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 「よ、やっとこっちの町に来たのか。普通の奴らは、最初の町でパーティ組んでいくつかギルドの依頼をこなしたら、さっさとこっちの町に来る方が多いな。俺がマキノ1人だからレベルが上がるまで最初の町にいた方が言ったから念を入れたのを真面目に受け取ったのか。いや。それはないだろうな。とりあえずタブレット貸してくれ。」


 気さくなギルド長に少し慣れてきたような気がする。話をするとちゃんと会話になっていて少し嬉しい。言われるがままにタブレットを手渡すと、ギルド長が慣れた手つきで操作してまたどこかにデータを飛ばしている。


「マキノ、これ、お前、えっと、何だ。このレベル。『レベル18 職業空欄、HP2800/2800 MP3280/3500 武器なし 防具 旅人の服 魔法 風魔法レベル15 水魔法レベル15 土魔法レベル15 火魔法レベル15 錬金レベル32』」


「何かいけない数字になっているんでしょうか。」


「いや、いけなくはない。ただ、2番目の町に初めて来た時の他の奴のレベルに比べるとかなり高い。パーティも組まず、ギルドの依頼を何一つこなしていない割に、かなりレベルが高い。


 マキノはレベル18だが、普通はレベル12そこそこでこっちに来ている。魔法レベルについても、火、水、風、土の魔法レベルが全部そろって15ってなんだ。どうしてこうなったのか想像がつかん。更に想像つかんのが、スキル錬金レベルが32ってなんだ。マキノ、最初の町で何していたんだ?」


「何をしていたのかと尋ねられたら、ただ図鑑埋めをしていただけなんですが。ひたすら素材を採取して、それを錬金して、ドロップアイテム目当てでモンスター倒しまくったのが悪かったんでしょうか。」


「いや、だから悪くはない。俺の想定外なだけだ。はっきりいって、最初の町周辺のモンスターは雑魚レベルだから、1匹倒しても多くても経験値10ぐらいしかいかないだろう。いったいどのぐらい倒したらそのレベルになるんだ?」


「どのモンスターも150~200匹ぐらい倒したと思います。まぁ雑魚なので瞬殺で済むので時間はギルド長が思っているほどかかっていないと思います。


 やはりきっちりどんなアイテムをドロップするのか、素材を落とすのか150~200ぐらい倒さないとはっきりわからないので、自分で納得するまで倒しただけです。「スライム」と「角うさぎ」と「眠りきのこ」と「グレイウルフ」、「ビックワーム」、「にょろにょろ」、「ぎざみみ」、全部で7種類ですね。」


「お、おう。最初の町とこっちの町の中間に出てくるモンスターも含めてだな。雑魚レベルだとはいえ全部で最低1000回は戦ったわけだな。魔法レベルもあがるわな。


 でも、綺麗に全部の属性の魔法を同レベルで上げるのは器用だな。それにしても錬金レベルの上がりようは普通じゃないよな。どれだけ初級レベルの錬金を1週間休まず眠らず錬金してもここまでは上がらないと思うぞ。」


「ああ。錬金レベルは「テント」作ったらすごく上がりましたから、きっと「テント」のせいです。」


「おい、マキノ「テント」本当に作ってしまったのか。」


 ギルド長の目が大きく見開いて、タブレットの図鑑を必死でめくっていく。「テント」のページで手が止まると、まじまじと見入っている。


「マキノ、この「テント」★が4ついているぞ、ダンジョンのドロップ品の「テント」は★3なんだが、この「テント」何なんだ。見た目は向うの世界のアウトドア用の「テント」そのものなんだが、なんでこんなにレベルが高いんだ。」


「なんでと言いましても、出来てしまったらこれだったとしか言えないのですが。なんならここに出してみますか?」


 ギルド長室はさすがにギルドの長の部屋なので、無駄に広いスペースがある。20畳ぐらいあるんだろうか。奥にデスクと入ってすぐのところにソファーがあるが、ソファーと左手の本棚との間は、いつ来ても無駄スペースだと思っている。いつかギルド長にこのスペースの利用方法を聞きたいところである。


「このスペースに置けるのであれば、出してみてくれ。「テント」は確かに向こうの世界ではアウトドア用だが、こっちの世界では基本ダンジョン内のセーフティゾーンで使うので室内でもOKだ。」


 ギルド長からの了解が得られたので、タブレットから「テント」を出してみた。

 実際よくできた「テント」だったので、誰かにちょっぴり自慢したい気もあったので、ギルド長に見せることができて嬉しい。


「ギルド長、どうぞ。これがわたしが作った「テント」です。」


「ああ、どう見ても普通の4人用ぐらいの「テント」だな。入ってみるぞ。ああああ???」


 ギルド長が「テント」に入った瞬間にすごい声を出したので、つられてわたしも「テント」の中に入ってみると、ギルド長がすごい顔してわなわなとなっている。


「ギルド長、何か不備な点でも?」


「不備な点?マキノ、これを見ておかしいと思わなかったのか?」


「え?こっちの「テント」は皆、こういう仕様ではないのですか?」


「そうか、マキノはこっちの標準的な「テント」を知らないんだな。では言うぞ、こっちの標準的な「テント」は向うの世界の標準的な「テント」とそう変わらないんだ。こんな普通の宿屋の部屋みたいなものは絶対にない。なんだこの「テント」の空間は。」


「ギルド長、つかぬことを聞きますが、こっちの「テント」も向うの「テント」と同じようなものだとすれば、もしかして、「テント」で寝てHPMPって全回復したりしないんでしょうか?」


「するわけないだろう。普通は!!って、それをマキノ、今、聞くのか。もしかして、この「テント」ってそうなのか。」


「はい、普通の「テント」は寝ればHPMP全回復するものだと思い込んでいたので、これも出来たらそうなっていました。」


「お、お、お前な。とんでもないもの作ってしまったな。そりゃ★4、下手したら★5クラスだぞ。俺も今まで見たことも聞いたこともないものだ。世界中の宿屋の主人に知られたら恨まれるぞ。全回復することは、黙っておくんだな。これ。あ、タブレットちょっと貸せ。」


 ギルド長、レシピ錬金欄をすごい勢いでスクロールしている。


「あ、あった。「テント」のレシピできているぞ。確かに最初の町で手に入るものばかりでのレシピだな。よくもこのレベルの素材で、あ、確かにレア素材もかなり使っているな、それにしても、こんなすごいのを作ったな。いくら自由錬金とはいえ、これがよく「テント」の範疇に収まったものだな。ん?なんだ、この一番下の欄にちらりと文字が見えるな。「テント」より凄いもののレシピいつ手に入れたんだ?」


 スクロールしているギルド長の手が止まって、こっちを見る。最近ずっと目を見開いたギルド長の顔ばかり見ているような気がするが、なんだろう。


「マ、マキノ?これ?どこで手にいれた?これ、賢者の石のレシピだぞ。」


「へ?賢者の石のレシピ?なんですか。それ?」


「おまえ、知らずにいたのか。こんな凄いものを!!」


「だって、レシピ錬金の初級はこんな後ろの方にないですし、「テント」は自由錬金で作って、1個で十分なので、後は見返すことは無かったですから、そんなところに新しいレシピが出ているのは知りませんでした。」


「じゃ、なんで、ここにあるんだ。初期設定では入れていないぞ。」


「でも、賢者の石なんて、まだぜんぜん意識すらしてなかったですよ。」


「何もしていないで、手に入るようなレシピじゃないぞ。何か変な人に変な物もらったとかないのか。」


「基本、こっちの世界で普通に話をしているのはギルド長だけですよ。あ、あとアイテムショップの店員さんぐらいでしょうか。」


「そのアイテムショップで何か変なものは買わなかったのか。」


「ええ、普通のものだけ・・・。あ、そういえば綺麗な青いガラス玉みたいなのを買いました。」


「それ、図鑑は確認したのか。」


「あっ。買った後に、ギルド長に会いに行ったので図鑑の確認は失念していました。最初の方には載っていなかったせいもあるかもしれません。」


「タブレット貸してくれ。それのだいたいの掲載場所はわかっている。」


 今日何度目か、ギルド長にタブレットを奪われたわけだけど、「テント」よりも後ろのページに例の青いガラス玉が光って載っていた。★4だ。


「これだ、これ。マキノこれは「賢者の石の欠片」だ。この欠片に「賢者の石」の効能はない。だけど、この欠片を手に入れれば、「賢者の石」のレシピがわかるようになっているんだ。最初の町のアイテムショップで手にいれたと言ったな。


 前回プレイヤーか、いや、あいつは手に入れるところまで行っていないはずだ。


 じゃ前々回プレイヤーか、あれは魔王を倒しに行くと行って、地の果てまで行ったから手に入れた確率は高い。それにあいつは職業勇者を選んだだけあって、攻撃力と防御力、魔法レベルはとんでもなく上げていたが、錬金についはあまり興味がなく、回復系はパーティ組んでいた賢者頼みだったはずだ。


 あいつなら手に入れて、興味なく、いたずらで最初の町のアイテムショップの商品に紛れ込ませることはできただろう。


 「賢者の石の欠片」はアイテムショップには絶対に出回らないアイテムだから、ショップ店員が鑑定できなかった理由もわかる。それをマキノが手に入れたのは運を上げたからだろうか。」


 うなりだしたギルド長を見て


「これ、お返しした方がいいんでしょうか。」


「いや、正当な権利で買ったものだからこれはマキノのものだ。それにレシピを手にいれたところで、今のところはまったく手が届かないはずだ。これを見ただけじゃ、何がなんやらわからないだろう。」


「ええ、この最終必要な4つの素材が何なのか見当もつきません。」


「そうだろうな。「賢者の石」は錬金術の最終試験のようなもの。ありとあらゆるものを錬金した後に試されるものだ。


 「賢者の石」以外のものを全部作った後に作るものだともいえる。そこまでいかないと必要な素材にたどり着けないともいう。数百年で1人成功すれば良いとまでも言われる幻のアイテムであることは確かだが、レシピが存在しているから、この世界では、素材が手に入れば、ある程度めどがたつ。


 マキノの錬金レベルの上がり方の早さ、丁寧な仕事ぶり、集中の度合い、自由レシピの思いつきの凄さとそれを実現させる意志の強さ、俺が上げてしまった運の強さ、全部勘案すれば、いつかマキノは手に入れるだろう。


 幻のアイテム「賢者の石」を。俺も最初はマキノが図鑑をコンプリートすると聞いた時、半分ぐらい途中で投げ出すのだと思っていたが、こっちの世界にきて1週間ほどのマキノを見て、それが間違っていたことに気付いた。おまえはやるわ。」


 半分あきれ顔、半分苦笑のギルド長に、頭をがしがしされて、ちょっと照れてしまった。褒められているのかな。少しこそばい感じがするが、がしがししてくる大きな温かい手がうっとおしくないのが自分でも不思議だ。


「マキノは1度俺が教えたことは全部できるようになっているし、向こうでもかなり仕事ができたんじゃないのか」


「え、そんなことは初めて言われました。一度で出来るようにする癖は、人から怒られたくないからだし、向こうではわたしのすることは何も認められたことはなかったですよ。」


「そうなのか。周りのやつは見る目がないやつばっかりだったんだな。そうそうマキノの作ったびっくり「テント」の話とかはもう横に置いておいて、この町の特徴を教えておくと、この町は2番目の町であるが、ダンジョンへ行くための最初の町でもある。新人に毛の生えた程度の冒険者たちが、とりあえずパーティを組み、初めてダンジョンへ挑戦するために準備をするための町だ。


 アイテムショップもそのためのアイテムが置いてあるし、町の周りでは「火炎草」を初め「ボム」の材料もたくさん採取できる。町からダンジョンまでの間に出現するモンスターをやや経験値高めにしてあるので、そこでギルドの依頼を受けつつレベルを上げることも可能だ。


 だいたいレベル12ぐらいで挑戦してダンジョンボスと戦ってレベル15ぐらいで生きて帰れる程度の初級お試しダンジョンになっている。その代わりドロップアイテムはショボイ。ダンジョンとは何ぞやを知るためのものだ。


 ここでダンジョンがわかった奴が、次の町の本格的なダンジョンに挑戦して行くことになる。まぁドロップアイテムはショボイが、ダンジョンのボスは新人にはそれなりに手ごたえがあるし、ダンジョンボスのドロップアイテムはいくつかあって、それなりに序盤に役に立つものにしている。


 ボス戦のドロップアイテムはフィールドで採取できないし、錬金もできない。ただし、1人で何度でも挑戦できるので、数をこなせば全部そろえることは可能だ。大抵のやつは、お試しダンジョンのボスのドロップアイテムを大したことがないと思っていたり、次の町のダンジョンの方のドロップアイテムの方がすごいっていう噂の方がよく聞くので、1回倒して次の町に行く方が多い。」


「わかりました。初ダンジョンはわくわくします。それに新しいモンスターや素材に会えるのも楽しみです。ボスの強さがどの程度なのかわかりませんが、しっかり防御してドロップアイテムコンプリートしてきます。あと、ギルド長、自由錬金についていくつか質問があります。」


 マキノは自由錬金に対して思った疑問、素材の必要個数や「テント」みたいな規格外についてのこっちの世界でのあり方を聞いてみた。


「図鑑にはある程度自由幅はある。同じ「上級回復薬」でも、基本につかう薬草は同じでも、それ以外に必要な素材が数種類違っていても、効能がほぼ同じであれば「上級回復薬」として認定されることになっている。 


 田舎のおばあちゃんの味噌や梅干しと同じだと思え。少しずつ家庭の味があって違うけれど、どれも味噌であり梅干しだろう。くくりの幅は少し広めになっているので、同じだけど違うがあっても大丈夫だ。


 まったくそこからかけ離れたものは作れないかもしれないが、マキノのびっくり「テント」のように、こっちの世界ではみたことがないものも、マキノが「テント」だと思い込み、図鑑が「テント」だと認めた場合は存在してしまうようだ。このびっくりの幅がこれだけ大きいのは知らなかったが。」



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