも全部攻略してきているとか。
そのレベルでギルド登録していないなんてありえないんですが。ちなみに普通の町の錬金術師の冒険者レベルは10ぐらいです。街の周辺に時々採取に行く程度で大抵は家で錬金していますから。僕も冒険者レベルは12ぐらいしかありません。」
そう言われても最初からこのスタイルだし。こつこつ1歩ずつ進めてきたらいつの間にかレベルが上がっていたっていう感じで苦労はしていないのでそう驚かれてもなぁ。
「マキノと僕は友達ですよね。一度マキノのダンジョンの採取に連れて行ってください。」
ええっといつ友達に確定したんだろうか。
「シオンはレベル12なんですよね。今までダンジョン行ったことないんですよね。怖くないですか?」
「ああ、今作った「罠避けの指輪」の効果も試してみたいんです。」
あ、それはわかる。初めて作ったアイテムでテンションがあがってしまうのは。シオン良いやつなのかもしれない。
「シオン、ダンジョンに一緒に行くのは良いですが、他の人に吹聴しないで下さいね。パーティ組むのは苦手なんです。それといつもひとりなのでシオンが一緒に行くとどうなるのか良くわかりません。それでも大丈夫ですか?」
「他の人にはこんな美味しい話はしません。」
とうとう本音ダダ漏れのシオンだけど、ダダ漏れの方が正直で嘘がなくてよい感じだと思う。こういうまっすぐさは嫌いじゃない。
中庭の方から歓声が聞こえてきて、他の人の採取がうまくいているようで何人か満足して戻ってきている。
そのタイミングで、シオンに促されて、学校の事務所にいって、外出許可をもらいに行く。明日は学校が休みなので、1日シオンに付き合うことになってしまった。
話をしてみるとシオンは上昇志向はかなり強いが、それもこれも錬金術への好奇心が強いためであり、知らないものを作りたい。そのためには王立錬金術師になって思う存分錬金の研究がしたいという発想なので自分と似ているところもあって憎めない。
それに毎日勉強していて、ここ1か月フィールドに出ていなかったので、息抜きにはちょうど良いかもしれない。




