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本格的なダンジョンには罠がいくつもあって、最初はそれに何度もひっかかり久しぶりにHPを減らしてしまった。ただ、運がMAXにいいので死ぬところまでいかない。ひととおりの罠に当たると、後は何となく罠がありそうだなとわかるようになってきた。
ただ、落とし穴は下に落ちるとレアアイテムがある隠し部屋に行くこともがあるので、少々のダメージなら落ちてみることにしている。
宝箱のミミックも初めて遭遇した。あれは宝箱を見つけた時の喜びを半減させるが、このダンジョンの良いところで、ミミックを倒せばそれなりのレアドロップアイテムが出てくるので、見つけたらいつもどおり倒すことにしている。
ダンジョンは昔のRPGのような感じで懐かしい気持ちで進めていける。途中出てくるモンスターも5階まで探索し終わってレベル27を超えてしまったので、何がでても瞬殺で終わってしまう。
罠にかかってHPを減らしてしまったり、例の魔法で戦うとMPはそれなりに消費されていっているので、毎階念のために「テント」を張ることにしている。低層階で「テント」を張る人は少ないので、いつでも気兼ねなく悠々している。
「テント」の中でMAX回復すると、後は新しく手に入れたアイテムで錬金したり図鑑が埋まっていくのを見て至福の時間を過ごしている。これがあるから次に進めるというもの。
人に命令されてする作業は好きなことでも嫌な気持ちになるが、自分の好きなことを好きなペースで進められるのがこんなに幸せだなんて。人生のボーナスステージに再度感謝である。
いろいろ試した結果自由錬金で「大コウモリの羽」と「オークの牙」で何気にカッコいいお守りができてちょっと嬉しい。攻撃と魔法の両方の防御力が上がるそうだ。モンスターからの攻撃はこっちの世界にきてから一度も受けていないが、良いものが出来るのは素直に嬉しい。
「リンゴ」1個齧って「テント」から外に出ると5階の中ボスと戦うことにする。
5階の中ボスは「トロール」でかなりいかつい。大きなハンマーを持っていて勢い付けてハンマーで攻撃してくるが、見た瞬間にいつもの魔法で瞬殺する。
ドロップアイテムは攻撃力の上がる「悪魔のお守り」だった。ここまでで3日、「テント」の中でゆっくりしたり錬金している時間以外は戦っているのでレベルが上がるのは早いが進むのはゆっくりだと思う。
今回も多くの他の冒険者の人に怪訝な顔をされては抜かされていっている。
気楽でいいんだけど、みんななんでそんなに急ぐのかな。
10階のセーフティゾーンで張っていた「テント」から出て「テント」を畳んでバッグに仕舞ってから、ふとさっき手に入れた「軍隊ガニ」からのドロップアイテム、「泡真珠」があったのを思い出して、真珠なら前に手に入れていた宝石系と何かできるんじゃないかと閃いたので、どうしても結果が知りたくて錬金したくなってしまった。
「テント」をもう一度出すのは面倒なので、セーフティゾーンの隅っこで、他に休憩している2組のパーティさんに背中を向けて、もし見つかっても言い訳できるように、こっちの世界の錬金方法の祈りを使って錬金してみることにした。
祈りなので、綿密に想像してみる。打撃や魔法の防御力が高いのに、めちゃくちゃ綺麗なアクセサリーが良いな。
目を閉じて高い防御力の付与を考えつつ、綺麗なアクセサリーをと考えると向こうの世界で見たことがあるミ○モト宝飾展で展示してあったような煌びやかなものがふと頭に浮かぶ。光が放たれ目を瞑っていても眩しい。手の平が重たくなったので目を開けると、想像以上に眩いネックレスが出来上がっていた。
持ち上げてみてみると、真ん中にサファイア、それをルビーが取り囲み、細かい金の装飾文様があり、ネックレス部分は真珠でできていた。
使われている石自体はそれほど大きくないこともあり、品よく収まっている。タブレットを確認すると願ったとおりに、打撃魔法ともに防御力がかなり高い。良し良し良いものができたと、バッグにしまおうとしていたら、
「あ、あの、そのネックレス、今、作られていましたよね。」
いきなり背中から声をかけられて、びくっとして振り返ると、綺麗なお姉さん方が3人ほどこちらの手元を食いつくように覗き込まれている。
「ええ、先ほど「軍隊ガニ」を倒した時にドロップアイテムの「泡真珠」を手に入れたので、試して作っていました。」
お姉さん方が、やっぱり錬金されていたのよ。軍隊ガニならわたしたちも倒して「泡真珠」持っていたよね。あれでこんなのができちゃうんだ。とか顔を見合わせて話していたと思ったら、
「それ少し見せてもらえませんか。」
ひとりのお姉さんに遠慮がちに問われたので言われるがままに差し出すと、
見て、この輝き、すごく綺麗。これがあの「泡真珠」からできているなんて。
こっちにも貸してみて、ルビーとサファイアも綺麗だし、この細かい金の装飾がとてもおしゃれだわ。キャッシー鑑定してみてくれる?
ええと、鑑定。打撃防御力1.4倍UP。魔法防御力1.4倍にUP・・・え、常に身に着けるだけで自分の防御力が4割増しになるっていうこと?!
こんなアイテム見たことある??こんなに美しいのにこれだけ付与があるなんて今まで聞いたこともないわ。
凄い。ほ、欲しい‥
お姉さん方の目の色が変わってきてすごく圧を感じる。早く逃げ出したいので、
「もしよかったら差し上げますよ。1度錬金でつくれたらレシピできているので材料さえあれば何度でも作れるものなので。」
全部言い終わらないうちに
「はい!!欲しいです!私!」
「あ、わたしが欲しいです!」
「いえ、わたくしに是非!」
3人とも、ものすごい勢いで食いついて来られたので、思わず体ごと引いてしまった。
お姉さん方が、じゃんけんで決めるとか、一番防御力が低いのはわたしだからわたしが装備した方が良いとか、言い合っている隙に、タブレットで確認してみたら、「神秘のネックレス」★2とあり、後何個か作っても素材は足りそうだ。
「あと、2個は作れるので、今、作りますね。少し待ててください。」
一刻も早くこの囲みから抜け出したいので、さっさと目を瞑り同じものを大急ぎで2個追加で作って、お姉さん方、一人一人に手渡した。
さっきまで取っ組み合いの勢いだったお姉さん方は少し恥ずかしげに、それでも1個ずつ手に入れられてとても嬉しそうに眺めておられる。
おひとりはさっそく装備されたようで、身に着けると余計に綺麗に見えて、やっぱり美しいものは美しい人がつけるといいなって思っていたら、おひとりがはっとした顔をして、
「このネックレスの代金を払いたいのですが、おいくらでしょうか。」
と不安そうに聞いてこられた。
そういえば前回の「中級回復薬」や「リンゴジュース」は上げてしまったし、誰かにアイテムを売ったことない。
宿屋にも泊まっていないし、欲しいものは錬金で作れるし、お金については残高が今いくらなのかも知らないし、代金をもらうつもりなんてなかったんだけど、どうしよ。
しばらく悩んだ末に、
「代金は良いので、材料になった「泡真珠」の在庫が少なくなったのでそれをいただければそれでいいです。」
そう伝えると、3人のお姉さん方は顔を見合わせ心配そうに
「本当に代金は良いの?わたしたちお金持ちじゃないけれど、支払える分ぐらいは持ってるから、言ってくれたら大丈夫なのよ?」
「ええ。大丈夫です。そんなにお金使わないので、素材の方が嬉しいです。」
本当にそう思うので再度そう伝えると、わかったっていう顔をして、リーダー格のお姉さんがバッグに手を入れている。アイテムボックス持ちのようだ。
それを聞いていた、もう一つのパーティのリーダーらしき人が、瞬間移動かっていうぐらいの早さで近づいてきてびっくりした。
「申し訳ないが、今までの話を聞かせいていただいた。防御力が1.4倍にもなるアイテムが素材と交換で良いとか?それは本当なのか?」
思ったよりも低姿勢だったのでほっとした。
「ええ、このネックレスでお金取るつもりはぜんぜん無かったので材料の素材さえいただければまた作れますし。」
「もし良かったら俺らのパーティのメンバーにも譲ってもらえないだろうか。材料はできるだけ提供させてもらうから。」
うーん。どうしよ。手渡すのは簡単だけど、このネックレス成人男性にはまったく似合わない。男性向けアイテムを考えた方が良いかも。
「あの、もし良かったら、男性向けを考えますので、強度のある素材持っておられますか?」
「あ、あります。「軍隊ガニ」から「軍隊ガニの甲羅」とここに来るまでに採取できた「イススの護石」があります。」
「それ良さそうですね。「軍隊ガニの甲羅」ならわたしも少し在庫持っていますし、それで作ってみます。「イススの護石」は手持ちがないので人数分用意できますか?」
リーダーらしき人がバッグから必死で取り出されたそれらを受け取り、さっきと同じように祈る。攻撃、魔法防御ともに1.4倍で、男性向けのかっこいいアクセサリー。
ネックレスの時の違うのは防御力をきっちり数字化して願うこと。さっきのネックレスの能力と差が出るとお姉さま方ときっと修羅場が見えてくるのでそれは避けたい。
目を瞑り、祈る。いつものように光りだすと、手に重さが伝わる。周りからおお・・・というような感嘆の声が聞こえてきてちょっと恥ずかしい。
目を開けるとカッコいいエンブレム型の護符があった。濃紺で真ん中にちょっと神聖化されたカニ。そうカニだけど図案化がカッコいいから許せるもので、ぴかっとひかっていて男性が身に着けやすそうなデザインになっている。
それを手渡すと、お姉さん方も交えてわいわい意見交換されている。その隙にタブレットで確認すると、「守りの護符」こちらも★2で、攻撃、魔法防御力はともに1.4倍とあった。やれやれ良かった。在庫の確認をするとパーティの人数分は作れそうだ。
賑やかな向こうの人たちはほっといて、残り3個次々に作成する。あっという間だ。ただ、ネックレス3個と護符を4個それなりのものを作ったのでMAX回復させたはずのMPはずいぶん減ってしまった。結局もう1回「テント」張らないと…。
護符も全員に配布し、これでお役目ごめんだと解放される気満々になっていたら、お姉さんがこっちに近づいてくる。え、何?
「今回は本当にありがとう。これで中ボス戦も楽勝になると思うわ。こんなにしてもらったのに、自己紹介をしていなかったのに気付いて、遅くなってごめんなさいね。私たちはチーム名「暁の乙女」私はリーダーのローズよ。こっちは回復役のミント、攻撃と支援役のキャッシー。」
こっちの世界にきてから自己紹介なんて一度もしたことがなかったんだけどお姉さんの目が何か期待しているのがわかる。
「わたしはマキノです。マキノと呼んで下さい。」
「マキノね。覚えたわ。いつかきっと恩返ししたいと思っているわ。何か困ったことがあったら近くのギルドにでも伝言を入れておいて。あなたになら私たち協力を惜しまないつもりよ。」
そうにっこり笑って、さりげなく握手を求められる。おお。握手なんて経験ないよ。でも、差し出された手を握らないわけにはいかない。こっちの世界何気に熱い。
お姉さんたちの、ローズさんがそんなことを言いだしたので、もう1組のリーダーっぽい人も近寄ってくる。この流れでくればそうなんだろう。
「俺も自己紹介しておく。パーティ名は「蒼嵐の稲妻」俺はクォーター、仲間は右からエリオン、ヤーク、セサミの4人。中堅パーティとして売出し中だ。俺らもこんないいものを気持ちよく譲ってくれた気のいいマキノにいつでも協力するぜ。」
え。やっぱりこっちも握手するのか。
しっかり固い握手をした後も、ローズさんとクォーターさんたちはまだ盛り上がっている。
お互い情報交換をしているようだ。
向こうの世界でも他人にそれほど興味がなかったので、人の顔も名前もあまり覚えない方だったし、仕事で関係する人以外はすぐに忘れてしまう。自分にも興味を持って欲しいと思わなかったので自己紹介も苦手なのでできれば避けたい方なのに、こっちの世界でこんなに巻き込まれてしまうなんて。
確かに自分の趣味で作った物を素直に喜んでくれる人がいるっていうのは初体験で嬉しかった。嬉しいという気持ちと、さっさと解放されたいという気持ちがどっちも存在している。
他人とうまく話せない自分に嫌気がさしてしまうからかもしれない。ふたつのパーティの人たちのように、熱く情報交換をするテンションがどうもついていけない。どこからあの熱量って湧いてくるんだろう。
そんなことをぼっと考えていたら、急にこっちにローズさんが近寄ってきた。
「蒼嵐の稲妻」さんたちは、中ボスの部屋の順番が来たので、名残惜しそうに戦いに行かれたようだ。
「ねえ、マキノはどっちから来てここに辿り着いたの?私たちは西のアーバンから出発してきたんだけど、「蒼嵐の稲妻」さんたちは、北のジグザムからだって聞いたわ。」
答えのある問いはまだ楽だなと思ってほっとする。
「ここから南にあるメーベが出発地点です。」
「メーベって初心者に優しい穏やかで良いところよね。そうなのメーベなのね。私たちはここが終わったらそっちの方に行く予定なのよ。」
他の方と顔を見合わせてなにやら話をされている。
「ねて、マキノ、私たちのパーティに入らない?女子3人だけど、打撃、回復、支援とバランスはいいし、ハンタークラスはまだCだけど、その分楽だと思うんだけど。」
後ろのお姉さんたちも頷いておられるが、何故に皆、ほんのちょっと前に出会っただけの他人を仲間に入れようとするんだろうか。
「すみません。わたしは冒険者じゃなく、錬金が好きなんです。見たことが無い知らない素材を手に入れて新しい物を作るのが好きなんです。素材採取のためならば長期間同じところを周回することも多いです。誰かと一緒に行動できる人間じゃないんです。」
そう、一気に言うと、あからさまにお姉さん方3人ががっかりされたのがわかる。わかるけど、すみません。仲良さげな幼馴染っぽい空気感を醸し出されて、今まで幾日も一緒に戦いを重ねてこられたお姉さん3人の中に、一人混じる気はぜんぜんないです。例のネックレスの時の圧もダメです。綺麗なお姉さんっていうだけで苦手です。すみません。
ローズさんは本当に残念そうだったけど、ご自分たちが通りすぎてきた町やダンジョンの話をいくつか教えてくれて、いつか本当に人手が欲しい時にはギルドに伝言を残しておいてねと、念を押され、中ボス戦に挑まれにいかれた。
はぁ~~~。やっと一人に戻れた。
ローズさんは確かに良い人だった。まだ行ったことがない町の情報も教えてもらえたし、悪い人じゃないのはわかった。だけど、まだ無理だなと思う。
自分がこっちの世界にきて1か月も経っていない。一人でいる時には気にならないけど、他に人が一緒にいると「テント」もそうだけど、自分だけがこっちの世界でズルしているような気もしてしまう。
もし、転生系でこっちの世界に骨をうずめるのならもう少し人とも関わろうと思ったんだろうか。もし、ローズさんのパーティに加入しておこがましいが自分のことを戦力としてカウントしてもらっているのがわかった後に、向こうの世界に帰ることになってしまったら、迷惑をかけてしまう。
人に迷惑をかけるのは前から苦手で、今もなお一向にそこは改善していないし、一人の方が楽だとやっぱり思ってしまう。
仕事と家を往復して時々居酒屋でぼっと飲めたらそれでいいって思っていたから、こっちでもずっと一人を貫くつもりだったのに。
ローズさんの残念そうな顔が思い浮かぶと心が痛い。向こうの世界では、ここまで自分に関わろうって思ってくれる人がいなかったからかもしれない。




