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嬉々としてアイテムの場所まで走っていくマキノはとても無邪気だ。
それにしても凄い魔法だ。一瞬で結果が出てくる。ゲームのオート機能そのままだ。マキノの思う力の強さ。こっちの世界での適応力。さすがテスターに選ばれただけあるわ。
普通なら、異世界に飛ばされてモンスターと対峙したら、戦うしか選択肢がないと思ってしまうだろう。
もちろん戦わずに逃げる、戦わない職業に就くというのもあるかもしれない。
でも、マキノは戦い方を変えた。自分の苦手を得意に変える方法はたとえ、本人が逃げだとかズルだとか感じていたとしても才能なんだと思う。たとえ本人が自覚していなくてもだ。
マキノが頑張ってあっちこっち採取している姿を見ているのは飽きない。いつも無感情のマキノが、満足して採取できたら、手を振ってちょこっとだけはにかみながら合図をしてくるので、それに合わせて先に進む。今日は砂漠のちょうど手前まで行けるかもしれない。案外マキノの採取は手馴れていて早いし、モンスターはどれもこれも瞬殺だから予想していたより早く野営地に着きそうだ。
「はぁあれが砂漠のオアシスですか。エジプトには行ったことがないのですが、あんな感じなんでしょうか。オアシスといえば、湖にヤシの木みたいなイメージ持っていましたが、あれは町ですね。」
「ああ、あれがアーバンの町だ。砂漠に固定のモンスターがいて、なかなかレアな素材も取れるので、町が発達したと聞いている。
ここでも防塵シリーズは買えるが、少々お高いのと、ここに来るまでに砂漠に足を踏み込むから、できれば前の町で買う方がいいんだ。あと、マキノ久しぶりに一緒にめしでもどうだ。
アーバンの町にもお気に入りの店があるんだ。いつも「リンゴ」だと飽きるぞ。飽きを先に延ばすためにも、ためには違うものを食ったがいいと思うが、あ。泊まるのは野営でいいぞ。どうせマキノは夜しか採れないアイテム採取したいんだろう。」
こういう誘い方が、ギルド長の良いところだと思う。自分が面倒で「リンゴ」しか食べていないのを一方的にダメ出ししてこないし、「リンゴ」じゃないものを食べる利点もちゃんと提案してくれる。
「リンゴ」ばかりだといつか飽きるぞっていう、こっちの不安の上での提案になっていて、ちょっとだけ嬉しくなる。
なんでギルド長はこっちのことをこんなにわかってくれているんだろうか。自分の価値観を押し付けてこない人に初めて会ったような気がする。相手の口から出てくる言葉に身構えたり、酷い言葉を自分の頭の中で置き換えたり、全力でスルーしなくても会話ができることが、これほど楽だったのか。
普通の人が相手だと、たかが食事のお誘いひとつだとしても、まずは否定されるところから始まったりすることも多いから、怖いものは怖いのだ。
「リンゴの飽きの時点を先に延ばす提案は嬉しいです。よろしくお願いします。」
ギルド長おすすめのお店は、少し異国の味付けだが、十分に美味しかった。こちらの世界ではあまり空腹を感じないままだけど、ちゃんと食べると美味しいと思うのが不思議だ。
「さて、マキノこれからどうする?砂漠の主と戦いに行くか、レアアイテムでも採取しにいくか?」
「近い方から順番に。」
「マキノらしいな。躊躇がない。」
ギルド長に苦笑されたが、どうせどっちも片づけないといけないのなら、近い方から行く方がいい。
「じゃ、東からだな。東にはレアアイテム「砂漠の薔薇」が採取できる場所がある。少し秘密っぽい場所にあるが、マキノどうする。自分で探すか?」
「ギルド長はその場所、ご存じなんですね。ええ、では案内してください。わたしは図鑑が埋まるのが好きなので、自分で何もかも謎解きしないとダメな性分ではないです。ただ、仲間と協力してというのが苦手なので、いつでも一人で採取しているだけなんです。向こうの世界であれば、ネットの攻略ページはしっかり読む方です。」
「おおそうなのか。ネット攻略見ても大丈夫なんだな。てっきり「全部自分でやらなければ!」っていう熱血パターンなのかと思っていたわ。」
「ソロでも他の人の経験や知恵を否定する気はないです。ただ、生身の人間とつるんだり、やり取りするのがどうも苦手なだけで、協力者がいないからこそ、攻略ページは師匠ですよ。」
先を歩くギルド長の背中に熱く語ってしまったが、少し振り向いて憐れむような目をしながら、がしがしと頭を撫でてくれた。い、いやソロでも寂しいと思っていませんから。
「ほら、あそこだ、大きな岩のくぼみが見えるだろう。あのくぼみは近寄ると横に一人だけ入れる横穴があって、その奥に「砂漠の薔薇」が採取できる。奥まった場所のせいか建物に中に入った扱いになるのか、タブレット上でも光って見えないだろう。初見では見落としされることが多い。」
「あ、そういえばお姉さま方にも、その話少し聞きました。東側で一番大きな岩を目指せばいいと。」
「ローズたちから、そこまで聞けたのか。普通レアアイテムの位置なんてヒントも教えないだろうに。マキノよっぽど気に入られたんだな。」
「気に入られた?お姉さま方にですか?いやいやいやそれはないですよ。錬金で作った防具アイテムを譲ったので、そのためだと思います。
いくらで売ったらいいのかよくわからなかったので、アイテムと交換したのですが、最後までそれを気にされていたので。罪悪感とかじゃないでしょうか。アイテムを譲るのであれば、もう少し相場勉強しておかないとダメでした。ギルド長、アイテムの相場はある程度はどこでわかりますか?」
「相場は、各町のアイテムショップとかギルドの依頼とか見ていけばわかるんだが、初期の町で高位のダンジョンドロップアイテムの相場は確かにわかりにくいな。
普通錬金術師が冒険家に直接売ることもないしな。大抵が師匠のもとで錬金して、師匠を通じてアイテムショップやギルドに卸されるのが普通だから。マキノのようにどこにも所属していないまま高位の錬金ができる人はほぼいない。」
「そうだったんですね。じゃ、わたしの師匠、上司はギルド長なので、やばそうなアイテムはギルド長にお渡しして捌いてもらうことにします。いかがでしょうか。」
「まぁマキノのこっちの世界での上司は俺だしな。あんまりやばいのは売れないかもしれないが、その場合は責任もって俺が買い取るよ。こっちの世界のたったひとりの部下だしなぁ」
あーどこまでも着いていきますぜ、ボスっていう気持ちになってしまう。ギルド長が本当に上司なら良かったのに。
そんなギルド長に連れられて無事にレアアイテム「砂漠の薔薇」を手に入れて、ほくほくである。ギルド長が相手だから、すぐにタブレットの図鑑を確認することができる、「砂漠の薔薇」本当に綺麗。
「おおーい。マキノ、タブレット見ながら歩いていると危ないぞ。ここからは砂が重くて足を取られやすくなるからな」
そういって、前を歩いていたギルド長は自然と手を後ろに差し出してくる。え、この手を掴めとか?
いくら上司といえ、精神年齢30過ぎの部下に優しすぎませんか?
優しくされるのは慣れていないんです。すみません。
タブレットをバッグに戻すと、ギルド長の手を掴まずに速度を少し速めて横になって歩くことにした。差し出した手が空振りになったのか、防塵マントの上からギルド長がぽんぽん頭をたたく。
この人は本当にスキンシップが多い。物心ついてから記憶にある、人から受けたスキンシップ数をこの人はたった数か月で超えてしまったような気がする。
それが自分にとって嫌じゃないのが一番不思議だ。やはりリアルの場所じゃないから自分の心も麻痺しているのかもしれない。
「マキノ―!」
あ、美人のお姉様方3人組が前から走ってくる。何故にこんなところで?
「マキノ元気にしていた?マキノに砂漠の話をした後に、砂漠の主を避けて通ってきたから、新しい装備がある今なら、戦えるかなって戻ってきたの。」
「そうなんですか。砂漠の主、わたしも戦う予定です。レアドロップあるらしいので。」
「ねぇ、マキノご一緒の方はもしかしてギルド長でいらっしゃいますか?」
「ギルド長―。呼ばれていますよ。」
「おお。呼ばれたか?」
「綺麗なお姉さま方に自己紹介をよろしくお願いします。」
「ええー。自己紹介といっても、ただのギルド長だ。今日は俺の秘蔵っ子のマキノの昇進試験の立ち合いをしているところだ。」
ええー?いつの間に昇進試験を?あー。一緒にいる理由がそれぐらいしかないからか。でも、一度もギルドに登録していないけど、一体何級から何級になったことになるんだ?
「マキノ、昇進試験ですの?それでギルド長が立ち会うなんて、凄いですわ。マキノの実力じゃC級昇進でしょうか?」
「綺麗なお嬢さんの質問でも、個人情報でシークレットなんだ。答えられなくてすまないな。これから試験なんだ。ご一緒出来なくて悪いな。」
いやいやいや。答えられないって、答えがそもそも無いんだろうって思いつつ、綺麗なお姉さん方はそれは残念ねっと納得されているから、まぁいいか。
ギルド長がうまい具合に説明してくれたので、お姉さま方とは、またいつかご一緒にダンジョンでも行きましょうねと声かけられて別れることができた。良かった。
圧の強い美人のお姉さま方はちょっと苦手だ。
その後、お姉さま方が砂漠の主を倒しに行くタイミングを外すため先に砂漠のアイテムを拾った後に、ギルド長と砂漠の主を倒しに行き(自分のMPの三分の1を使った強敵!)レアドロップ欲しさに何度も周回し、砂漠のセーフティゾーンでテントを張り回復しつつ、ちゃんとギルド長用のテントも隣に張って苦笑されつつ、砂漠で取れるアイテムを回収すること三日間。アイテム図鑑が3割超えました!やった!




