ケンタウロスの献身 その2
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
ケンタウロスのコッカと出会ったタコー
ではでは~
7日目、タコーは歩けるまで回復した。まだ傷の深部に違和感があるが、コッカの治療魔法のおかげで
日常生活にさしたる支障はなくなっていた。
「コッカさん、川で洗濯をしてこよう。洗うものが有れば出してください」
「タコー様、洗濯など女の仕事です。それにあなたはまだ傷が癒えておりません」
「私もそろそろ身体を動かさないといけません。タだ狩りなど無理ですので、できるのは洗濯くらいです」
「それでは、休んでいてください。あなたは見ていてくれれば・・・いいのです」
そういうと昼食の後片付けを始めるコッカ。タコーは手伝えず座って見ているだけだった。
日が頂天から傾いた頃、コッカは弓を持って出かけて行った。
コッカは弓が上手いらしく鳥や小動物を必ず持って帰ってきた。矢も射損じが無いためか減っているように見えなかった。
タコーはコッカが狩りに出ている間、刃物類を研ぐことにした。
木こり小屋が幸いしてそこそこ使えそうな砥石があった。
「そこそこの大きさだから、剣も研げそうだ」
木のカップに水を汲み砥石を濡らす。
剣は盗賊を斬った時から手入れをしていなかった。
いざ研ごうと思ったが、血脂が酷く研ぐには汚れ過ぎていた。
「汚れを落とさないとダメだな。川で洗濯して剣を洗うか」
タコーは洗濯ものと剣を持って川に向かった。
川べりに石で囲いを作りその中に洗濯ものを放り込む。
囲いのおかげで洗濯ものは流れていかないし、汚れが川に流れ出にくくなっている。
適当な石の上で布をゴシゴシこすりつければ、繊維の汚れを押し出せる。
石鹸でもあれば清潔になるのだが、石鹸はまだ贅沢品で貴重だった。
血で汚れたさらしを水につける。
固まっていた血が水分を含み緩んでくる。
軽く揉むと水の中に赤茶色が滲み、その模様で水の動きが目に見える。
さらしにうっすらと薄茶色のシミが残る。
緩んだ血が出なくなったので石にこすりつけ、繊維の奥の血を絞り出す。
剣の切っ先で穴だらけになった上着や肌着も洗う。
まだ日が高い。風通しの良いところに干せば乾くだろう。
陽の当たる枝に洗濯ものを干し、次に剣の汚れを落としにかかる。
鞘から剣を抜き、柄を水で洗う。
赤黒い汚れがヌルっとした感触に変わる。
適当な草で柄をこする。
滑り止めの模様に入り込んだ汚れを取ると柄の木目が見て取れるようになった。
刃の部分は砂でこする。
粒の細かい砂を選んで磨き込むようにこすると血脂が落ちて金属の地肌が現れた。
鞘を水に沈めて濯ぐ。
こっちの方は落ち着いてから掃除をしないとダメだろうと考えた。
剣を鞘に納め、腰ひもに吊るす。
枝の方に目をやると風に吹かれ布が揺れていた。
洗濯ものは小さいものなら、ほぼ乾いていた。
さらしで取り込んだ洗濯ものをまとめて肩に担いだ。
少し日焼けをしたのか頬が熱くヒリヒリした。
タコーが小屋に向かって歩いていると不規則でせわしない蹄の音が聞こえてくる。
この辺で蹄の音といえばコッカしか思いつかない。
ただ事ではないような、慌てているような、そんな音だった。
ふと盗賊のことが考えをよぎる。
洗濯ものをその場に置き、剣を抜き、低く構え、蹄の音のする方に速足で向かった。
息が上がる。
体力が戻っていない。
このままじゃ戦闘は無理だ。
だが、命の恩人の危機ならそんなことは言ってられない。まずい。
タコーは一思案し、風下に回り込むことにした。
少しでも危険度を下げるしか有効な選択がない。
もう少しで蹄の音に届くと思った場所に辿りつくとコッカが何事もなかったように佇んでいた。
「タコー様、どちらにいらっしゃいました?ささ、食事の用意をいたしますので小屋の方へ」
「あのー、コッカさん、今しがタ、けタタましい蹄の音が聞こえタような気がしタのですが」
「・・・そうですか?私の蹄の音が木々で反響したのかもしれませんね」
「そうかもしれません。そそっかしい方ですので」
「フフフ」
「ああ、洗濯物を忘れてきましタ。取ってきます」
「はい。行ってらっしゃい」
タコーは気づかなかったが、コッカの目には安堵の色が浮かんでいた。
タコーが小屋まで戻るとコッカが獲物を捌いて食事の用意をしていた。
その落ち着いた様子にコッカの言う通り何か勘違いだったかとタコーは思えてきた。
タコーは洗濯物をたたみ、食事の用意を手伝う。
コッカが嬉しそうに礼を言うとタコーは照れくさそうにする。
そのしぐさを見てコッカが小さく笑う。
鍋を火にかけ、出来上がるまで剣や道具の手入れをする二人。
そんな何気ない作業が今の二人にとって心地よいものだった。
タコーは砥石で剣を研ぎ、都度、刃の様子を確認する。
「タコー様、剣はどちらで修行したのですか?」
「故郷で基礎を教わりましタ」
「基礎ですか。では、そのあとは?」
「この国に来てからになるでしょうか」
「それで、あの腕前なのですか?お強いのですね」
「いえいえ、そんなことはありません」
「でも、背中からの傷は一か所だけでしたわ」
「はい、その程度の腕ということです」
「フフフッ、囲まれて、なお敵を皆殺しにできるお方はそうそうおられませんよ」
褒め言葉の意が伝わったのか、再び剣を研ぎ始めたタコーの顔は若干赤かった。
コッカは微笑みながら、矢羽の調整に取り掛かった。
いかがでしたか?
ゆっくりと過ごすふたりでした。
次話をお待ちください。




