ケンタウロスの心 その2
悩みながら書いた話です。
お読みください。
ここまでお読みいただいた方、感謝いたします。
夜が明けて、外は相変わらずの雨だった。
いつもの朝とは少し違った。
雨で体を冷やしたタコーは、体調が崩れてしまった。
血が足りていないため、雨に打たれながらの作業は彼の体力を根こそぎ持って行った。
本人も気づかないほど消耗していた。
ここにきて、そのしわ寄せが発熱となって彼の身体を痛めつける。
「タコー様、食材を採ってまいります。体を休めておいてくださいな」
発熱で眠っているタコーを案じて、コッカが声をかけて小屋を出ていく。
= = = = =
雨の中、コッカが食材を探す。
雨のせいで匂いが流される。
葉の匂い、花の匂いで地中の食材でも見つけられるはずなのに。
降り続けた雨はそのかすかな手がかりも洗い流してしまっていた。
見つからない。
コッカ自身も空腹が酷くなってきた。
ふと、見上げると、わずかだが木の実が見える。タコーなら取れるかもしれない。
木の実の栄養価は高いので、少しでも手に入れば、タコーの体調をとどめるくらいはできるかも知れない。
コッカは、生まれて初めて、四脚の自分を歯がゆく感じた。
木の実の位置が判るように木に刻みを残し、目印にした。
雨の中、彷徨うように食材を探す。
身体はずぶ濡れになり、屈強で知られるケンタウロスも徐々に体力を消耗していくのを自覚していた。
(一旦、戻りましょう。体温を維持するにも、服が濡れすぎました)
軽い悪寒さえ感じ始めていたコッカは、やむを得ず小屋に戻ることにした。
(最悪、タコー様にはわたしの血を飲んでいただきましょう、少しはマシですから)
帰路について、しばらく歩くと見覚えのある場所に来た。
「おかしい、ここはさっき通りました」
それから、記憶を辿り小屋へと急ぐが、またもや同じところに行きついてしまう。
迷った、ここ滞在し始めて初めてのことだ。
冷静になるように自分に言い聞かせる。
急いだから、どこかで道を間違えているだけだ。
急がば回れ。
落ち着いて帰り道を進めば、大丈夫。
コッカは、慎重に歩き始めた。
何度も行き来している川沿いに出た。
ここまで来れば大丈夫。
木の実の場所からさほど遠くなかったことで、ようやくどこをぐるぐる回っていたか理解した。
川沿いは、川の増水のため、地面が緩くなっていた。
一歩踏み出したところで、蹄を踏みしめる感覚が無くなった。
運悪く足元の土が川の流れに持ってかれた場所を踏み抜いてしまった。
幸い川に落ちるようなことはなかったが、横の大木の根の中に踏み込んでしまった。
踏ん張ろうとしても足掛かりになるところが細い木の根だったりして蹄が滑ってしまう。
腕の方も、馬体引き上げるほど掴める場所が無かった。
「タコー様ー、タコー様ー」
呼んでみたが、しばらくしても気配はない。
(熱を出してお休みしておられたのです、起きていらっしゃらないのでしょうね)
= = = = =
なんて無様な。
コッカは自分の失態に呆れてしまった。
雨が降り灌ぎ体温を奪ってゆく。
身体を縮め体力を温存することにした。
わたしは、ここで死ぬかもしれませんね。
婚約者の顔を忘れる薄情な女の最期にはふさわしいかもしれない。
なんで、死んでしまったの?わたしを残して。
せめて、あの逢瀬のときに子供を授かっていれば。
忘れ形見を残してくれれば。
こんなところで寂しく死んでいくなんて。
ふと、タコーの顔が浮かぶ。
異国の男性という以外特徴が見当たらない容姿。
偶然出会っただけの男。
ただそれだけなのに気が付くと彼のことを意識して仕方がない。
傷の手当てをしている間、彼の勇気が観察できたような気がする。
どこかに置いてきた女の自分が、彼を伴侶とした生活を考えていたことに気が付いた。
いや、出会ったときにから始まっていたかもしれないが、抑えつけて意識しないようにしていたのだと確信した。
彼に会いたい。このまま再会できずに別れるのは嫌だ。
会って自分の気持ちを伝えよう。
死にたくない。
コッカは、足先から氷のように冷えていく感覚を感じたところで意識を失った。
= = = = =
コッカは何かに覆われる感覚で意識が戻った。
「何?」
「コッカさん、大丈夫ですか」
目の前にずぶ濡れのタコーが居た
「タコー様、お体に障ります」
「それより、コッカさんは大丈夫ですか?ずいぶん探しましタから、その間ずっと雨の中にいタのでしょう?」
「え、わたしは、・・・」
「それより、さあ、小屋に戻りましょう」
「う、ううっ。タコー様ぁ、わたし、怖かったー。もう死んで、お別れになるんじゃないかと思いましたー、うわーん」
「コッカさん・・・」
タコーはコッカを優しく抱きしめた。
「もう大丈夫、大丈夫、俺がここに居ます」
コッカの心がタコーと触れることができました。
ふたりに命のつながりができた話だと思います。
次話をお待ちください。




